第65話 ファーストコンタクト
「そうか。凛香の奴、林太郎なんかと付き合ってるわけか」
文化祭が終わって2日後の放課後、自分とその取り巻きしかいない教室で皇帝は手下が仕入れてきた情報を聞く。
あの凛香がよりによってあの林太郎なんかと……聞いた時は意外だったがハエのようにうっとうしいと思ってたやつだ。
ちょうどいい。どちらが格上か『躾』するにはいい機会だ。
「あの不良の林太郎がらみって事はもう全力で行くしかないな。ウザけりゃ最悪殺っちまうか」
「か、皇帝さん。それってどこまで本気で?」
「言葉通りだ『殺害する』って意味さ。なぁに大丈夫だ、オレは中学の頃に殺しは経験済みだ。今更死んだ人間の数が増えるだけでそれが何か? って奴だよ」
「……」
さすが皇帝さん、殺しを経験済みだとは。ゾクリとする何かが手下の背筋を走る……やっぱりこの人は常人とは違う何かを持っていると悟った。
「とりあえず最初だ。軽ーくジャブ打ってこうか。1組に行くぞ」
そう言って2人の側近を連れて皇帝は林太郎が所属するクラスである1年1組に向かった。
やはり1年3組の教室同様に誰もいなかったが、もちろんただ行くわけでは無くとある仕掛けを施した。
── 翌朝 ──
文化祭の余波も無くなり、いつものような授業を受ける日々が戻ってくる。登校してきた林太郎が自分のイスに座った、次の瞬間!
「!! ぐうあああ!? 痛って!」
尻に激痛が走って思わず飛び上がる。よく見るとイスの上に画びょうが5個置かれてあった。しかも確実に先が尻に突き刺さるようにセロテープで固定されている、悪意のある物だった。
「な!? 何だこれ!? 誰がやったんだ!?」
犯人の手がかりは机の中に入っていた。
「凛香と別れろ」
ノートの切れ端にそう書かれてあった。
「誰の字だ? みんな、この字書いたの誰か分かるやつはいるか?」
「あ、知ってる。こいつは皇帝の字だ。サインの字とそっくりだぜ」
「!! なにぃ!?」
あっさり割れた犯人。もちろん彼が黙っているわけがなかった。
「おはよう、皇帝」
林太郎率いる不良一同は3組の教室で彼の登校を待っていた。その目には、怒りの感情が込められていた。
「皇帝。俺のイスに画びょうを置いたのはお前の仕業なんだな?」
「へぇ。不良なんていうカスにしては中々推理力はあるんだな、びっくりしたよ。そうだ、俺からのあいさつ代わりだ」
「へー、認めるのか。随分と素直じゃねえか。凛香が聞いたらどうなるか分からない程のバカなのかお前は?」
相手の「俺は悪い事なんて一切してません」と言いたげな表情と態度に林太郎はますます怒りがわいてくる。
「別に言いたきゃ誰に言っても構わないぜ。ただ不良なんていうダニの言う事信じる奴がどれだけいるか、見ものだなぁハハハ!
それに安心しろ。反抗的な態度をとる生意気な女を調教で屈服させて従がわせるのが恋愛の醍醐味ってやつだからさ。
あのクソ生意気な凛香でもオレの手にかかればご主人様と呼んでご奉仕させるようになるから安心しろや」
女を調教するのが恋愛度の醍醐味、というセリフをさも当たり前のように言い放つ皇帝には罪悪感の類はカケラたりとも無かった。
「俺相手ならともかく、凛香に手を出したらただじゃ済まねえからな」
「へぇ、無料じゃ済まねえと来たか。いくらなら済むんだ? 1万円か? 3万円か?」
タダじゃ済まない。という脅しに悪びれる様子もなく皇帝はへらへらと笑っていた。
キーンコーンカーンコーン
その時、朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴った。
「おおっと、時間だ。お話するなら別の機会にしてくれませんかねぇ?」
「チッ。しゃあねえ、また今度だ。言っとくが凛香に手を出したらタダで済むと思うなよ」
不良グループは皇帝の前から去っていった。




