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第17話 ザザエさんじゃんけん

 日曜夜のTVと言えば大抵の家族は「ザザエさん」を見る。

 七菜(ななな)家も例外ではなく、毒にも薬にもならない上にスマホもインターネットも無い、子供たちからしたら遠い時代の「神話」である昭和の日常がテレビに映っていた。


「さーて、来週のザザエさんは?」


 本編は終わり、次週の予告が始まると同時に(ひめ)が動き出す。キッズケータイを取り出してカメラを起動し、テレビめがけて構える。


「来週もまた見てくださいね。ジャン、ケン、ポン! うふふふ~」


 ザザエさんがじゃんけんの手を出した瞬間、彼女はカシャリ、と写真を撮った。




「姫、お前何やってるんだ? 毎週やってるようだけど」


 林太郎は彼女の奇妙な行動について聞く。この家に来てからは毎週見ているけど一体何をしてるんだ?


「じゃんけんの記録を取ってるの。2020年6月の5連続パーにはびっくりしたわ。まさか5連続で同じ手が出るなんて思ってなかったから」

「えぇ!? お前何でそんなことやるんだ?」

「え~? だって知りたいじゃない。お兄たんは「知的好奇心」ってやつを刺激されたりはしないわけ?」

「でも役に立たねえだろ?」

「役に立つとか立たないとか関係なしに、純粋に知りたいだけよ」

「は、はぁ……」


「実生活では全く役に立たない事でもやりたい」オタクは無意識レベルでそう思っているそうだが、オタクではない林太郎には分からない物だった。

 彼女は自室に戻ってSNSを更新する。パソコンの画面には「ザザエさんじゃんけん今日の手は『パー』でした」という彼女の書き込みが映っていた。


「おい姫、急に席を立って何をやってるんだ?」


 林太郎は姫の事を追いかけて彼女の部屋まで行く。机にはノートパソコンが置いてあり、カチャカチャというキーボードをたたく音が聞こえていた。


「あら、兄たん。妹の事を追いかけるなんて興味津々なのね。そりゃあ兄たま位の年頃の男の子は女の子のお尻を追いかけ回しているものだとは聞いてるけどね」

「……」


 捉えどころのないトーク……初めて会った時からのつかみどころの見えない態度だ。最低限小バカにはしてないように聞こえるが……。




「あーらごめんなさい。出しゃばりすぎたかしら? まぁ研究のためのデータ集めみたいなものなのよ」

「デ、データ? データって『じゃんけんの手』のデータか?」

「うん。データが残ってる限りでは小学校1年の時からずっとデータを記録してるの。リクエストがあれば見せるけど? 減るもんじゃないしね」

「!? 小1の頃から!?」

「うん。残ってないけどデータを取り始めたのは5歳の頃からかなー」

「……」


 大したことを言ってるようには聞こえない姫の発言に、兄は開いた口が塞がらない。クラスメートが言うには

「オタクは産まれつきオタク。子供がオタクにならないように親がアニメはザザエさんしか見せなかったとしても、じゃんけんの手を記録して法則性を見つけるようになる」

 のだそうだが、それがそのままスバリ当てはまっていた。


「あとは研究部にもしもの事があった場合のバックアップデータももらってるのよね。それにデータをつぎ足しするためにやってるのよ」

「け、研究部? ザザエさんのじゃんけんの手を研究している……のか?」


 そう言うと姫はコクリ、とうなづく。


「『ザザエさんじゃんけん研究部』っていうじゃんけんの手を研究している組織があって私が最年少会員なの。界隈じゃ若手のホープとして期待されているんだわ」

「……怪しい団体じゃないだろうな?」

「平気平気! ただじゃんけんの手を保存して法則性を見つけようとしているだけの団体だから」


 姫は安心して、と言うが林太郎には怪しい組織に聞こえる。大体、じゃんけんの手を保存して、法則性を見つけたところで社会のためには何にもならないじゃないか。

 そんなことして何のためになるんだ? 彼にとっては実に懐疑的(かいぎてき)な組織に聞こえる。




「大丈夫だって。個人情報を抜かれてるわけでもないし、変なDM(ダイレクトメール)が届くようにはなってないし、その辺は安心していいよ」

「……だといいけど」


 林太郎にとっては「オタク」というのは完全に未知の存在で、イギリス人やアフリカ人といった白人や黒人の方がまだ理解できる方だった。

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