第25話 小学生男子がゲラゲラ笑う日
『毎月15日は小学生男子がゲラゲラ笑う日』
俗に言われている話で正式にそういう日が決まってるわけではない。毎月15日は小学生男子の間で絶大な人気を誇るマンガ雑誌の発売日なのだ。
もちろん今日、6月15日も例外ではない。
「マサル! 買ってきたか!?」
明の通う小学校では毎月15日、通学路沿いにあるコンビニへ登校途中に寄って、学校にそのマンガ雑誌を持ち込む不届き者が後を絶たない。
マサルもその1人で、常習犯というタチの悪い奴だ。彼を中心としたメンバーが協力してカネを出し合い、学校内やマサルの家で読みあいをするグループが出来ていたのだ。
「もちろんだとも!」
マサルがその期待に応えるかのようにランドセルの中からそのマンガ雑誌を取り出した。
「おお! これがゴロゴロコミック7月号か!」
「ふろくや銀はがしは俺のだからな! ちゃんと約束は守れよ」
「分かってるよ! 見せてくれ!」
クラスメートの間で回し読みが始まった。
マサル一行が大はしゃぎしながらゴロゴロコミックを読んでいるところを明は1歩引いた状態で見ていた。
「明、お前は良いよなぁ。お前の家は金持ちだから買ってもびくともしない位の小遣いもらってるんだろ?」
「親は関係ないだろうが」
順番待ちをしていた男子からそう嫌味っぽく聞かれる。
明は七菜家に来てからは自分の小遣いからゴロゴロコミックを買っていたが、正直あまり楽しめるものではなかった。
特に最近ではギャグマンガでう〇こやち〇こ等の下ネタギャグが頻繁に出てきて「下品だなぁ。これのどこが面白いんだ?」と思って引いてしまうのだが話題についていくために、あと少しでも男っぽくいるために読んでいる。
「ブハハハハ! ヒーッ! ヒーッ! く、苦し……ゲホッ! ゲホッ!」
どうやら今回のギャグマンガは大当たりだったらしく、マサルの友人は息が出来ない程の大爆笑をしていた。
「明、お前も読むか?」
「いいよ。学校終わったら自力で買うから」
明の親友であるマサルは彼女を誘うが、それを断る。学校が終わるまで我慢できない、というわけじゃないし校則違反してまで読む熱意は無かった。
もうすぐ朝礼が始まる頃になると……。
「マサル! 先生が来た!」
偵察していたクラスメートが速報を入れてくる。
「!! やべっ! 隠せ! 急げ!」
男子達は慌てて雑誌を隠しておとなしく席についてました、という風体でしらばっくれる。
「……おはよう。じゃあ出席を取るぞ」
子供たちがマンガ本を持ち込んでいるのは分かっているが決定的証拠を押さえない限り手出しできないのか、不愉快な雰囲気を漂わせながら先生は出席を取り出した。
◇◇◇
「ホント男子ってお子様よねぇ。弟も読んでるけどあんな下品なマンガのどこがそんなに面白いんだか」
休み時間、彼女の家では「姉の権限」を行使してたまにゴロゴロコミックを見ているクラスメートの女子は、毎月懲りもせずに校則違反をやらかすマサル一行を冷ややかな目で見ていた。
「明ちゃんも無理してあんな本読まなくても良いんだよ? 嫌なら別に読まなくてもいいのに。少女マンガでも読んだら?」
「……自分のカネ出して買うんだから別にどんなマンガ読んだっていいじゃねーか」
クラスメートの男子はあのマンガを大いに楽しいでいたが、毎号買ってるものの明は面白いとは思えなかった。特に下ネタは見ていて「下品」としか思えず、どこが面白いのかさっぱりわからなかった。
そんな自分に対し「女だから楽しめないのでは?」という疑問が頭をよぎったが、彼女はそれを否定する。ただ下ネタは自分には合わないだけでそれ以外のマンガなら読める。と思うようにしていた。
地域のサッカークラブに加入して男子に混じってサッカーをやっているのも体力で男子に追いつくためと、自分は「ついてないけど男」であることを証明するための事だ。
服装もスカートは大嫌いで「かたくなに」はくのを拒んでいる。母親の結婚式に仕方なく着てやった、というくらいである。
それ位「女である」事を拒否していたのだが、彼女がどうしても「女である」事を直視せざるを得なくなる出来事が待っているのを、まだ知らない。




