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家族会議

「こら、桐丸、何を言っておるか。そんな夢物語のようなことが出来るわけがなかろう。」


「それに、そんな軟弱なことを申しておったら武芸の稽古が疎かになって、結局どこにも仕官出来ずじまいになってしまうではないか。」


父上が心配するのも無理はない。美貌を買われて大大名の小姓になる道などごく限られた少数のものにしか開かれていない道である。大多数の武家の子息は武芸で身を立てて生きていくしかないのだ。


だが、ど田舎の山の中で育ってきた僕にはそんな事は知る由もなかった。母上が事情通だと言っても、所詮は田舎に行商に来る商人から聞いた程度の知識でしかなかった。


「桐丸、母は良いと思いますよ。桐丸の容姿は、並のおなご以上に美しいと母は思うております。もし信長様にお目通り頂く機会さえあれば、きっとお気に召してくださるはずです。」


「あとはどうすればこの宇目の山の中から信長様の元へ出向いてお目通りできるか、それが分かりさえすれば…」


「母上…」


僕は言葉に詰まった。母の親身になって考えてくれる優しさに感動したのだ。僕の中で、漠然と厳しい武芸の稽古から逃げて、華やかな暮らしがしたいというだけだった気持ちが変わっていった。


「父上、母上、桐丸はもう十二でございます。来年には元服して成人する年齢でございます。もう将来の身の立て方を考えねばならない年齢でございます。」


「桐丸…」


「つきましては、桐丸は山を降りて信長様に御目通りをさせて頂くために、旅に出とうございます。なにとぞ桐丸の我儘をお許し下さいませ。」


「しかし桐丸。山を降りると言うても、それからどうするのじゃ?」


父は心配していた。豊後の国の山の中から天下人である信長様の所まではとても長い旅になる。それだけではない。田舎の一介の武家の子息が訪ねていっただけでは、お目通りなど許されるはずがない。運が悪ければ怪しまれて死刑になる可能性すらあった。


「桐丸。母も山を降りてからどうすれば良いか分からぬ。何か良い知恵はないものか…」


「そうじゃ。今度旅の商人が来た時に聞いてみるといたそう。商人ならば何か良い知恵を知っておるやも知れぬ。」


あくまで母上の情報源は旅の商人なのだ。


僕はふと思いついて聞いてみた。


「父上、豊後国の大友のお館様は何かご存知ではありませんでしょうか。お館様なら豊後国一国を治めるお方です。きっと天下人の信長様にも伝手があるのではないでしょうか?」


「大友のお館様か… 正直なところ、ワシもお館様の家臣のそのまた家臣の身分じゃ。そう簡単にお館様にお目通りすることすら叶わぬ。」


「じゃが、他でもない。桐丸の将来のためじゃ。ワシの主人である山本文介殿に聞いてみるとするか。」


「父上… ありがたき幸せに存じます!」


こうして、豊後の国の田中家で、子息を如何に小姓に取り立ててもらうか、という世にも珍しい家族会議が行われたのであった。


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