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第77話 今後の進路

(ひめ)姉さん、ちょっとネットで買いたい本があるんですけどいいですか?」

「あら(ゆき)ちゃん、分かった。ちょっと待って」


 パジャマ姿の姫はそう言って自分の部屋にやって来た、やはりパジャマ姿な妹と話をするために、見ていた動画を一時停止させる。


「動画見てるんですか?」

「うん。言っとくけど、あたしは今勉強中なんだから」

「勉強……? 動画なのに?」


 姫はパソコンの画面を妹に見せた。画面にはとある進学塾が無料で公開している授業風景が映っていた。


「1.25倍速で塾の授業動画を見てるのよ。さすがに1.5倍速だとついていけないからね」

「へぇ、そうなんですか。そう言えば学校の成績はかなりいい方だって聞いてますけど、その秘密ってまさかこれですか?」

「そうだよん。授業でやるよりも先に中学で習うものは一通り覚えたよ。こっちの方が分かりやすくて覚えやすいかなー。進学塾って名乗る位はあるよ」


 普通の子より遊んでるはずなのに、なぜか勉強は人一倍できる姉。その秘密だった。




「姉さんは高校受験ですからねぇ。どこへ行くかもう決めてますか?」

「んー、あたしとしては中卒で株トレーダーになってもいいかな? って思ってるんだけど、お父さんお母さんが『せめて高校までは出てくれ』って頼み込んで来るから

 とりあえず高校までは行こうかなとは思ってるけど。通うとしたら……(ねぇ)ねの通ってる葉山二高かなぁ。後は大学行きたいわけじゃないけど進学校ってのもある。

 学力では一高にも余裕で行けるけどあんな事件が起こったからとても行く気にはなれないね」


 姉と兄が巻き込まれたあの事件を思い出しながら彼女は語る。

 思い出すだけで寒気がするもので、自宅に乗り込んできた相手は本気で狂っていてあそこまで「トンでしまっている」人間は初めて見た。

 本当に恐ろしい事に出会うと何もできなくなる、というのは本当の事だった。その中で良く兄は動けたなとは思っていた。


「あの事件ですか……兄さんは良く動けましたよね。私なんて頭が真っ白になって目の前で起こってる事がどういう事なのか、さっぱりのみこめなかったですし」

「あたしもあの時は悲鳴をあげる事しか出来なかったからねぇ。あんなことになっても動けるお兄ちゃんは本当に凄かった。そりゃお姉ちゃんも惚れるよ。

 ……話がズレちゃったわね。買いたい本があるって聞いたけど」

「!! え、ええそうです。こういう本なんですけど……」


 雪は姉にその本のタイトルをメモしたメモ用紙を見せた。姉は本の名前を使って検索を書けると書影、要は本の画像が出て来るが……。




「ふーん、またチョイスが渋いわねぇ。購入履歴見たら13歳の女の子には見えないわねぇ」

「姉さん、別にどんな本を読んでもいいじゃないですか」

「あー、ごめんごめん。いつものようにやっておくから代金と手数料、後で払ってちょうだい」

「はい、いつもやってくれてありがとうございます」

「たまにはドロドロなレディコミでも読んだらどう? 雪ちゃんもそろそろ、そういうのに興味が出て来る年頃でしょう? こってりした恋愛物も摂取した方がバランス取れるわよ?」

「け、結構です! からかわないで下さいよ!」


 真面目に話をしていると思ったら急にからかって来る。アウトカーストという意味では自分とは共通だがオタク(ギーク)な姉は相変わらずつかみ所が無い。

 妹をからかって楽しそうにしながら注文を終えた。




 その後、そろそろ寝る時間が近づいてきた時、姫は両親と約束した時間になったので3人しかいない居間へとやって来た。今後の進路について、大事な大事な話し合いだ。


「お父さん、お母さん。この前の続きで進路のことだけど……」

「姫、あなたがすぐにでも働きたい、という気持ちはよく分かったわ。それは尊重する。でもせめて高校は出てちょうだい。いくら何でも中卒は勘弁してほしいわ。

 本当は大学にも行ってほしいと思ってる。けどお父さんもお母さんもそれだと、あなたのためにはならない。っていうのは理解してるつもりよ」

「姫ちゃん、君は数ヶ月で株トレーダーとしてだいぶ成長しているのは分かる。でもせめて高校だけは出てくれないか? 世の中には学歴でしか相手を評価しない人なんてたくさんいる。

 姫ちゃんにとっては学歴は大事じゃないかもしれないけど、学歴が全てだという大人は世の中に山ほどいる、いやそれがほぼ全てだと言ってもいい位だからな」


 両親ともに前回の話し合いで言ってきた「せめて高校までは行ってくれ」というお願いが出てきた。

 今時中卒じゃ万が一仕事がダメになった時や、バイトする必要が出てきた時に足かせになる。それを防ぐ意味もあった。


「……とりあえず高校には行くつもりよ。どこがいい? あたしはお姉ちゃんのいる葉山二高か、大学行くわけじゃないけど進学校に行くかのどちらかだとは思ってるけど」

「そう。高校には行く気が出てきたのね?」


 姫は母親に向かってコクリ、とうなづいた。それを見て彼女の両親は大きく安堵した。


「姫ちゃん、お父さんたちのワガママかもしれないけど聞いてくれてありがとう。今は分からないだろうけど絶対高校まで行って良かった、と思えるようになるから」

「姫、お母さんはあなたが高校に行く気になっただけでも良かったわ。その代わり高校を出たら好きにしていいわ。株トレーダーでも何でもやって見なさい」

「うん分かった」


 親にとっては最も心配な事である「子供の進学について」だが一応の解決はしたので2人とも安心したそうだ。




「親の要求を呑んだ。って事になるのかなぁ?」


 自室に戻った姫がベッドに入って眠りに落ちるまでの間、1人そうつぶやく。自分としては中卒で株トレーダーになろうと思っていたのだが、両親の猛反対を食らった。

 彼らは出来れば娘を大学まで行かせたかったそうだが、姫が食い下がるものだから結局「せめて高校までは出てくれ」と譲歩したのでそれに乗っかる形となった。

 高校を卒業したら後で大学に入りたくなっても問題ない、としたのだろう。

 双方100%納得とまでは行かなかったが「落としどころ」を上手く見つけられた形にはなった。


 姫も両親は普段の生活をサポートしてくれているから、何でもかんでも我を通すというのはいただけないし、譲歩もしてくれたので今回要求を呑む。という形になった。

 親子関係って難しい。これが他人だったらどれだけ楽な事か。そう思っているとだんだん意識が引いて眠りについた。

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