大分の町見物
「よし、桐丸。お主、大友家の代表として京で開かれる小姓の大会に出場して参れ。」
大友義介のこの一言で、次の桐丸の目標が決まった。
だが、さっぱり分からないことだらけだ。
天下の小姓を集めた大会とはなんなのか?
京の都で開かれるとのことだったが、京のどこで、いつ、開かれるのか?
どうやれば参加できるのか?
疑問は尽きなかった。
大分城から宿への帰り道に、父である武介が言った。
「こうなれば、詳しいことは大野城主の山本文介様に尋ねるしかあるまい。明日、文介様の元に参ることにしよう。」
確かに、京で開かれるという小姓の大会の話を持ちかけたのは文介様であった。詳しいことは文介様に聞くのが早いだろう。
「どうじゃ、桐丸。ひとつ大分の城下町の見物にでも行ってみんか?」
父の武介が声をかけてきた。
たしかに南豊後の山の中の宇目の里で暮らしてきた桐丸にとって、大分の町は大都会である。
城下町を歩く男女も美しく着飾った者が多い。
それに、噂ではポルトガルという南蛮の船も停泊しており、珍しい異国の渡来品を多く取り揃えているとか。
桐丸も好奇心が抑えきれない。
「父上、ぜひ大分の町をこの目で見てみとうございます。」
「よろしい。では明日は皆で大分の町の見物に出かけるとするか。」
武介も大分の町には興味があるようだ。
翌日、一同で大分の町を見物に繰り出した。平野に家が立ち並ぶ大分の町は、山の中に粗末な古屋が散財するだけの宇目の里とは違い、とても賑わっている。桐丸もその賑わいから目が離せなかった。
「父上、行き交う町人たちの着物も洒落ておりますね。」
「うむ。さすがに賑やかな町の町衆は違うの。宇目の里とはえらい違いじゃ。」
着物の布地は、桐丸の母上が旅の商人から手に入れてくれたものより格別に良いわけではないが、仕立て方が垢抜けている。デザインの流行のというものがあるのだろう。
また、男女とも髪の結い方も洒落た感じで、粋である。桐丸は母から仕込まれて身だしなみには興味があるため、町衆の洒落た格好には目が釘付けである。
「父上、あの者が首に巻いているのはなんでございましょうか。」
見ると、変わった布地を首に巻いている男性が目に入った。ひだをつけてふわりとした厚みのある感じになっている。
同行の者が気を利かせて聞きに行ってくれた。
「桐丸様、あれは南蛮の衣装を取り入れた首巻きだそうでございます。」
「なんと、南蛮の服を取り入れておるのか。」
桐丸は驚きを隠せない。京で開かれる小姓の大会には、ぜひ南蛮の服を取り入れた出立ちで臨みたいと思うのであった。
それから、一行は港へと歩を進め、南蛮船とそこに積まれている商品をじっくり眺め、いくつか購入してから宿に戻った。
翌日は、いよいよ山本文介様の別邸に、京で開かれる小姓の大会について詳しいことを聞きに行く予定である。