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第67話 どいつもこいつもチョコ! チョコ! チョコ!

 10月16日、凛香(りんか)の誕生日がやって来た。林太郎(りんたろう)は家に帰って一息ついてからプレゼントを渡そうとしてたのだが……。


「おはよう」

「あ、凛香さん! お誕生日おめでとうございます! これ、受け取ってくれますか!?」


 凛香が彼女の脇侍(サイドキックス)たちにあいさつすると取り巻きたちがカバンから取り出したのは……チョコだ。


「あら、気が利くじゃない。ありがとね」


 凛香は上機嫌でそれを受け取り、カバンの中にしまった。


(あちゃー、被ったか。まぁいいか)


 この時の林太郎は「まぁこんな事もあるか」と「偶然の産物」だと思って気にしてはいなかった。だがそれでは説明の付きようが無い事が起こることになる。




 放課後……凛香は林太郎と一緒に帰ろうと自分の靴箱を開けると……。



 ドサドサドサッ。



 中からメッセージ付きの包装されたチョコレートが4つも出てきた。

 彼女は林太郎と付き合ってると公言しているのだが「ダメになった時の後釜狙いでアプローチをかけ続ける男」も少なくない。そいつらの物だろう。


「ま、またチョコか……」

「? どうしたのお兄ちゃん? なんか動揺してるみたいだけど?」

「い、いや。別に何でもない」


 また被った。さすがにちょっと雲行きが怪しくなるのだが、自宅に帰ると情けも容赦(ようしゃ)もなく追い打ちが入り、その雲行きの怪しさは最高潮に達する。




「「「「「ハッピバースデーディア凛香ー。ハッピバースデートゥーユー」」」」」


 凛香の誕生日を祝ってバースデーケーキやチキンでお祝いする家族だったのだが……。


「凛香姉たん誕生日おめでとー。ハイこれプレゼント(はぁと)」


 (ひめ)がプレゼントした物も……。


「やあ凛香姉さん、16歳の誕生日おめでとう。もちろんプレゼントもあるよ」


 霧亜(きりあ)がプレゼントした物も……。


「凛香姉さん。お誕生日おめでとうございます。ささやかな物ですけどプレゼントも持ってきました」


 (ゆき)がプレゼントした物も……。


凛姉(りんねぇ)、今年はきちんとした誕生日プレゼント、持ってきたぞ」


 (あきら)がプレゼントした物も……。


「凛香ちゃん、誕生日おめでとう。喜んでくれるか分からないけどプレゼントも用意したぞ」


 父親の栄一郎(えいいちろう)が用意したプレゼントした物も……。


「凛香、あなたも今年で16歳ね。そろそろ大人の仲間入りって所かしら。もちろんプレゼントもあるわ」


 母親の江梨香(えりか)が持ってきたプレゼントした物も……。




 全 部 チ ョ コ だ っ た。




 さすがの林太郎も、折れた。それこそボッキリと根元から。誕生日パーティを途中で抜けて一人、部屋でいじけていた。


「ハァーア。こんな事になるなら朝に渡しとくべきだったな。バカみてぇ……」


 ラッピング包装されたチョコを見てハァッ、と深いため息をつく。

 せっかく苦労して、さらには店長の情けでようやく購入できたというのに、それまでの苦労が酷くバカバカしく「滑稽(こっけい)な一人芝居」に思えた。

 このチョコどうしよう……見つめながらそう思っていた時、


「お兄ちゃんどうしたの? 何かあった?」


 誕生日パーティが始まってから急に態度が悪くなった兄を心配して、凛香が彼の部屋にやって来た。


「……別に、どうもしねえよ」

「そんなわけないでしょ!? 何かあったんじゃない? 正直に言って!」

「……凛香、お前には分からない事だよ。構わないでくれ」

「お兄ちゃん! いじけないでよ! お兄ちゃんらしくない! どんな事でも良いから素直に言ってちょうだい! 怒らないし妬まないからお願い!」


 妹に強い口調で説得されて渋々兄はラッピング包装されたチョコを渡した。


「これ、誕生日プレゼントだ」

「あらお兄ちゃん、用意してくれたんだ!」


 彼女は包装をはがすと……。


「!! これ『コティパ ゴールドコレクション』じゃない! 高かったでしょ?」

「俺のほぼ全財産を注いで買ったんだ。でもチョコなんてもうウンザリだろ? 店が開ける程もらってるじゃないか。今更もらったって嬉しくないだろ?」

「大丈夫。チョコなら無限に食べられるから。お兄ちゃんありがとうね」


 そう言って彼の頬にキスをした。


「大切にするから安心していいよ」


 演技や嘘の気配が一切ない彼女はにこりと笑って林太郎の部屋を後にした。




 あれだけチョコもらったのに、何であんなにも嬉しそうなんだ……? わけが分からないままポカンとしていた彼のもとに霧亜がやって来た。


「見させてもらったよ。いやぁ……お熱い事で」

「見てたのか。まぁいいや、凛香の奴あれだけチョコもらったのに何であんなにも喜んでたのか分かるか?」

「あれ? 兄くんは知らないの? 凛香姉さんは大のチョコ好きなんだよ。

『メーカー単位どころか商品単位で別腹がある』って位好きで、365日朝昼晩がチョコでも飽きないって言ってたんだよ? 知らなかった?

 去年は『誕生日プレゼントのチョコは渡された人の数だけ別腹がある程だからいくらでもいける』って言ってたしね」

「!? な、なんだって!?」


 女はチョコが好きと言ってたがそこまで行くとは……。


「あれだけ喜んだ凛香姉さんを見るのは中々ないからなぁ。兄くんのプレゼントは大正解だと思うよ」

「そうか、いや助かったよ。みんなチョコをプレゼントするから喜んでくれるか心配だったんだよ」

「だから誕生日パーティであれだけ落ち込んでたんだ。まぁ兄くんがその気持ちになるのも分かるなぁ」

「気づいてたのか?」

「余程の鈍感でも分かる位の落ち込みだったよ。ま、姉さんは喜んでたから良いんじゃないの? じゃあね」


 壮大な被りがあったが、結局林太郎のプレゼントは大成功だった。

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