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第44話 やっぱり私、男の人ダメなのかな

 (ひめ)の部屋で(ゆき)は姉に話があると伝え、彼女もそれを真剣に聞く姿勢を見せた。


「姫姉さん……やっぱり私、男の人がダメなのかもしれない」

「どうしたの急に? 林太郎の奴が雪に何か嫌な事でもしてきたの?」

「そんなんじゃないけど……あ、姫姉さん。私の昔話はしましたっけ?」

「いや、聞いてないけど……大丈夫? 雪ちゃんも辛い過去の1つや2つは持ってるんでしょ?」

「うん。その話も少しだけ入ってくるけど、いいでしょうか?」


 七菜(ななな)家の娘たちは全員養子。つまりは実の両親のもとで育つことを止められたというわけだ。雪は初めてその胸の内を明かした。

 雪は姫の机のイスに座り、姫はすぐ近くのベッドに腰かけて話が始まった。




「私はスクールカースト最底辺よりもさらに下の「父親がやらかした」子供で、お母さんが輪姦された挙句産まれた父親が誰かも分からない子供なんです。

 本当のお母さんは仕事と育児を、いわゆる「ワンオペ」って言うんですかね? それで私を育てていました。でもそうやって育てるのも身体が限界を超えてたらしくて、どんどん壊れていったんです」


 雪の話は続く。


「結局最後は本当のお母さんは子育てに『ドクターストップ』がかかってしまって、私は施設に預けられて最終的にはこの家に着いたんですよ。

 施設には男の子はいたけど私はお父さんや兄さんっていう「男の人」と縁が無くて……それで、今の江梨香(えりか)母さんの結婚でやっとちゃんとしたお父さんと兄さんが出来たことが、本当に嬉しかったんです」


 彼女は姉に対してそこまで口にして間を置く。


「ふ~ん。そう言えば雪ちゃんお父さんに随分と懐いているもんね。そういう事情があったのね。で、林太郎と恋人になったんだけど上手く行って無い。ってわけ?」

「うん。特に一緒に食事をしても味が美味しく感じないんですよね。今日の昼行ったお店もしょうゆをかけなきゃおかずの味がしませんでしたし、羽釜で炊いたらしいお米も美味しくなかったんですよね」

「う~ん……雪ちゃん。言って良いのか分からないけど、それってかなりの危険信号よ。正直言ってもう長くはもたないわよ」

「!! 長く持たない、ですって!? そんなにも危険な信号なんですか!?」


 長くはもたない、という危険信号。そこまで言い切る姉の一言に雪は大いに戸惑う。


「うん。一緒にいて嫌な思いをしてるとノドが詰まって味を感じにくくなるそうよ。逆に一緒に食事して美味しいと思えるのなら結婚しても良い証なんだけど、雪の場合は逆ね。

 多分頭では好きになろうとしても身体が嫌がってるのよね。身体が拒絶する人とは何してもうまくいかないと思うよ、何せ本能的に嫌ってるわけだし。

 それに姉さんは『好きでいなくてはいけない』っていう義務感を背負うと途端に恋愛は辛くなるって聞いたことはあるし」

「じゃ、じゃあ、やっぱり……」


 姫は戸惑いながら結論を言おうとしている雪に対してコクリ、と1回だけうなづいた。


「大丈夫。雪ちゃんは良い子だからいい男の1人や2人すぐ見つかるって」

「そうです……か。今日は話を聞いてくれてありがとうございます。姫姉さん」


 雪は姉の部屋を後にして自室へと戻っていった。




「ハァーア。私ってば、最低の姉ね」


 雪の足音が聞こえなくなったのを確認して自分以外誰もいない部屋の中でベッドに大の字になりながらボヤくように、そうつぶやく。

 一時とはいえ真剣に恋愛した後で妹を別れさせて、挙句の果てにその元カレの後釜になろうだなんて、自分で自分のことを外道扱いする位にどす黒い行為だよなぁ……と自分でもびっくりする位の邪悪ぶりだ。

 でも好きだから仕方ないか、と開き直っていた。

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