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第43話 冷めていく一方

 公共の施設なのかお盆でも県立図書館は開いていたため、林太郎(りんたろう)(ゆき)は2回目の図書館デートをしていた。


「……」


 林太郎は「ボクシングマガジン The ビート」の最新号を読んでいた。それ自体は面白い。面白いのだが「圧倒的」には面白くない。

 思い出すのは先日凛香(りんか)の墓参りに一緒に行った時の事。あの時はただ一緒に歩いているだけ、特に家へと帰る時は彼女のそばにいるだけでも楽しかった。

 それこそ、雪が見守る中雑誌を読むことよりもはるかに、だ。凛香と一緒にいることがこんなにも楽しかっただなんて知らなかった。


「……兄さん? 何か考え事ですか?」

「!! あ、ああ。ちょっとしたことだよ」


 恋人がいるのに何を考えているんだか。こんなんじゃ不倫をして世間を騒がせる芸能人みたいじゃないか。

 本自体は楽しめたが、決定的な何かが足りない。不完全燃焼のまま図書館を後にした。




 昼食は図書館のそばにあった食堂風のチェーン店ですることにした。セルフサービス方式なのか価格は抑えめであった。

 林太郎は大盛りの飯に焼き魚と注文を受けてから作ってくれる卵焼きを、雪は小盛りのご飯に小皿のおかず3つを選んで食べ始めた。


「んー。この店は薄味なのかぁ?」


 林太郎は焼き魚を口にしてまず感じたのは味の薄さ。最近は健康面に考量して「減塩増酢」をうたう店が増えているとは噂話も含めればあったような……。

 幸いテーブルにはソースやしょうゆがあったのでダラダラとかけて味を補う。


「兄さん、結構しょうゆかけるんですね」

「ああ、なんか味が薄くてさぁ。雪、お前は大丈夫か?」

「うーん……私からしても味が薄い気がしますね。県立図書館に行く際に何回か見てはいたのですが寄るのは初めてでして……」

「ふーん。雪が薄味に感じるって事は相当だな」


 味の薄さはしょうゆぶっかけで何とかなったが今度の問題は米だ。

 羽釜で炊いた粒の立っているお米を使用しているらしいが、そのセールスポイントはどこへやら……という食感だ。味気が全くなくて米がここまでまずいだなんて今までなかった。

 それ位の酷い味だった。


(……ちょっと薄味すぎるわね)


 雪も兄と一緒に食事をしていたが似たような感想を抱いていた。味が薄いし、この店自慢らしい米もいまいち。

 おかずは彼ほどドバドバと、というわけでは無いがしょうゆを足さなければ薄すぎる味で、米もベチャッとした食感でおいしく感じられない。


「……ハァッ」


 思わず落胆のため息が出る。近くにあるから適当に選んだせいで自分はまだいいとして、彼にも地雷を踏ませてしまって本当に申し訳が無かった。


「兄さんごめんなさい。私が選んだばっかりに……」

「いいって。俺だって前に家系ラーメンでお前に同じような事しちまったから」


 お互いにごめんなさいをしながら食事を終えた。




「「ただいま」」

「おおお帰り、林太郎に雪ちゃん。どうした? 何か元気がなさそうじゃないか」

「オヤジには関係ない話だよ」


 林太郎は多少乱暴な口調で父親である栄一郎(えいいちろう)に向かってそう言って自分の部屋へと引っ込んでいった。


「雪ちゃん、その……林太郎と上手く行って無いのか?」

「だ、大丈夫です。その……お父さんが心配する事はありませんから」


 雪もまた父親に心配するなと声をかけて自分の部屋へと向かった。デートに行く際持って行った荷物を整理してしまうと、彼女は意を決して姉の(ひめ)の部屋へと向かった。

 部屋の中では彼女はクーラーをガンガンに効かせて少し肌寒い位の温度になっている中で、パソコンで株のトレードに使うグラフとにらめっこをしていた。


「あ、あの。姫姉さん。その、とても大事なお話があるんですけどよろしいでしょうか?」


 とても大事な話。それを聞いて彼女の動きが止まる。席を立って妹に近寄り……。


「何かとても重要な話っぽいね。姉さんに出来ることがあったら何でも協力するわ。話してちょうだい」


 雪の長い話が始まった。

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