第29話 なんかモヤモヤする(凛香視点)
雪があの林太郎の奴に告白して、アイツはそれを受け入れたらしい。
兄妹同士でそんな事って! って最初は思ったけど姫が言うには連れ子同士なら兄妹で結婚しても法律的には問題ないそうだ。
姫の奴ったら、雪に変な事でも吹き込んだのかしら……。
「おはよう」
「……」
朝になって、リビングで林太郎と会って向こうからあいさつしてきたが、どういうわけか返事したくない。無視して席に着いた。
「凛姉、なんか最近アニキに対して特に冷たいけど何かあったのか?」
「明、別に私はそんな事……」
「そんなことあるぜ。昔は嫌々でもあいさつの1つくらいはしてたのに、今はしてねぇだろ?」
「……」
最近私が林太郎に対して特に冷たい、というのがまだ小学生の明でも分かる位だから相当な物らしい……自覚は無いけど。
林太郎の奴が雪の告白を受け入れて付き合いを始めたのが5日前。それ以来2人を見ていると、体の中にある「妙な感覚」につかまりそうになっている。
言葉では説明できない物を無理やり言葉にして説明するかのように、どういう形で表現していいのか分からない「違和感」としか言いようのない妙な何かが、林太郎と雪を見ていると顔を出してくる。
何かがおかしい……その「何か」が分からないけど、とにかく何かがおかしい。
何で林太郎が雪の奴とくっついたんだろう。あの暴力を振るう不良と真面目な図書委員の雪だなんて、これっぽちも接点がないじゃない。なのに何で?
「……さん? 凛香姉さん? どうしましたか凛香姉さん?」
「!! ゆ、雪か。私は別に何てことないけど」
「ホントですか? さっきから呼んでいるのにうわの空で……ちょっとソースを取ってくれませんか?」
「……分かった」
私はテーブルの上に置いてあったソースを雪の目の前にドン! と置いて渡した……やっぱりイライラする。
最近は雪の事を見ているとなぜかイライラする。前はこんな事なんて無かったのに、どうしてこうなるのかが分からない。
姉なんだから妹の事は守って大切にしてあげなきゃ! と自分で自分にげきを飛ばすが、そうする程ますます空回りや「違和感」につかまりそうになる。
私は義理とはいえ雪の姉なのに何でそんな出来て当たり前な事も出来ないんだろう……自分で自分が嫌になる。
「……行ってきます」
「行ってらっしゃい、凛香。いつもよりちょっと早くないか?」
栄一郎父さんが見送る中、私は自転車に乗って高校へと向かう。林太郎と行き会わないようにいつもより10分ほど早めに出るようにした。
アイツと顔を合わせるとロクな事にならない。昔からそうだったけど今は顔を見ているだけでイライラする……昔から? 違うかも。
「あの、凛香さん?」
「!? 何?」
「凛香さんどうしたんですか? ここ数日ボーっとしててばかりじゃないですか」
朝礼前に自分の席に着くと自然と集まってくる脇侍は何度も私の事を呼んだらしい。呼ばれた自覚は一切なかったのに。
「……別に私はそんな事ないって」
「何か悩み事でもあるんでしょうか? 凛香さんらしくないですけど」
「別にどうでも良いでしょ。構わないで」
今まで何か問題があっても全部自分の力で超えてきた……今度も超えないと。
「どんな時でも凛とした女性でありなさい」という願いから本当のお父さんとお母さんから「凛香」という名前をもらったんだから。
それに……そうしないとお父さんはきっと怒るだろうから。
「Zzz……Zzz……」
授業中、私の後ろの席で林太郎は寝ていた。寝顔が実に幸せそうなものだったが、それを見ていると無性に怒りがわいてくる。
席を立ち林太郎の方を向くと、頭にキツい一発を叩き込んだ。
バゴォッ!!
さすがの林太郎も文字通り「たたき起こされて」目を覚ます。
「痛ってぇ! あー……。凛香、お前殴らなくても良いじゃねえかよ」
「うるさいわね! ボケッと寝てんじゃないわよ!」
教室内がシン……と静まり返る。
「先生、授業を続けてください」
「あ、ああ分かった」
その後は問題なく授業は続き、さすがの林太郎もその後は寝ずに授業を聞いていた。
放課後、帰りのホームルームも終わって後は帰るだけとなった時、アイツが声をかけてきた。
「凛香、最近のお前どこかおかしいぜ? 授業中殴るなんてお前らしくないぞ。何かあったのか?」
「うるさいわね! アンタに言われる筋合いなんてないわよ!」
「ハハハッ! 凛香さんも大変だねぇ? こんな『お兄ちゃん』のお守りをしなくちゃいけないなんてよぉ?」
林太郎の近くにいた不良がニヤニヤ笑いながらからかってくるが、何故かそれには怒りは感じない。
林太郎と雪の事だけだ。2人の話になると体の中にある「妙な感覚」や「違和感」につかまりそうになってしまう。
……どうしちゃったんだろう、私。




