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第27話 雪の告白

「すー、はー。すー、はー」


 (ゆき)はここ10日程の間、頭の中で何度もシミュレーションを繰り返していた。高校生である片思いの相手に、ついに告白するための練習だった。


「……よし、大丈夫。きっと上手くいく。きっと、きっと、上手くいく」


 どこかの本で拾って学んだイメージトレーニングを繰り返し繰り返し行い、本番でもつっかえずに言える自信がついた雪は本番へと臨んだ。




 6月後半のある日、夕食を終えひと段落ついたところで雪は意を決して告白相手のいる部屋へと向かった。

 ドクン、ドクン、と鳴る胸の高まりを抑えつつ、鏡があったら頬が赤く染まっているであろう自分の顔を思い浮かべていた。


「雪、どうした? 何かあったのか?」

「兄さん、真剣な話があります。よろしいでしょうか?」

「あ、ああ」


 改まった態度をとる妹に、兄はえりを正す。一体、何の用なんだろう?


「あ……あの、兄さん。その……」


 呼吸を整え、メガネのズレを直して、今まで練習し続けてきて、繰り返し繰り返し言い続けてきた物と同じセリフを彼に告げる。


「その……私と、1人の女性として……お付き合い、していただけませんか? 私、兄さんの事が好きなんです。兄としてではなく、1人の男性として、好きなんです」

「!!」


 雪は12年の人生で拾った勇気と度胸を全部注ぎ込んで思い人にその思いを告げた。やるだけの事はやった……あとは相手次第だ。


「……雪。言っとくけど俺達は兄妹(きょうだい)だぞ?」

「大丈夫です。ほら、お母さんの結婚式で(ひめ)姉さん言ってましたよね?「私たちは連れ子同士だから兄妹でも結婚できる」って。

 だから、私たちは付き合って結婚することもできるんですよ? 実際にそうやって結婚した人もいるそうですし」

「……本当に、俺なんかでいいのか? 俺なんて学校でスクールカースト1軍とケンカばっかりやってる不良だぜ? 付き合うんだったらもっとましな男にしろよ」

「確かに暴れるのはいけない事だと思いますけど、ボクシングで世界王者を目指している姿勢は立派だと思います。夢に向かって歩んでいる兄さんの姿が私の胸に響いたんです。

 それに、弱者救済をしているというのなら私も同じような事をやってます。暴力こそ振るいませんが図書室に逃げてくればかくまってあげる、って言ってます。

 そうやって兄さんと同じように弱い立場の人を助けたりはしています。その部分も似ている気がするし、尊敬できるところなんです。俺『なんか』なんてつけなくても良いですよ」

「そ、そうか。雪も結構やってるんだな」

「はい。ですので、お付き合いしていただけませんか?」




 決断の時が来る。受けるか、受けないか……林太郎は考えた末に決めた。


「……分かった。これからよろしくな」

「!! 兄さん! ありがとうございます!」


 思いが通じたことに雪は思わず林太郎に飛び込んでくる。彼は彼女を優しく受け止めた。


「あの、兄さん。これからも兄さんの事は『兄さん』と呼びますけど、構いませんよね?」

「ああ構わん、好きに呼べばいい」

「じゃあ、これからは妹であると同時に恋人として、よろしくお願いしますね」


 今日は2人の門出の日だったのだが、それを密かに聞いていた者がいたのには気づいていなかった。


 完全には閉まっていなかったドアのすき間から、(ひめ)は2人の様子を盗み見あるいは盗み聞ぎしていた。

 雪の行動に大きく戸惑っており衝撃を受けていた。彼女にとって「まさか」以外の何物でもなかった。


「まさか雪の片思いの人がお兄ちゃんだっただなんて……先手を取られたか。計画を変更させないとね」


 瞳が前髪に隠れて他人からは見えない少女、姫は雪の片思い相手が林太郎だとは見抜けなかった。

 そして「先を越された」ために「計画を立て直さないと」とも思っていた。林太郎を狙っていたのは、雪だけではなかったのだ。

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