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ファイナルジャッジ!   作者: Q輔
異世界編
53/58

生まれいずる時 6

視点=庭師のゴブル


この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

 オラは、さっきまでジロールがワインを飲みながら温まっていた焚火から火種をもらい、炉に火を付ける。夜風に煽られ瞬く間に炎が立ち上がる。燃え盛る炎が、ジロールの足元の鉄板を熱して行く。


 鉄板が、みるみる真っ赤になる。


「あっつーーい!」


 ジロールが、飛び上がって鉄格子にしがみつく。


「いったーーい!」


 鉄格子に巻き付けた有刺鉄線が、ジロールの両手、両足に突き刺さる。


「あちっ。あちちっ。馬鹿な真似はやめろ、ゴブル。頼む、なんでもするから、どうか火を消してくれ」


「ならば、踊れ。オラの腹がよじれるぐらい、滑稽なワルツを踊って見せるだ」

 

「分かった! 踊る! 踊るから、どうか助けてくれ! はい、ズンチャッチャ~、ズンチャッチャ~……」


 ジロールが、高温に熱せられた鉄板の上で、滑稽なワルツを踊り始める。


「よ~し、ジロール。自分は道化師であると、声高らかに宣言してみろ」


「ピエロでござ~い! アークトゥルス国の第二王子、ジロールはピエロでござ~い!」


「次は、猿のように舞え」


「ウキッ。ウキキッキ~」


「お次は、豚だ。豚のように鉄板の上を這い回れ」


「ブヒッ。ブヒッ。ブヒブヒ、ブーブー」


 鉄板の上をぴょんぴょんと飛び跳ねるジロールの足の裏が、ドロリと焼けただれている。よく見ると、両足の指が焼けて無くなっている。肉の焼ける強烈な臭いが、辺り一面に漂っている。


「おやおや、ジロール王子。その足、オラとお揃いじゃねえか。よ~し、それならば、最後にオラの真似をして踊ってみろ」


「熱い! 熱い! ――それは、出来ません! ゴブルさん、もう勘弁して下さい!」


「駄目だ、オラの真似をしろ」


「熱い! 熱い! ――許してください~」


「うおおおい、ジロールううう! 聞こえねええだかああ! オラの真似をしろおおお!」


 恫喝をされ、ジロールは、覚悟を決めて踊り出した。


 クネクネと気持ちの悪いステップを踏み。わざとらしくドタバタと舞う。ダンスの途中でヘラヘラと卑屈な笑みを浮かべては、時々、こちらのご機嫌を伺う。


……なんだ、この醜い踊りは。こんな不愉快な踊りは見たことがない。これがオラか? これがオラの踊りなのか?


 オラは、自分の踊りの不甲斐なさに腹が立ち、当然、その真似をするジロールにも腹が立ち、まだ残っている薪の全てを、一斉に炉の中へ放り込んだ。


 轟音を立てて、炎が強さを増して行く。


「ぎゃああああああああ!」


 夜風に突き動かされ、巨大な雲が動く。ずっと隠れていたお月様が、ひょっこりと顔を出す。


「綺麗な満月だな~」


 夜空を見上げ、しばらく何の気なしに月をで、ふと視線を戻すと、ジロールは、籠の中で、黒いカタマリになっていた。



― ― ― ― ―



 アークトゥルス王国の次子、ジロール王子の死体を、ロータ王子の死体と同じく庭師小屋の地下倉庫にぶち込んだ後、オラは、二人を始末するために製作した殺戮道具を解体し、それらをロータが落ちた穴に放棄して埋め、事件の痕跡を消した。


 それから、庭師小屋に戻って寝床に入り、


「フリージアを困らせるヤツはオラが許さねえ。必ず殺す」


 と、ひとり言を呟くと、フリージアの無邪気な笑顔を思い浮かべて眠った。



― ― ― ― ―



 一週間後の昼下がり。オラが巨大なイチイの木に登って、伸びた枝の剪定作業をしていると、地上からオラを呼ぶ声がした。


「おーい、ゴブル。貴様に訊きたいことがある。今すぐ木から降りてこい」


 声の主は、この城の使用人の長、オラの両足の指を全て切断した男、憎きバドラーだ。


「バドラー様、今すぐと申されましても、見ての通り、オラは高い木の上の複雑に絡み合った枝の中で作業をしているだ。そう簡単には、降りられねえ」


「ならば、そこでワタシの質問に答えよ。噂には聞いているだろう、七日前から第一王子のロータ様と第二王子のジロール様が行方不明なのだ。ゴブル、貴様、二人の行方を知らぬか?」


 一国の王子が二人同時に行方不明になったのだ、当選のことだが、大変な騒ぎになっている。ここはシラを切り通さねば。


「そうらしいですね。さあ、オラは何も知らねえだ」


「二人が行方不明になったのは、貴様がジロール様にフリージアを馳走した翌日からだが?」


「ああ、あの晩の件は、中止になっただ。フリージアが舞踏会の跡片付けが長引いたとかで、来れなくなっちまって――」


「それは、おかしいな」


「な、なにが、おかしいのでしょう?」


「あの晩、この城で、舞踏会など開催されておらん」


「…………」


「おい、ゴブル、貴様、何か隠しておらぬか?」


「め、め、め、滅相もねえだ。オラ、隠し事なんて何も――わあああ!」


 オラは完全に動揺をしてしまい、体のバランスを崩して、高い木の枝から、地上へ落下した。


「いてててて」


 地面に強打した右の肩を押さえながら、オラは立ち上がる。


「おやおや、どうしたのだ? 大層な慌てようだが?」


「別に慌ててなんかいねえだ。たまたま木の枝から落っこちただけで」


「そうそう、そう言えば、あの晩、夜警の者が、植木畑ほうから、低く唸るような声を何度も聞いたと証言しておるのだが」


「低く唸るような悲鳴? その証言は、おかしいだよ。だってジロール様は耳に障るかん高い悲鳴を上げるで」


「おや? ワタシは一言もジロール様の声だとは申しておらんが? ちなみに、夜警の者が調べると、その声は、領内に忍び込んだ野良犬の鳴き声だったとのこと。あれれ、不思議だねえ。なぜ貴様は今、不自然にジロール様の話しをしたのだろうねえ」


 糞ったれ。カマをかけやがったな。


 バドラーは、オラの服の胸元を掴んで、鬼の形相で言う。


「やはり噂は本当だったようだな。おい、ゴブル。隠し事をするとただではおかぬぞ。正直に申せ。貴様、二人の王子に何をした?」


「何もしてねえ! オラは何もしてねえだよ!」


 オラは、バドラーの手を振り払い、その場から逃げ出した。

つづく。


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