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ファイナルジャッジ!   作者: Q輔
異世界編
55/58

生まれいずる時 8

視点=庭師のゴブル


この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

 ビシッ!  ビシッ!  ビシッ!


 執事部屋の室内では、バドラーが振るう激しい鞭の音が鳴り響いていた。


「痛い! やめて下さい、バドラー様! 何度も申している通り、私は何も知りません!」


「正直に申せ、フリージア! お前が、あのゴブルと仲間になって、ロータ様とジロール様を亡き者にしたことは、城中の者の知るところだ!」


 ビシッ!  ビシッ!  ビシッ!


「ゴブルめ! あの人でなしめ! 皆で面白がって殴り続けていたら、勝手に死に腐りやがって。死人に口無し。ならば、ゴブルと親しかったお前から真実を聞き出すしかなかろう!」


 ビシッ!  ビシッ!  ビシッ!


「恥を知りなさい、バドラー様! このことは、必ず第三王子のサブライ様に報告させていただきます!」


 鞭で服をビリビリに切り裂かれ、体じゅうをミミズ腫れにしたフリージアが、バドラーを睨み、激しく責め立てる。


「黙れ、下級貴族の小娘が! 侍女が! 女中ごときが!」


 ビシッ!  ビシッ!  ビシッ!


「このバドラー様に盾を突こうなんて百年早いわ!」


 ビシッ!  ビシッ!  ビシッ!


「少しばかり顔が綺麗だからっていい気になりやがって! お前の顔なんて、こうしてくれるわ!」


 ビシッ!  ビシッ!  ビシッ!


 フリージアに毅然とした態度で詰め寄られ、逆上し常軌を逸したバドラーが、彼女の美しい顔を鞭でいたぶり始める。


「ぎゃあああ! 助けてええええ! 誰かあああ!」


 フリージアが悲痛な叫び声が、広い執事部屋に無慈悲に響いている。



― ― ― ― ―


 オラたちは、その惨劇を架空から見下ろしている。


「ゴブルさん。彼女がこのような酷い拷問を受けているのは、誰の責任ですか? さあ、現世に戻って、彼女がきせられている無実の罪を晴らすのです」


 エフさんが、氷のように冷たい表情で、オラに言った。


「エフさん、一大事だ! オラ、行かなくちゃ! オラ、一刻も早く現世へ戻らなきゃ!」


「ロータ王子の死。ジロール王子の死。あらぬ疑いを掛けられ拷問を受けるフリージア。すべては、あなたの浅はかな正義感が撒いた種。あなたの罪は、あなたが償うべきです」


「オラ、今すぐに現世に戻りてえ。エフさん、いったいどうすれば、ここから現世に戻ることが出来るだ?」


「あそこにある光の穴に飛び込んで下さい」


 エフさんが、何もない宙を指差すと、突如としてそこに七色の光の穴が現れる。


「あれこそが、現世へと続く時空の裂け目です。あの穴に身を投じれば、あなたは現世へ――」


 エフさんの説明も途中聞きのまま、オラは、現世へと続く光の穴に勢いよく飛び込む。


「おーい、ゴブルさーん! 健闘を祈りまーす! くれぐれも早まった行動、軽率な行動は慎んでくださいよー!」


 背後から、エフさんの忠告が聞こえた。



― ― ― ― ―



 臭い。


 なんとも耐え難い悪臭だ。


 自分の嘔吐物の臭いで、オラは目を覚ます。それからしばらく仰向けのまま、庭師小屋の天井を見ていた。自分の鼓動に耳を傾けてみる。鳴っている、よし、生きている。オラは、無事に蘇っただ。

 起き上がろうと、体を反転させてみる。ああ、重い。なんて重い体だろう。あらゆる関節に足枷あしかせを装着されたみてえだ。まるで言うことを聞かねえ。


 がんばれ。いつまでも呑気にここに寝転がっている場合じゃねぞ。


 気力を振り絞って起き上がる。うわ~、全身血まみれだ。あちらこちら骨が折れているようだが、幸いにして不思議と痛みを感ねえな。よし、段々と体の自由が利くようになってきただ。


