第22話 結婚式
6月の第1日曜日。林太郎の父親、栄一郎と5人姉妹の母親江梨香の結婚式当日がやって来た。
梅雨入りしたのもあって「お足元の悪い中」だったが、それでも栄一郎がサラリーマンだった時代に世話になり今でも交友のある元上司や元同僚、
江梨香が務めるNPO法人の関係者やスタッフなど、それなりのメンバーが集まった。
新郎の控室では林太郎と栄一郎の親子が話をしていた。林太郎は学生服を着て、栄一郎は式場から貸し出されたタキシードを着ていた。
「オヤジ、再婚おめでとう。俺が見ても決まってるぜ。式に出るのは2回目だから慣れてるんじゃないのか?」
「前は15年以上も昔の話だからすっかり忘れてるよ。にしても林太郎、学生っては良いものだな。学生服さえ着てれば大抵の式には対応できるからな。
大人になるとネクタイやスーツも式に合わせないといけなくなるから面倒なんだよ」
「へぇそうなんだ」
親子がそう話していると……。
「栄一郎さん、スタジオの準備が出来ました。来てください」
式場のスタッフがそう言って彼を、記念写真を撮る式場内のスタジオに来るよう促した。
「お母さんキレイ! 凄く似合ってる!」
一方、新婦の控室では江梨香の娘たちがキッズケータイで、ウエディングドレスをまとった母親の写真を撮っている……明を除いて。
「明、撮らないの? お母さんがこんな姿になるのは2度とないわよ?」
「……いい」
母親のウエディングドレス姿を見て喜んでいた凛香たちとは違い、明はスネていた。
ウエディングドレスという女しか着ない服と、自分も式典に合わせて普段なら見向きもしない、ましてや着るなどあり得ない子供用ドレス姿。
その2つを否定したかった。
「明、なにスネてんのよ? お母さんのキレイな姿、見られるのは今だけなんだよ?」
「凛姉別に、興味なんて無いから。それにオレ、こんなドレス着るだなんて聞いてねえし」
「ハァ……困ったね」
いつもの彼女らしくない態度だ。普段は男物の服ばかり着たがって、スカートを着る機会なんてこういう式典ぐらいしかなく、片手で数えきれる程だ。
明らかにスカートをはくのを嫌がっていたのだ。
「明ちゃん、お母さんの1度だけしかしない事なんだから祝福してあげなさいよ」
「雪姉、それにみんな。オレの事は無視するのかよ」
明はお祝いムードの4人の姉とは違って、1人へそを曲げ続けていた。そこへ……。
「皆さん、スタジオの準備が出来ました。来てください」
式場のスタッフが新婦とその娘たちに記念撮影のために来てくれと促した。
記念写真を撮るため、式場に併設されたスタジオに本日の主役である新郎新婦が向かう。そこで2人は互いの晴れ姿をその目で見ることになった。
「江梨香……きれいだ。本当に、本当にきれいだ」
「栄一郎さん。今のあなたも素敵ですよ」
そんな月並みな会話を交わして写真撮影に入る。カメラマンの指示に従って8人の家族が位置に着く。
「はいじゃー撮りまーす。はい」
バシャッ!
カメラのフラッシュが焚かれた。
「はいじゃあもう一回撮りますよ。笑って笑ってー、はーい!」
バシャッ!
6回ほど写真を撮って撮影は終わった。
後になって出来た写真を見ると「明の表情だけが微妙だな」という物になっていたという。
「では式場の準備が整いましたのでご案内します。お子さんたちはこちらへお願いします」
会場スタッフの誘導で、子供たちは式典会場の席に着く。そして……。
「新郎、新婦。入場」
スポットライトが会場入り口を照らし、そこから主役2名が入場してくる……式が始まった。
誓いの言葉、指輪の交換、口づけ等、一連の儀式は特に問題やつっかえる事無く終わり、披露宴とシフトしていく。
ウエディングケーキに「2人の初めての共同作業」として2人でナイフを入れていく。
そして、ファーストバイトと言ってお互いにケーキを食べ、新郎は「一生食べ物に困らせません」、新婦は「一生おいしい料理を食べさせます」という誓いを交わした。
「あー。あたしも結婚したくなっちゃった。ねぇ兄たん?」
「お、おい姫。俺達は兄妹なんだぞ? 結婚なんて……」
「えーだって兄妹って言ってもあたしらは連れ子で、しかも義理の兄妹なんでしょ? だったらあたしらは兄妹なのに法律に基づいて合法的に結婚出来るんだよ?
ヤバくないっていうか萌えるでしょ? これのネタで本1冊楽勝で描けるよ」
「!! な、何ぃ!? そんな事出来るのか!?」
「出来る出来る、バッチリ出来る。法律でも規制すると明文されてないので何ら問題はありませーん☆ミ」
からかっているのか、本当のことを言っているだけなのか……つかみ所の分からない姫の性格は相変わらずだ。
「アニキ。オレも、あんな服着て誰かの物になっちまうのかな……?」
「へー、明もそういう所あるんだな」
「からかうなよアニキ。アニキもそんなこと言うんかよ聞いて損した」
明は式典の最中に終始へそを曲げ続けて、機嫌が直ることは無かった。




