第40話 肉が届かない
林太郎の誕生日を明日に迎えた日曜日。
姫は順調にパソコンを操作したが、1通のメールから波乱が巻き起こる。
「これは……!? ええ!?」
それを見るや彼女はガタリと音を立てて立ち上がり、姉の元へと向かった。
「凛香お姉ちゃん! 緊急事態! 頼んだ肉が納期の延期だって!」
「!? え!? どういう事!?」
「注文したブランド牛なんだけど、テレビに取り上げられて注目されたせいか注文が殺到し過ぎてパンクして、結局向こう側の都合でいつ届くか分からない。だってさ」
「ちょっとまずくない? もう明日は林太郎の誕生日よ!?」
「うん、ちょっとどころじゃなくて、かなりまずい。今から他の場所で注文しても多分間に合わない!」
頼んだ肉がいつ届くか分からない。少なくとも明日までには届かないだろうという予想外の事態に2人は大慌て。どうしたものか、と慌てていたところに……。
「どうしたの? 凛香に姫。随分慌てている様子だけど何かあったの?」
「あ、江梨香お母さん。実は……」
そんな時、江梨香が助け舟としてやってきた。凛香と姫は事情を説明する。
林太郎の誕生日に手料理を作るはずだったけど、その肝心の材料である肉が明日までに間に合いそうにないという予想外の事態になった、というのを
2人とも焦っているのか早口でまくし立てるように母親に説明した。
「林太郎君の誕生日のためのお肉を仕入れたい、それも明日までに。ねぇ」
「江梨香お母さん、何かいい手がありますか!?」
「江梨香お母さん! もうあなただけが頼りなんです!」
娘2人は母親から何かいい助言をもらえないか藁にも縋る思いだ。
「じゃあスーパーに行きましょうか」
「「スーパー!?」」
出てきたのは意外な答えだ。スーパーって普通の、いつも使っているスーパーマーケット? そんな所に何かあるのか? 2人は疑心暗鬼だが、他に頼るものが無い以上そのままスーパーまでついていくことになった。
母親が運転する車に乗ってやってきたのは、娘たちもコンビニ代わりにおやつを買いにいつも使っている特に変わったところも無いただのスーパー。
その中に設けられたとある場所に彼女らは寄った。
「この時期のスーパーはお中元のコーナーがあるのよ。あなたたちはまだ送ったり受け取ったりする側じゃないから分からないでしょうけど」
「「お中元……?」」
そう言えばこの時期は毎年誰かから贈り物が届く時期だ。おそらくそれが「お中元」なるものなのだろう。まだまだ学生な凛香や姫には分からない事だった。
テレビのCMでもこの時期は「お中元はナンタラカンタラ」とかいう物が良く流れるが、おそらくそれだろう。娘たちが慣れない事に戸惑ってる中、母親がそれを見つけた。
「これなんかどうかしら? この場から持ち帰り可能だからピッタリなんじゃない?」
「神戸肉ね。言う事なしじゃない」
「へぇ~、そうやって贈り物を決めていくんだ」
幸い、スーパーにはお中元のギフトとして良質な「肉」があった。それを注文して手続きに入る。
「細かい事はお母さんがやっておくから、あなたたちは肉の代金を後で払ってちょうだい」
「う、うんわかった。良かったぁ。お肉、あったんだね」
「そうね。最悪普通の肉にしなきゃいけなかったから、お肉が手に入って良かったわね、姫」
「うん。これでお兄ちゃんの誕生日もバッチリね」
ようやく2人は安堵した。肉が手に入らない、なんてかなりの緊急事態だったのに母親の機転で回避できた。やはり母親って奴は凄いものなのだ、とも思ったという。
その後無事に肉は手に入り、明日の兄の誕生日への準備は万全、抜かりの無いように計画は進んでいった。




