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第66話 凛香へのプレゼント

 放課後……林太郎(りんたろう)は自宅からの最寄駅から1つ隣のエキナカにやって来た。


 とある国の王室御用達にもなっているほどの世界的に有名な高級チョコレートブランド「コティパ」

 そのアンテナショップが林太郎が行ける範囲のエキナカに出来たと聞いて早速やって来たのだ。


(チョコレートか……まぁ甘いものは定番だよなぁ?)


 もうすぐ凛香の誕生日である10月16日があと1週間後に近づく。男らしくきちんとした贈り物を届けよう、というのが目的だ。

 スマホをフル活用して情報を集め、さらには彼女持ちの不良からも聞き出した結果、チョコで良い。となったのでせめて高級な物を、というわけだ。

 今回は視察のためにどういう物がいくらで売られているかを調べるのが主な目的だ。


「いらっしゃいませ。お客様は何かお探しのご様子と見受けられますが、どういう物をお求めでしょうか?」


 店舗内をキョロキョロと見ていた林太郎に、店長らしき壮年の男が察して話しかけて来る。

 高級チョコを売る店舗担当なだけあって、いかにも格式が高そうな服にはシミやシワそれにヨレが1つも無く、また背筋もピンと伸びていて付け入るスキのなさが見ていて伝わってくる。

 不良の高校生からしたら、あまりお近づきになりたくない雰囲気に満ちていた。


「恋人の誕生日にしっかりした贈り物をしたいんで何か良さそうなのはありますかね?」

「そうですか。ではこちらなどいかがでしょうか?」

「『コティパ ゴールドコレクション』か……!? 税込み5500円!? 高っ!」


 不良の高校生にとっては高嶺の花だ。


「ちょっと今日は持ち合わせがないんでまた別の機会でいいですか?」

「もちろんですとも。またのご来店をお待ちしています」


『金額にビビッて逃げ出す不良の高校生』という情けない奴にもペコリとお辞儀をして見送るのはさすがだ。




 その日の夕方。食事中に「食後に用がある」と一言言った通り、林太郎は(ひめ)の部屋へと入ってくる。


「姫、今入っても大丈夫か?」


 彼はそう言うと「良いよ」と中から声がした。部屋を開けると本棚にはアニメ、ゲームの雑誌がしまわれており、トレードに関する本も少々あった。

 10月になってもクーラーがガンガンかかっており、少し肌寒い。

 他の姉妹や親にバレなかったのは幸いだが、お風呂場であの出来事があったのでこうして面と向かって話し合うのはお互いに避けていた。

 それでも頼みごとをするためにやって来たのだ。


「それにしても兄たんどうしたの? あたしに用って珍しいねぇ?」

「これを頼みたいんだ」


 その両手にはボクシングにまつわる雑誌があった。


「こいつをオークションサイトで売ってくれないか? まとまったカネが必要なんだ」


 そう言って、持っていた「ボクシングマガジン The ビート」を全部姫に差し出した。


「ふーん。珍しい雑誌じゃない。手数料20%で手を打つわ」

「!? 何ぃ!? カネ取るのか!? ま、まぁそうだろうけど。領収書はしっかりと出してくれよな」

「もちろん。お金のやりとりは人類が揉める原因でダントツの1位だから抜かりの無いようにしとくわ。あとは任せといて」


 そう言って彼女はパソコンでやり取りを始めた。




 数日後……無事に雑誌は売れて手数料を引いた額の売り上げを姫から渡された。


「……これで5623円か! よし! 行ける!」


 林太郎の全財産をはたいての買い物をしようとしていた。自転車に乗って店へと向かう。


「『コティパ ゴールドコレクション』をください!」


 林太郎は声を大にしてそう注文した。しかし……。


「こちらですね。お会計は『5980円』となります」


 ……? 確か5500円だったはず。なぜ値上がりしてるんだ?


「あ、あの。前に寄った時は5500円のはずだったんですけど?」

「お客様、ご存じでないのですか? 今週から全商品の値上げをいたしました」

「何ぃ!? 値上げだと!? 聞いてねえぞそんなの!」

「こちらとしては事前に告知していましたよ?」


 先週に初めて訪れた際には商品の値段ばかりインパクトがあって、値上げする告知は全く視界に入っていなかった。


「彼女の誕生日が明日なんだ! 頼む! 全財産出すから!」


 林太郎は全財産を差し出して訴える。無駄だと分かっていたがその時の彼はそうするしかなかった。


「申し訳ありませんが当店では値引き交渉は行っておりません。お金を用意してまた来てください」


 無情な言葉がかけられる。すると林太郎はYシャツを脱いで差し出す。


「この服を売っていくらかのカネに当ててくれ!」


 服を売って支払いに充てる。という無謀にもほどがある事をしだした。

 見かねた店長らしき男はサイフから500円硬貨を取り出し、林太郎が出した全財産の上に置く。


「深い理由があるにせよお金が無い以上は商品をお渡しすることは出来ませんし、値引き交渉も受け付けておりませんし、ましてや質屋まがいの事はできません。

 ただ、それとは別に私はどういうわけかお金に困ってる苦学生を見ると無性にお金をあげたくなるんですよね」

「アンタ……まさか……」

「6123円お預かりします。おつりが143円となりますね。品物はこちらになります。今ならラッピング包装は無料で出来ますがいかがいたしますか?」

「!! は、はい! お願いします!」


 店長の粋な計らいで、何とかチョコレートを買うことが出来た。

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