第2話 5人の妹 後編
姫の簡単な自己紹介は終わり、1歳下の妹へとバトンを渡す。それにしても彼女、前髪で目が隠れていているように見えるが視界はあるのだろうか……? 林太郎は疑問に思った。
「じゃあ次は霧亜だね」
新しい妹、姫がそう言うと彼女と同じ制服を着た、今度はどこかカゲロウのようにはかない印象を持たせる精気があまり感じられない、
背丈が高いというかひょろりと細長いといった方が正しい少女のあいさつが始まる。
「やぁ。ボクは霧亜。中学2年になる。
君がボクの新しい兄くんってことになるのかな。まぁ生きてる間は兄妹ごっこや家族ごっこに付き合ってあげるから安心して良いよ」
「は、はぁ……」
何か回りくどい言い方をする少女だ。林太郎も経験したいわゆる「中二」臭さが漂ってくる。
やせ気味というよりは「やつれ気味」な体形で、特に目は死んだ魚のような生気をあまり感じない見た目だが健康面で大丈夫だろうか……。
「次は雪ね。挨拶して」
母親に言われるがまま立ち上がった中学の制服組の3人目。彼女はまだ身体が成長してないのかサイズに合ってないだぼついた制服を着ていた。
赤い縁のメガネをかけていて黒く長い髪を太めの三つ編みにしていた、いかにも文学少女とでもいうべき姿だ。
「私は雪と言います。今年中学校に上がったばかりです。それと、本を読むのが趣味です。えっと……こんな感じですがよろしくお願いしますね」
いかにも引っ込み思案な内向的で人と話すのが苦手なのだろうというのが伝わってくる、ほとんど日焼けしていない少女だった。
「じゃあ最後に明ちゃんの番ね。自己紹介してちょうだい」
「母ちゃん! アキラと呼んでくれっていったじゃねえか。まぁいいや」
今度は私服の子が立ち上がる。外にいることが多いのか髪は黒いスポーツ刈りで、少し日に焼けており見た感じ男の子のように見える子だ。
「オレは明っていうんだ! 小学6年生だ。アニキとは仲良くなれそうだな! よろしくな!」
ハキハキとしてさわやかな印象を与える少女だった。
「えっと……明って女の子だよなぁ?」
見た感じ、ほぼ男の子に見える見た目なため、林太郎は一応聞く。
「いや、オレは『ついてない』だけで男……」
「明ちゃんは女の子よ」
「雪姉、ちゃん付けは辞めて明と呼べって言ってるじゃないか。まぁいいや」
こうして5人の妹の紹介は終わった。
「にしても急に5人の妹ができるなんて……」
「林太郎、まぁ最初は戸惑うだろうけどじきに慣れると思うから長い目で見てやってくれ」
「大丈夫だってすぐに慣れるよ。雪が来た時も、明が来た時も、1ヶ月もしないで慣れちゃったから。お兄ちゃんもすぐに慣れるって」
父親と姫は調子のいいことを言っているが、林太郎にとってはやはり戸惑うものは戸惑う。特に凛香が妹になってしまうというのは大きな衝撃だ。
「凛香、お前妹がこんなにいたのか? 聞いてねえぞこんな話」
「悪かったわね。別にアンタみたいな不良なんかに言わなきゃいけない事じゃないでしょ?」
「そりゃそうだけどさぁ……」
林太郎も凛香もまだお互いに兄妹になった事を消化しきれずにいた。
「じゃあ今日はこの辺にしましょうか」
林太郎にとって新しい母親がそう言って話を切り上げようとする。それに彼も凛香もホッとしたのもつかの間……。
「林太郎、急な話ですまないけど今度のゴールデンウイークに引っ越しだからな」
「え!? 引っ越し!? おいオヤジ聞いてねえぞ!?」
「ちょっと待って! もう!? 数日後じゃない! 早すぎない!?」
いきなりの同居生活のスタートに2人は大いに戸惑う。彼らにとっては大波乱の幕開けであった。