お目通り
「桐丸、例の小姓の件じゃがな、山本のご主人様に聞いてみたぞ。」
父上が難しい顔をしてこう話した。
「それがな、やはりと言うか何と言うか、このような話は初めて聞いたということでな。やはり大友のお館様に直接聞いてみるのが一番良かろう、と言うことになった。」
「ありがたき幸せにございます。」
「ただし、じゃ。お館様に話をするにしてもな、家臣の分際ではな、余程のことがなければこのような相談を持ちかけるわけにはいかぬ。」
「そのためにはな、桐丸がそれほどの技量の持ち主かどうか確かめてみなければなるまい、と言うことになったのじゃ。」
「と、申しますと。」
「つまりな、今度日を改めてワシのご主人様に桐丸をお目通りさせるということになった。」
「そこで問題はじゃ、桐丸の器量とはそこまでのものなのか、ワシは男ゆえその辺りがよう分からんのじゃ。」
「もちろん、なかなかの美少年とは思うておるがの。信長様のお側に使えることができるほどの器量かどうかと言うのが分からんでの。」
「なにせ、ワシもこの豊後国宇目の山の中と、お館様のおられる大分の町しか見聞したことがないゆえな。その範囲内であれば間違いなく桐丸は抜きん出た美少年とは言えるとは思う。」
「じゃが天下は広いけんの。豊後では美少年でも、天下に行けば醜男ということもあるやもしれぬ。」
「あなた、桐丸は天下に出ても恥ずかしくない器量の持ち主だと母は思うております。」
「わたくしめが故郷の日向の国でもかような美少年はいませなんだ。豊後でも日向でも一番の器量となりますれば、天下に通ずる器量ということにはなりますまいか。」
母上は桐丸の技量に関しては殊の外自信があるようであった。
「だと良いのじゃが。そこを確かめるためにより多くの人に見てもろうた方がいいかと思うての。それで、お館様に直接御目通りのできるワシの主人様にも見てもらうたらどうじゃろうと思うたのじゃ。」
「分かりました。では日をあらためて父上のご主人様にお目通りを頂いて、私の器量を確かめて頂いて、お館様に相談させて頂くに十分かどうかを見極めて頂く、ということでよろしゅうございますか?」
「そういうことじゃ。さすが桐丸。剣術は今ひとつじゃが機転は効くのう。」
こうして桐丸は父上の主人に器量を確かめてもらうために面会する、という何とも珍妙な事態になった。
これが都なら物笑いのタネにでもなったことだろうが、ここは豊後の山奥のこと。皆、子息の将来の身の立て方の話ということで真剣そのものなのであった。