生まれいずる時 9
視点=庭師のゴブル
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。
オラは、胴体を無くし恨めしそうにこちらを睨むサブライの首を、思い切り足で蹴った。首が斜面をゴロゴロと転がって行く。
顔に浴びたサブライの返り血を作業着の袖で拭うと、再びバドラーのいる執事部屋へと歩き始める。
やがて、城に到着をした。使用人専用の裏口から城内に入り、長い階段を昇って三階にある執事部屋の扉をノックする。
「誰だ?」
バドラーの声。この声を聞くだけで、体が憤怒と憎悪と屈辱でわななく。
「へえ。オラは、庭師のゴブルでごさいます」
ぎぃーー。扉の建具金具の軋む音。バドラーが、慌てて扉を開ける。
「ゴブル! 貴様、生きておったのか!」
バドラーの肩越しに、室内の梁に縄で吊るされ、拷問を受けて気を失っているフリージアの姿を確認する。おのれ、バドラー。これほどまでごく自然に殺意という感情を抱かせてくれる存在は、この世で貴様だけだ。昂る気持ちをぐっと抑え、オラは、執事部屋の扉の前で、バドラーに向かって土下座をした。
「へえ。ご迷惑を掛けてすまねえ。ご心配なく。ちょっくら死にかけていただけだで。――それよりも、バドラー様、オラ、意識を取り戻して、すっかり改心をしただ。オラ、すべてを正直にお話しするだ」
「ならば問う。貴様、この国の第一王子ロータ様と、第二王子ジロール様に、いったい何をした」
「白々しい質問はもうおやめくさせえ。皆様の推測の通り、お二人は、オラがぶち殺しただよ」
「おのれ。よくもまあ、しゃあしゃあと」
「それから、ついさっき、チラッと見かけた第三王子のサブライ様も、ついでにぶち殺してやっただ」
「……正気か、貴様」
バドラーが、静かに後ずさりをはじめた。
「バドラー様~。オラ、深く反省をしているだよ~。オラ、罪を償いてえ~。だって、オラ、この城内の人間を、四人も殺してしまったのだから」
「……四人? おい、ゴブル、貴様は、まともに数も数えられないか。三人の間違いだろう?」
「おっとそうだ、まだお前は殺してなかったな。まあ、四人とか三人とか細かいことは気にするな。どちらにせよ、オラは今からお前をぶち殺す。同じことだ」
言うや否や、オラは、腰袋から植栽の剪定に使う巨大な刈込バサミを抜き出し、土下座の姿勢から、一瞬にしてバドラーの左足首を切断した。
「ぎゃあああああああ!」
続けざまに、右足首も骨ごと切り落としてやる。切断された二つの足が、脱ぎっぱなしの靴のように執事部屋の入り口に転がる。
「ぎゃは、ぎゃは、ぎゃはははは」
突然の惨事に、気が動転したバドラーが、笑いながら床に倒れ伏した。
「ぎゃははははは。切れちゃった~。切れちゃった~。僕ちゃんのあんよ、チョッキンと切れちゃったよ~ん」
バドラーの足首から、ドバドバと血が噴き出している。完全に気が触れたのだろう、バドラーは、ミミズのように床を這い回り、腹を抱えて笑い続けている。
「えへ。えへへへへ。ねえ、ゴブルちゃん。殺して~。僕ちゃん、こんな姿じゃあ、もう生きて行けな~い。いっそのこと、そのハサミで、この首もチョッキンと切っちゃってちょうだ~い」
錯乱しなからも、とどめを刺して欲しいと乞うてくるバドラーの姿を眺めていたら、自分が心底憎み続けた男のあまりの無様さに、今日まで抱き続けた憎悪が、なんだか馬鹿々々しいものに感じられ、オラはすっかり醒めてしまった。
「お前なんぞ、とどめを刺す価値もない。そこで、いつまでも、もがき苦しめ。やがて出血多量で死ぬだよ」
バドラーの顔面を蹴り飛ばし、唾棄をした。粘っこい唾液がバドラーの両目に入る。
「ぎゃはははは。殺して~。ねえ、ゴブルちゃ~ん。おねが~い。殺してってばあ~」
バドラーの狂気の叫び声をよそに、室内の梁に吊るされて気絶しているフリージアの縄をほどき、その体を肩に担ぐと、オラは、城を後にした。
つづく。
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