第35話 不良と仲がいい
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林太郎のスマホが鳴る。彼の友人である不良グループの1人が電話をかけてきたようだ。
「何だお前か。こんな朝から何の用だ?」
時刻は午前8時半、今日も真夏の太陽がじりじりと照り付ける日が来ようとしていた。
彼は既に朝食を済ませて着替えも終えていたのだが、中には寝てるやつもいるであろう時間帯だ。まぁ目覚ましにはちょうど良かったのだが。
「林太郎、お前も俺と一緒に夏休みの宿題やらねえか? 俺は宿題が出来なきゃ留年するかもしれないから真面目にやれ、って先公から脅されてるんだよ。オヤジからも留年だけはするなって散々言われてるし……」
「何だお前? 妙に真面目じゃねえか。分かった、じゃあ9時に市立図書館前でいいか?」
「ああ、それでいい。じゃあな」
通話が切れた。林太郎も宿題をまとめて片付けるにはいい機会だとカバンに宿題を詰め込んで家を発った。
市立図書館前で開館を待つことしばし。電話をかけた相手がクラスメート2名──彼らも不良グループのメンバーだ──を連れてやってきた。
「オイオイ。連れが2人もいるなんて思ってなかったぞ」
「別にいいじゃねえか、居なければいいってわけじゃないだろ?」
結局4人という大御所で宿題を片付けよう、という事になった。図書館が開館すると同時に席を確保してテーブル席に宿題を広げて始める。
まずはお互いに終わったところを見せあいして書き写すところから始め、英語は4人の中で1人が持ってきた電子辞書をフル活用し、あるいはスマホで「カンニング」した答えを書き写していく。
「3人寄れば文殊の知恵」とは言うが、不良みたいな学業に問題のある連中でも頭数さえ集まればそれなりに知恵は回るし正しい答えだって出るものだ。
おそらく彼らが個人でやった時では到底出せない速度で宿題を進めていく。宿題を始めてから1時間半ほど経ってある程度進んだ所で余裕も出来たのか、手を止めておしゃべりが始まった。
「林太郎。そう言えばお前中学生の彼女がいるんだって?」
「あー、そういえばその話どこかで聞いたぜ。確か相手は中1なんだって? お前実はロリコンだったりするのか?」
「バカ言え。付き合ってくれって向こうから言われたから断るのもアレだろ?」
林太郎にいきなりかかるロリコン疑惑だが、彼は真っ先に否定する。
「で、どこまで行ったんだ? まさか肉体関係まで行ったとかじゃねえだろうな?」
「バカ! そこまでは行ってねえって!」
「ハハハッ! そりゃそうだ、中1相手に『勃つ』なんて中々の変態だからなぁ! 小学生と大して身体変わんねえだろ?」
林太郎の仲間がそうやって彼をいじっているとその問題の恋人が偶然彼とその友人たちを見て声をかけてきた。
「あの……兄さん、その人たちは一体?」
雪だ。今日も足しげく図書館に通ってる所を彼氏兼兄の林太郎を偶然見つけたので声をかけてきたのだ。
「ああ、雪か。こいつらは俺のクラスメートさ」
「そ、そうです……か」
髪を染めたりピアスや派手なアクセサリーを身に着けている、明らかに一般人ではなさそうな兄の知り合いを見て雪の表情が引きつっていた。
「へぇ、雪ちゃんねぇ……確か林太郎、お前の親の再婚で出来た妹だとは聞いてるけど中々の上玉じゃねえの?」
「雪ちゃんは俺の見たところあと2~3年後になったら結構な美少女になりそうな気がするなぁ。将来が楽しみだなぁ林太郎?」
まるで「品定め」をするかのような相手からのジロジロとした視線を浴びる雪はある種の恐怖を感じていた。
「あ、あの。私本を返しに行くので失礼しますね」
いかつい恰好をした林太郎の友人が怖いのか、目線をそらして図書館の中心にある貸出および返却のカウンターまで小走りして去っていった。
「お前たちダメだろうが。雪を怖がらせるマネするんじゃねえよ」
「オイオイ、林太郎。俺達何もちょっかい出してはいねえぞ」
「ちょっかい出してただろうが。雪の事を怪しい目線で見てただろ?」
「待てよ林太郎。その程度が問題になるなら俺達何もできないぜ?」
「何もするんじゃねえよ不良共が。さっさと宿題終わらせちまおうぜ」
雪と付き合っている事は内緒にして、林太郎は恋人を怖がらせた仲間である不良共に文句垂れつつ宿題の続きをすることにした。
最終的に昼頃までやって全体の3割ほどが終わり、これだけやれば上々だろう。という成果が見えたところで昼飯を食いに家に帰ったり、どこかの飯屋で何か食べよう。
となって解散することにした。
林太郎も自宅にあるであろう何かを食うために帰ることにしたのだが昼食前に雪の部屋に寄ることにした。
ノックをして入ると予想通り、エアコンの効いた室内で図書館から借りた本を読んでいた。
「雪、図書館では悪かったな。俺の連れがお前の事怖がらせちゃって」
「それですか……大丈夫ですよ。ちょっと刺激が強すぎたかもしれませんけど」
口では「大丈夫」と言うが、微妙な表情をしていた。一生懸命本音を隠しているのだろう。
「すまない、雪。俺達付き合ってるのに悪い事ばっかりさせちまって本当に済まないと思ってるよ」
「いいんです。兄さんみたいな人は今までの生活ではちょっと接点が無かっただけですし……」
お互い恋人だというのに、油が切れた機械のように動きがぎこちない。
「雪、俺はお前の彼氏だから、何とかしてお前に良い思いをさせるために頑張っているから。その思いだけは本当だよ」
「兄さん……分かりました。その言葉だけは信じてみます」
ぎこちないままだけど何とか進もう。そう思っていたのは確かだった。




