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第19話 お父さん火山が大噴火

凛香(りんか)! 何だこの成績は!?」


 真っ暗で何もない空間、それでいてで今の栄一郎(えいいちろう)お父さんじゃない、凛香の本当のお父さんがはっきりと見える場所で、彼は数学の中間テストの用紙を持って彼女を激しく怒鳴り散らす。


「87点なんていう点数が許されると思ってるのか!? 俺の娘なのにこんな点を取るだなんて末代までの恥さらしだぞ!! 90点以上取れない奴なんて人権が無いんだぞ分かってんのか!?」


 怒り狂う1歩手前まで憤怒(ふんど)する実の父親の手で、凛香は彼から殴る蹴るの暴行を受けていた。彼女はそれにただ耐える事しかできなかった。


「ごめんなさい……お父さんごめんなさい。本当にごめんなさい」

「謝れば済むと思ってるのか!? 俺の血を引いてるのにこんな無様な点数とりやがって! そんなんで生きていけると思ってるのか!?」


 実の娘をサッカーボールを蹴るように思いっきり蹴飛ばしながら父親は彼女に怒りを叩きつける……完全に虐待という名の犯罪行為だ。


「いいか凛香! これは愛情表現だ。お前がテストで90点以上取れないのは授業を真剣に聞かずに、勉強もろくにしないからだ! お前が、お前が全部悪いんだ!

 これは愛のムチだ。誰だって厳しくしつけないとどこまでも堕落してしまう! それを防ぐには暴力だって必要なんだ。

 特に凛香、お前には立派な人間に育ってほしいからこういう事をしてるんだ。感謝しろよ」


 そう言うなり、お父さんは消えた。1人残された凛香は殴られ蹴られた身体の痛みに耐えていると……。


「……香。凛……。凛香……凛香!」


 誰かが、お父さん以外の誰かが自分の名前を呼んでいる。それを聞いた瞬間、目の前が暗転する。




「ハッ!」


 彼女は自分の部屋のベッドの上で目覚めた。起き上がるとすぐそばに林太郎(りんたろう)がいた。


「お、おはよう、凛香。なんか随分とうなされていたけど大丈夫か?」

「ちょっと林太郎! 勝手に部屋の中に入ってこないでよ!」

「いやお前時間になっても起きて来ないから母さんから「彼女を起こしてくれ」って言われたんだよ」

「え!? い、今何時!?」


 彼女は慌てて枕元に置かれたキッズケータイを見ると、朝に鳴る事になっていたアラームは既に鳴りやんでいた。それに気づかないとなると余程深く眠っていたらしい。

 時刻は午前7時10分。本来起きる時刻からは10分ほど過ぎていた。


「!? え!? もうこんな時間!?」

「もう朝食は出来ているから早く降りて来いって」

「わ、分かったわよ。制服に着替えるからアンタは先に出て行ってちょうだい。くれぐれものぞかないでね。のぞいたらタダじゃ済ませないから!」


 そう言って凛香は兄を部屋から追い出した。


「ふう……」


 凛香はパジャマを脱いで制服に着替え始めた。今朝は『お父さん火山が大噴火』するという悪夢を見てうなされていたのか、寝汗が酷い。

 さすがに「ずぶ濡れ」とまではいかないがパジャマや下着が寝汗でうっすらと濡れていた。


(テストの時期になるといつもこの夢……)


 凛香の本当の父親は5年以上も昔に亡くなっている。それでも彼は凛香の心の中で生きていた……いや「巣食っていた」と言った方が正しい表現になるだろうか。

 テストで90点台を取れない教科があると決まってこの夢を見る。

 今思い返してみても明らかに「教育虐待」であり、向こうが100%悪いのは頭では分かっているつもりだが、どこかでは点数を取れない事に対して負い目を持っていた。




(いつになったら、お父さんは許してくれるのだろう……)


 着替えの手を止めないながらも、彼女は考えていた。

 お父さんはとっくの昔に死んでいるのは分かっている。だが『それと同時に』お父さんは今もなお生きている、生き続けている。少なくても5年以上は死んでもなお生き続けている。

 いつになったら、お父さんは許してくれるのだろう。答えは……出ない。


(今日はちょっと憂鬱(ゆううつ)だなぁ……目覚めが最悪だったし)


 いつも通りの朝が来たが、いつも通りとは言えない調子で彼女の1日が始まった。制服に着替え終えて家族の待つ居間へと向かった。

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