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第74話 お付き合い始めませんか?  その2

「……」


 小学校での授業中、マサルは自分の席から2つ横にいる(あきら)をチラチラと見ていた。

 小学2年生の頃からお互いを知る仲で、一緒に育ってきたのだが最近の彼女はスカートをはくようになって、かなり女らしさが出てきた。

 明が女なのは昔から知っていたが、最近は彼女のしぐさの一つ一つにドキリとする毎日だ。


「……サル、マサル!」

「!! は、はい!」

「ボケッとしてるんじゃないぞマサル! この問題に答えられるか!?」

「え!? は、はい! それは……それは……わかりません」


 クラス内で失笑がもれる。


「授業はきちんと聞くように。マサルみたいになりたくなければな」


 担任の教師は「授業を聞かない問題児連中」にくぎを刺す目的でマサルをあえて吊るし上げにする。

 かなり意地の悪い事だが長年の教師生活の中で悪ガキども相手でねじ曲がったのだろう。




「……」


 授業と部活動が終わった放課後、マサルは帰り道の途中で1年前倒しで親に買ってもらったスマホで質問サイトを巡回していた。

 自分の質問に回答が届いており、その内容は「同じ」と言うべきものだった。


(やっぱり俺……明の事が好きってことになるな)


 考え抜いて、および質問サイトで聞くだけ聞いて導き出した結論はそうだった。彼は自宅に戻り荷物を整理した後、意を決して明の家へと向かった。


「あらマサル君、珍しいじゃない。いつも明が世話になってるわ」

「良いんです、(ゆき)姉さん。明はいますか?」

「うん、いるわよ。呼ぶ?」

「いや、いいです。おジャマしますね」


 ここまで来たら怖気づいて逃げ出すのはカッコ悪い……ルビコン川はもう渡った。もう引き返すことは出来ない。

 心臓の鼓動がバクバクと音を立てて鳴るのを感じながらも明の部屋へと向かった。




「よおマサル。お前がウチに来るなんて結構珍しいな。何かあったのか?」

「あ、明……いいか? その……ものすごく大事な、話がある……んだ」

「何だよマサル、そんなにかしこまって。らしくねえぞ」

「……」

「? どうしたマサル、急に黙り込んで。何かあったのか?」


 事態をまだ飲みこめていない明は急に黙り込んだマサルに「どういうわけか様子がおかしい」位しか思っていなかった。


「明……よく聞いてくれ」

「だから何だよさっさと言ってくれよマサル」

「お、俺……明の事が好きだ!」

「!!」


 やっと言えた。あとは相手次第だ。


「そ、それって……」


 相手も「見守っていた者たち」も愛の告白だと思っていたのだが……。


「……どういう事?」


 明から出た言葉は、よりにもよってそれだった。マサルは空気が抜けていく浮き輪みたいに、力が抜けてしまう。




「「「このバカアアアアアア!!!!!」」」


 と同時に明の何も分かってないセリフを聞いて、盗み見していた(ひめ)霧亜(きりあ)と雪が部屋になだれ込んだ。その表情はみな、怒りであった。


「!? 何なんだよお前ら!」

「明! アンタはラノベの難聴系主人公なの!? マサル君がせっかく告白したのにそんな言い方はないじゃない!」


 姫は明のあまりにもの鈍さに、いい意味では使われない「難聴系主人公」と言って大いに非難する。


「ごめんなマサル君。明ったら女らしい所がこれっぽちも無くて恋愛ごとには一切興味なしでさぁ。せっかく告白したのに全然分かってないようだよ。マサル君が悪いわけじゃないからね」


 霧亜は「明に全然伝わってないからダメだった」と思っているマサルに、そうではない。明に問題があると優しく諭していた。


「明ってば本当に鈍いんだから。せっかくマサル君が告白してきたのに、あっさりかわすだなんて。マサル君、がっかりしないで。明ってば恋愛ごとに関してはビックリする位関心が無くて……」


 雪は落ち込むマサルに明の恋愛感情の無さを教える。




「おめーら! じゃあオレは何すればいいんだよ!? こんなの誰も教えてくれなかったじゃねえか!」

「明! だからアンタはアホなのよ! 保健体育でその辺の事学ばなかったの!?」

「明! 悪い事は言わん! マサル君と付き合うようにしなさい! そうしないとマサル君が報われないじゃないか!」

「明ちゃん! いくら何でも鈍すぎるわよ! 好き嫌い以前に恋愛感情が分かってないなんて!」


 ごねる上に恋愛感情の一切ない明に対し、姉たちはたたみかける様に叱る。まるで明が「罪悪感無き犯罪者」であるかのように。


「べ、別にオレ好きとか嫌いとか分かんねーよ。そんなの考えたことも無いし」

「……」


 鈍い鈍くない以前に根本的な部分で分かってない明に姉3名はハァッ。と大きなため息をついてうなだれてしまう。


「明、凛香(りんか)お姉ちゃんが言うにはもうすぐ近所でクリスマスイルミネーションの点灯式があるそうだからマサル君と一緒に行きなさい。自転車で行ける範囲内だから必ず行きなさい」

「え、でもオレそんなの見たって……」

「行 き な さ い。これはお姉ちゃんからの命令だから従いなさい。妹は姉の言う事をしっかりと聞くものよ? 言っとくけど拒否権なんて無いんだからね! 分かったら予定空けときなさい」

「オイオイ姫姉(ひめねぇ)、そんな一方的な命令なんてねえだろ? 霧姉(きりねぇ)雪姉(ゆきねぇ)も文句ないわけか?」


 姉である姫からの一方的な命令を受け入れがたい明は、霧亜と雪に意見を聞くが……。


「明、悪い事は言わん。姫姉さんの言う事に従いなさい。ボクも(すばる)と一緒にイベント行くからついてきなさい」

「明ちゃん、今回ばかりは姫姉さんの意見を全面的に支持するわ。あまりにも無知すぎるのは悪い事なんだからね?」


 もう2人の姉も姫と同じようなものだった。




「ごめんねマサル君。あたしらお姉さんたちはマサル君との恋愛を全面的に応援するから、困ったことがあったら遠慮せずに言いなさいね。明にはしっかりと言っておくから落ち込まないでね」

「は、はぁ……」

「明。 今回のプロポーズは受け入れたという事にするからね? マサル君をがっかりさせるような事はもうしないでよ、いいね?」

「は、はぁ……」

「じゃ、マサル君、後はごゆっくり」


 姉たちは去っていった。


「ったく、何なんだあいつらは……マサル、さっきの話だけどとりあえず今のままの関係で良いか?」

「……わかったよ。よろしく」


 マサルはそうつぶやくように言う。そこにはくじでハズレを引いたかのような残念さがあった。

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