第47話 お風呂場で襲撃
凛香が母親に相談するよりも少し前に時間はさかのぼる……。
「ふー」
林太郎が風呂に入ってくつろいでいる時に、姫がやって来た。
「お兄ちゃん入ってるのね。私も入るから」
「おーそうかそうかお前も入……!? ちょ、ちょっと待て!」
一糸まとわない姿で、姫が林太郎が入っている浴槽へと入ろうとしていた。
林太郎にとっては初めて見る、本物の女の身体。でかい胸やその胸元、陰部にはもちろんボカシやモザイクの類は一切無い。
「姫! お前何考えてるんだ!?」
「そりゃあ、妹が兄を襲う場所としてはお風呂場が相場じゃない。いわゆる『既成事実』さえ作っちゃえばこっちの物でしょ?」
「バカ言ってんじゃねえ! そんなことしたらお前学校に居られなくなるだろ!?」
「愛さえあれば関係ない話よ。私、お兄ちゃんの事が大好きだもん。好きって言っても『Like』じゃないからね『Love』だからね。真剣な話よ!?
できれば結婚して子供は最低4人以上いる家庭を築く所まで行きたいって思ってるからね!」
姫がそこまで言い切って林太郎の上にのしかかろうとしてくるが……。
「止めろ!」
彼は反射的に彼女を突き飛ばして止めさせる。
「痛っ!」
その衝撃でどこかを強く打ったのだろう。彼女の顔が痛みで歪む。
「姫! 大丈夫そうなら出て行ってくれ! さっさと服を着ろ!」
「お兄ちゃん、お兄ちゃんは凛香お姉ちゃんのことが好きなんでしょ?」
「い、いや、別に……」
「じゃあお兄ちゃんをちょうだい! 私、お兄ちゃんが欲しい! 言っておくけど、本気だからね」
「!! そ、それはダメだ!」
「ダメってことはお兄ちゃん、凛香お姉ちゃんのことが好きなんでしょ?」
「い、いや、それは……その……」
林太郎は口をもごもごとさせて黙り込んでしまう。
「私にはわかるよ、お兄ちゃんが凛香お姉ちゃんを好きな事ぐらい。だってお姉ちゃんのお墓参りで一緒に食事して帰って来た時、凄く楽しそうだったし。
あの時のお姉ちゃんに嫉妬してたのは、あの時のお兄ちゃんがどれだけ楽しい食事をしていたのに気づいていたのは、雪ちゃんだけじゃないからね」
「……」
今でもよく覚えている。墓参りの帰り道に一緒に寄ったレストランの料理は、今まで食べてきた物の中でもダントツの1位であろう絶品だった。
当時はよく分からなかったが今では分かる。凛香と一緒に食事をしていたからだ。あの頃から、いや本当はもっと前からかもしれない。
その頃から林太郎は、凛香の事が……好きだったのだ。
「お兄ちゃんは凛香お姉ちゃんが好きなんでしょ? だったらあたし一時的だけど諦めてあげる。その代わり、もしお兄ちゃんと凛香お姉ちゃんの仲が悪くなって別れたら、その後釜にあたしが入るからね。
私、待ってる。お兄ちゃんとお姉ちゃんが仲が悪くなって別れるまで、ずっと待ってるから」
半分涙声になっている声でそう言って彼女はとぼとぼとした足取りで風呂場から出て行った。
風呂場で1人になった林太郎は、ようやく気付いた……凛香の事が好きだ、と。
雪の事は「彼女の勇気を断る勇気が無かった」から認めてしまったことで、本心から好きだというわけでは無かった。彼女は本気だったかもしれない、でも自分は本気では無かった。
デートですれ違いが起こったのも、不良仲間とつるんでる所を見られて怖がられていたのも、本心では嫌がっていたからその通りの事が起きたんだ。
そしてそれは凛香の墓参りについていった事で決定的になった。本能では凛香と一緒にいた方が良いと思っていたのだ。
それは……2人には見抜かれていた。林太郎は凛香の事が好きだ、と。
今まで気づかなかった、自分自身でさえ気づいていなかった恋心……「遅すぎた」わけでは無かったが気づくのにあまりにも遅かったそれにようやく気付いた。
彼は早めに風呂から出て着替え、自分の部屋へと向かう。やる事はただ一つ……告白だ。
姫は自室に戻るなりこどもビールを開けてラッパ飲みを始めた。
「!? 姉さん!? 何やってるんだ!?」
乙女ゲーの発売ラッシュとなった今年の8月、どれを買おうか話そうとしていた霧亜は荒れに荒れている姉を見て「何があったのだ!?」と大慌てだ。
「フラれちまったんだよバーロー! 飲まなきゃやってらんないわよ! マスター、もう一杯くれ!」
結局この日、姫はこどもビール2本を開けて飲んだくれていたという。




