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第21話 図書委員の仕事

 終礼(しゅうれい)……帰りのホームルームが終わって放課後の時間を告げるチャイムがなると、(ゆき)は図書室へと向かった。今日は金曜日で図書委員の仕事があるのだ。


「あ、雪ちゃん。新書が来たからブッカー貼り手伝って」

「はい、分かりました」


 図書室の「関係者以外立ち入り禁止」と注意書きが貼られたドアを開けると、中にいた先輩に言われて新書にブッカーを貼る作業を始める。

 ブッカー……正式には「ブックカバーフィルム」という物で図書室で貸出される本の表紙に貼る透明なフィルムシートの事。

 主に日光の紫外線による劣化を防ぐためと汚れから本を守るために使われている。

 小学生の頃から図書委員として仕事をしていたので、雪にとっては慣れたものだ。スイスイと流れるようにフィルムを貼っていく。


「雪ちゃん、相変わらずブッカー貼るの上手いねぇ。私なんてそこまでの腕になるのに半年はかかったのに」

「小学生の頃から図書委員だったのでそれで慣れました」

「へぇそうなんだ。終わったらカウンターお願いね。私は書架整理(しょかせいり)するから」


 書架整理……要は「本棚の整理」で返却された本を元の位置に戻す作業である。1年上の先輩に言われ、雪はカウンターでの業務に就く。




 しばらくして、顔なじみの先輩がやって来た。


「あ、田島先輩。来てくれたんですね」

「雪ちゃん、今週も何とかやり過ごせたよ。それと、この本返すぞ」


 そう言って田島は借りた本を返しに来た。毎週金曜ここで本を借りて、1週間後に返すのが習慣なのだ。

 昔で言う「生徒手帳」に当たるカードタイプの「生徒証明書」のバーコードと、図書室の本に貼られたバーコードをスキャンして、貸し出しや返却の手続きを行った。

 昔は全て紙で管理しなければいけなかったため、本のバーコードと生徒証明書で図書の管理をするようになってからは随分と楽になったそうだ。


「じゃあ、また来週な」

「はい。来週も先輩が来るのを待ってますから」


『ただ3年間を過ごす事と1週間生き抜くのを150回程度繰り返す事はまるで違っており、後者の方がやりやすい』

 雪が昔読んだ、確か何かの小説に似たようなことを書いてあった事をスクールカースト下位グループに教えて、とにかく1週間を生き抜いてくれと説得しているのだ。




 田島が顔を見せてからしばし、今度は縦にひょろ長い背の姉がやって来た。


「やぁ雪、相変わらず真面目だなぁ。サボらずにきちんと仕事するなんて感動ものだぞ」

「あ、霧亜(きりあ)姉さん。今週も来てくれたんですね。読みたい本とかありますか?」

「いや、ちょっと雪の様子を見に来ただけさ。その様子だと大丈夫そうだとは思うけど」

「そうですか。あ、そうそう。図書のリクエストで悪役令嬢物と本格ホラー小説を入れてくれ、ってリクエストしたの姉さんですか? 正直言ってラノベ全般はかなり厳しいですよ」

「え!? リクエストは匿名(とくめい)なのに何で分かるんだ!?」

「その様子だと『当たり』みたいですね。字を見れば姉さんだってすぐわかりますよ。特徴的な字ですから」


 霧亜と雪がおしゃべりをしてる所へ、書架整理を終えた雪の先輩が声をかけてくる。その口調は、2人をかなり肯定的に捉えた親近感のあるものだった。


「あなたたち義理の姉妹なのに相変わらず仲が良いのね。良い話だとは思うけど」

「褒めてるのかい? まぁ血のつながりは無いとしても雪はボクにとって大事な妹だからね。それに、本当の姉妹でも仲悪い所は悪いからね。

 実際『骨肉相食(こつにくあいは)む』とか『骨肉の争い』なんて言葉もあるくらいだから」

「霧亜姉さん、そんな難しい言葉良く知ってますねぇ。どこで学んだんですか?」

「義理の兄と恋仲になる乙女ゲー由来さ。やり方によっては結構泥沼になる重い話だから万人にオススメは出来ないけど」


霧亜は堂々と「ゲーム由来だ」と告げる。その態度に雪はあきれ気味だ。


「はぁ、ゲーム……ですか」

「雪、ゲームを舐めない方が良いぞ? ゲームはシナリオ、絵、音楽でいくらでも感動させられる総合芸術なんだぞ。個人的には映画を上回る感動さえある位だ」

「姉妹って良いわね。私には兄弟や姉妹がいないからそうやってプライベートでも気軽に話せる相手がいないのよね」


 雪と霧亜がおしゃべりをしている所に割って入る形で、先輩の図書委員が声をかけてきた。


「おっとすまないな、つい話に夢中になって置いてきぼりにしちゃったかな?」

「良いの良いの。見てるだけで楽しいから」


 雪の先輩を無視してつい姉妹同士でおしゃべりしてしまった霧亜だったが、先輩は特に気にしていない様子だった。怒られるかもと思っていたが一安心だ。


「すみません、本を借りたいのですが?」


 3人がおしゃべりしている間に他の利用者がカウンターまでやって来た。仕事の時間だ。




「あ、はい。こちらで受け付けております」


 雪は図書館の利用者相手に受付の仕事を再開し、コンビニの店員がレジで商品のバーコードをスキャンするように「生徒証明書」と本のバーコードをスキャンする。


「貸出期間は2週間までとなっております。期日までの返却をお願いします」


 慣れているのかそんなセリフがつっかえなく出た。


「じゃあボクは先に家に帰るから雪、仕事がんばってくれ」

「あ、はい。霧亜姉さんこそ帰り道気を付けてくださいね」


 いつものように2人はそうあいさつして別れた。

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