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黒谷は二度死ぬ

 そうこうしている内に中年の男から貧乏人の技術(まほう)が放たれる。確かに小さめの火の玉が、バレーボールのスパイクくらいの速度で来る程度だ。それでも十分速いと言えば速いのだが、最初から身構えていた黒谷には避けられる程度。


 「チッ、やっぱ当たらないか」


 「分かってたらなら放つなよ」


 「貴様は新しく見つけたパン屋で買ったパンを買わずに、普段の飯を食うか?」


 「…覚えたてだったのかよ」


 「まあ、良い。やっぱりコイツの方が早い訳だ」


 そう言って男は小刀を取り出す、錆びた鉄という感じの、薄汚い色がする。だが刃先は確かに彼の胸元を捉えようとしている。


 刹那、動揺が眼から脳天に走り去る。それは、彼が最期に向こうで見届けた光景に酷似していた。「らしく無いな」と焦燥感を嘲ってみようとする。それでも駆け巡ってしまう恐怖感…仮にコチラでも死んだらどうなるのか。


 あの邪神(レベッカ)再た(また)死ぬような人間を助けるとはとても思えない、それでは逃げるのが最善。


…そう思ってはいるのだが、人生最大の恐怖を深々と突き立てたナイフを前に。神経は冷静さを失い脚をここに無理矢理留めさせた。


 「ハハハ、腰抜けが!だが助かった。逃げられたりしたら困るらなぁ…有金のついでに命を頂いていくぜ」


 「ア…アアッ……ツアッ…」


 ……………。

 打つ手は無かった。自分から放り投げた。そう思う。

しかし、この不運に、ちゃんとした方の天が助けてくれたのだろうか。


 その声は中年のその奥から、這い出るように現れた。


 「其処のクソジジイ、止まれ」


 「嗚呼!?、すまんなぁ今取り込み中なんだよ。用事なら後に…」


 黙れ、という言葉の代わりに彼が持ち出したのは銃だった。


 鉄に鉄を引っ掛けた音が響く。誰もを無言にさせる音が、

 声の主は中年改めクソジジイの頭に長めの銃口を突き立てる。


 まあまあ若そうだが、酒を焦がしたような声のする主は、悪そうな目付きとそれに似合うことはない綺麗な礼服的な服装。そして此処の人間らしく白めの肌に中背…と言った感じだった。


 「上げろよ、手を…気分次第でお前の頭は粉々なんだ、バカなら分かるよな?」


 「ポリ公の態度かよ…それが」


 クソジジイは銃口の方にチラッと顔を向けて話した。そして持っていたナイフを落とす。警官はそれをポケットの中に突っ込んだ。

成る程、警察機構とかは彼の国にも存在するのか、何よりだ。


 「逮捕っと…ん〜っと、何罪なんだろこれ…まあ良いや、めんどくせっ」


 そう言って警官は手錠のような物を取り出す。しかし、その体制のまま暫く考え込み、そしてこう述べた。


 「そうだ、予定通りならこれからお前は牢屋行きだが…見逃してやっても良い」


 「どうすれば良いんだ」


 「有り金全部寄越して、テメェが脅してたこいつの前から去るんだな。そしたら俺は何も観なかった事にしてやる」


 「警官としてどうなんだ」と言いたいところだが、此方の命には気を遣ってくれている以上、特に文句は言えない。黒谷は黙ることにした。


 そして、中年は仕方なしになけなしの小銭の幾つかの束を警官に渡す。そして「次はない」と言いたげな眼で黒谷を睨む。

 ところで次がないのは中年の方だった。


 警官は何食わぬ顔で引き金をすんなりと引いてみせた。目の前で喰らったその音は音ではない。全身を軽い波が伝う感覚。音量を間違えたスピーカーを目の前で起動してしまったらこのような感じだろうか。


 結果は当然、中年の最期を写していた。様子はとても言えないような感じだが。


 「まあ、つまりお前が其処の兄ちゃんにしようとしていたのはこんな感じの事って訳だな…

しっかしやっちまったナァ…始末書に何で書けば良いんだこれ…そうだ、罪盛ってでっちあげるか」


 「……兎に角、感謝します」


 「あっ…そうだった、見慣れない顔だが観光客か…やれやれ災難だったな」


 「そんな所です…ところで貴方、御名前は?」

 

 黒谷は、なんて事なしに命の恩人の名前を聴いてみることした。そして警官が答えた名は。ある意味馴染みのある名前だった…


 「聞いて得するものか…?

まあ良いや、教えて損もしないからな


 …リアムだよ、『リアム・ビリニュシス』」


 「リアムか…リアムねえ、なんか。また会えるかわからんけど、アンタとは上手くやって行けそうだ」

※ 上手くやって行けそうと言った理由。

この小説ではオエシスと言っていますが、黒谷が好きな実在するバンドのオエシスのボーカルがリアムという名前です

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