第6話 スクールカースト1軍対林太郎
(? アイツ、どこ行ったんだろう?)
学校の昼休み。弁当を食べた凛香は、髪の毛が銅色をしてすぐわかるはずの林太郎がいないことに気づく。
母親が結婚するまでは特に気にしてはいなかったが、今の彼は義理とはいえ兄。完全に無関心、というわけにはいかなかった。
彼女は以前だったら視線にも入れなかった、クラスの隅に固まっている不良グループに声をかける。
皆、耳や口に校則違反のピアスをつけて目つきが悪く、普通の生徒からしたら近寄りがたい風体をしていた。
「ね、ねぇアンタたち。林太郎がどこ行ったか教えてくれない? アンタたちならアイツと仲がいいから知ってるんでしょ?」
「おやおや、これはこれはカースト1軍の凛香さんじゃねえか。珍しいこともあるもんだな」
「頭よさそうな見た目してるけど、頭の中はお兄ちゃんの事でいっぱいなんじゃねぇの? ハハハッ」
彼らはゲスな笑い声をあげる。あのお高くとまってる凛香さんが俺たちみたいな連中に頼み事か。
しかもよりによって義理の兄である林太郎関連。あんなツラして実はお兄ちゃんが大好きなのか? とゲラゲラ笑いながらからかう。
「からかわないでよ! あんたたち、いつも林太郎とつるんでるからどこ行ってるかくらいは分かるでしょ!?」
「オーケーオーケー、分かったよ。他でもねえ凛香さんのお願いときたら断るわけにはいかねぇな。林太郎なら昼休みはよそのクラスを巡回しているよ。今日は先週行ってなかった3組にいるんじゃねぇの?」
「そ、そう。ありがとう」
彼女はそう言うと1年3組へと向かった。不良の連中は「あいつデキてるな」と言い合っていたそうだ。
「オイ昴、オレンジジュース買ってきてくれ」
「ああ、俺の分もな。牛乳を頼むわ」
スクールカースト上層部が下層市民に命令する。上層部からの命令は下層市民からしたらいかなるものでも絶対だ。
「……」
他のクラス、具体的には1年3組の「巡回」をしていた林太郎は彼らの話を盗み聞ぎしていた。
このパターンだとおそらくああなるだろう、という林太郎の予測通りの事が起こった。
オレンジジュースと牛乳を買ってきた昴にスクールカースト上層部が殴りかかる。
「オイ昴! 何勝手にオレンジジュース買ってくるんだ!? 俺はコーラ買って来いっていたんだぞ!?」
「そうだそうだ! 俺も牛乳買って来いって言った覚えは無いぞ。フルーツ・オレを買って来いって言ったんだぞ!」
特に理由のない、あるとしたら「スカッとするから」行われるカースト3軍へのいじめだ。一部始終を聞いていた林太郎は救済のために動き出す。
「オイ、その辺にしとけよ皇帝とやら」
スクールカースト1軍、中学時代からプロのモデルをしているほど容姿が整い、スラッとした背の青年である皇帝が昴を殴ろうとした腕を林太郎はつかむ。
「何だお前。まさかとは思うけど俺を殴るつもりなのか? 暴力をふるうなんて野蛮人のやる事だよなぁ」
「……この野郎。テメェは相手を殴っといてその言い方はなんだ!?」
「コラ! 林太郎! 何をやってるんだ!」
そこへ偶然現場を目撃した教師が林太郎に向かって怒鳴る。
「言っとくけど俺は殴ってないぞ」
「うるさい! いいから来い!」
林太郎は「殴っていない」と主張するも教師はズカズカと歩いてきて林太郎の腕をつかんだ。
「言っとくけど俺はいじめなんて一切やってないからな」
「!? 何ぃ!?」
「俺はいじめなんて一切やってない」
もしここで皇帝の両親がいたとしたら、彼らの耳は「信じられない!」言葉を聞き、直後後頭部をバットのフルスイングでガァン! と殴られるような衝撃が走っただろう。
「これはいじめじゃないよ『イジリ』だよ。昴はイジられキャラだからいじってるだけで、いじめをやってるわけじゃない。
っていうかいじめは犯罪だって事は知ってるよ? そんな犯罪行為に手を染めるだなんて言いがかりにもほどがあるだろ! これは『イジリ』だから良いの」
「……!!」
頭に血がグワッ! と上るのを感じた林太郎は、教師の制止を振り切っていじめを行っていた皇帝の顔面に1発、鉄拳を叩き込んだ。
(!? あれは……林太郎!?)
凛香がかけつけた時には林太郎は既に先生に連れていかれてるところだった。
「林太郎! また何かやったの!?」
話を聞いてやってきた凛香が怒りと呆れの混ざった感情を出しながら義理の兄にそう言う。
「よそのクラスの昴っていう子がいじめられていて、それを俺が止めたんだ。
先公は終始いじめをやってるやつの味方だし、そのいじめた皇帝とかいう奴は「いじめが犯罪なのは知ってる。俺がやってるのは『イジリ』だからいいの」だってよ。到底信じられん神経してやがる」
「!!」
「林太郎! 無駄話はやめろ! さぁ来るんだ!」
教師は林太郎を連れて生徒指導室へと入っていった。