「さ~あ、バドラー。首を洗って待ってろよおおお」


 オラは、ノコギリや刈込バサミの入った革袋を腰に巻き付け、庭師小屋から表へ出た。



― ― ― ― ―



 領内の外れにある庭師小屋から、執事部屋のある城へと向かう途中、第三王子のサブライを発見した。丸太で組まれた高い物見台のてっぺんに昇って、何やら遠くを眺めている。

 三人兄弟の三子。その性格は、勇敢で、誠実で、誰にでも優しいと城内ではもっぱらの評判だが、何を言わんや、こいつは、フリージアをたぶらかし唇を奪った糞野郎だ。


「サブライ王子、こんにちは~」


 オラは、地上から物見台のてっぺんにいる彼を見上げて、笑顔で声を掛ける。


「やあ、ゴブル、こ、こんにちは」


 つい数時間前に、フリージアとの一件をオラに目撃されたサブアイが、明らか動揺をしている。


「いや~、今日は良いお天気ですな~。そんなところで何をされているだか~? 日向ぼっこでもしているだか~?」


 いつものように、おつむが弱い使用人を装い、数時間前に目撃したことなどすっかり忘れているふりをして、陽気に話し続けた。


「いや、違うのだ。地平線の向こうに怪しい砂ぼこりが上がっている。あれは、ひょっとすると隣国の軍勢かもしれな。ほら、ゴブル、そこから見えないか?」


 サブライ王子は、オラに対する警戒心を解き、草原の果てに見える小さな黒い影を指差した。


「へえ。ハッキリ見えます。おっしゃる通り、あの影は、ベガ国の軍勢でさあ」


「本当か!」


「ケモノ並みに目が良いでオラが言うだで、間違いねえ。お隣のベガ国は、アークトゥルス国への大侵略を決行し、大軍勢を率いてこちらに向かっているだよ」

 

 そう言いながら、オラは、腰袋からおもむろにノコギリを取り出し、物見台を支える四本の丸太のうちの一本を淡々と切り始めた。サブライ王子は、夢中で地平線の果てを凝視し、オラの行動にまるで気が付いていない。


「大変だ。これは、奇襲攻撃だ。直ちに戦支度いくさじたくに掛からねば。兄上二人が未だ行方不明なのは心細いが、今はそんな弱音を吐いている場合ではないぞ」


「サブライ王子、この戦、勝てますか?」


 ギーコ、ギーコ、ギーコ……


「分からぬ。こうなってしまった以上、ただ最善を尽くすのみだ。たとえこの命尽きようとも、戦場で死ぬのであれば、騎士として本望よ」


「戦場で死ぬのであれば本望? ほう、それは無念でごぜえますな」


 ギーコ、ギーコ、ギーコ……


「無念?……おい、ゴブル! そこで何をしているのだ!」


「残念ですな~、戦場で華々しく死にたかったですか~。ああ、無念。サブライ王子は無念。だって、今からオラに殺されるのだから」


 ギーコ、ギーコ、ギーコ……


「うわああああ!」


 丸太を切断すると、物見台がミシミシと音を立てて崩壊した。


「うううう。おのれ、ゴブル。いったいどういうつもりだ」


 崩壊時に空中に放り出されたサブライが、地面に全身を激しく打ち付けて悶絶している。


「思い知ったか、サブライ。オラの未来の妻、フリージアに近づき、嫌がるフリージアの唇を強引に奪った罰だ」


「……フリージア。そうか、お前は彼女のことが好きだったのか。同じだな。私も彼女のことが大好きだ。卑怯者め。彼女を奪いたいのなら、なぜ正々堂々私と勝負をしない」


「黙れ。これがオラの真っ向勝負だ」


 痛みにもがき苦しむサブライが、オラの目を一心に見詰め、絞り出すようにこう言った。


「……ゴブルよ。君は、今日までどんな人生を送って来たのだ? どうしたらこんないびつな心の人間が出来上がるのだ? 可哀想に。ゴブル、君はなんて可哀想な人なのだ」


 この言葉に、オラは無性に苛立ち、手にしていたノコギリで、衝動的にサブライの首を切りはじめた。


「うぎゃああああああ!」


 大量の血しぶきが、あたり一面に飛び散る。


「オラに同情するな。オラは可哀想なんかじゃねえ。可哀想なのはお前だよ、サブライ」


 憎きバドラーを殺しに行く途中、たまたま見かけたこの国の第三王子の首を、ことのついでに、オラはノコギリでぶった切った。



つづく。


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