第53話 文化祭の出し物
その日は10月に行われる高校の文化祭の出し物について、放課後に林太郎や凛香を含めたクラスメートたちが残って、意見の出し合いが行われていた。
時刻は午後4時。午後3時の帰りのホームルームから1時間ほど経っていた。
「よーし! 長かったが最終的な案としてピザ屋とダンスステージが残ったわけだが、最後にどっちにするかの意見を聞こうじゃないか!」
今年31歳になる「先生としては比較的若い」1年1組を担当する『岡田先生』と来たら並みの生徒以上に張り切っているのが誰から見ても分かる中、最終候補に残ったのは「ピザ屋」と「ダンスステージ」の2つ。決戦投票が行われる。
「ではピザ屋が良い人は手を上げてください」
学級委員長のセリフを合図に30人のクラス中14人があげた。林太郎と凛香もその中に入っている。
「ではダンスステージが良い人は手を上げてください」
今度は12名が手を上げた。手を上げなかった4名は「お任せ」という形でカウントしなかった。
「ではピザ屋をやる事で決定しますね」
とりあえず「ピザ屋」を出すことで決定した。
ピザ生地はどうするか? 具材はどうするか? 調理方法は? クラスメートたちの当日の配置は? などの話し合いはまた後日となった。
ようやく家に帰れるとホッとしたクラスメートに混じって、林太郎と凛香は並んで登校口まで腕を組みながら2人一緒に歩いていた。
「ピザ屋かぁ。どうせ凛香は接客担当で俺みたいな不良は焼く係だろうけどよぉ」
「フフッ。頑張ってねお兄ちゃん。ピザを焼くのも立派な役よ? いなけりゃピザが届かないし」
「凛香にそう言われちゃ兄としては頑張らなくちゃいけないなぁ、まぁ任せとけ」
「へー、そんなこと言うんだ。兄としての自覚出てきた?」
「昔『アンタの事お兄ちゃんとかそういういい方はしないからね』って言ってたのがウソみたいだなぁ」
「昔はお兄ちゃんの事知らなかったからとげとげしい態度してたけど今は違うからね」
他愛のない事を言いながら帰る2人を陰からのぞいていたクラスメートは……。
「うわぁ。相変わらずお熱い事で」
「教室出てからはずっとあんな感じなんだ」
「凛香さん、よりによって何であの不良の林太郎なんかと……」
「良いのかしら。あの2人兄妹なのに」
最初こそ林太郎はそれなりの反応をしてくれたが、今では2人とも付き合ってるのをネタにしてイジろうとしても全く相手にしないのでイジりがいが無く、
彼らを生温かい目線で見守る位しかできなかった。
林太郎と凛香の2人が家に帰ると、高校の文化祭の話になる。
「へー、姉たんピザ屋やるんだ。良いなぁ高校は。うちの中学は運動会はあるけど文化祭が無いんだよね。先生たちの頭が『主婦の財布のヒモ並みに』固いからねぇ」
「良いなぁ兄くんに凛香姉さんは。ボクの中学は進学校にしたいらしくて『文化祭やってる暇があったら勉強して難関校に受かれ』ってさ。嫌になるねぇ」
姫と霧亜は文化祭の無い中学の悪口を言ってばかりだ。他の市内の中学はやっているそうなので、相当根に持っているらしい。
「文化祭当日は絶対姉たんの店に行くから待っててね」
「ボクも行くよ。どんな店になっているか期待してるからね」
「あらそう。私は多分接客担当になるだろうから店に行けば当日は大体会えると思う」
「姉たんはやっぱりウェイトレスの格好をしたりするわけ? リアルコスプレじゃん、いいなぁ。あたしもやってみたいなぁ。こう見えて胸には自信あるんだよ?」
「……またその自慢かぁ」
姫の胸は確かにでかい。男は胸がでかければいいらしいが、昔はそんな男を見下していたものだ。お兄ちゃんはそうじゃないよね? とふと疑問に思ったのは凛香だけの秘密だ。
「私のクラスだとクラスメートよりも先生が張り切ってるから……どうなんだろ」
「ハハハッ、姉たんの先生面白いなぁ。あたしもそんな先生に当たりたいなぁ。今の先生はガチャでそこそこ当たりだろうけど」
「姫ったら……まぁアンタらしいわね」
学校も家も遊び場にしている姫らしいセリフだ。教師ガチャなんていうセリフ、よく思いつくな?
「凛香、姫、霧亜。出来れば夕食作り手伝ってくれー」
「うん、分かった」
3人は立ち上がって夕食の鍋作りをしている栄一郎父さんを手伝うことにした。




