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ファイナルジャッジ!   作者: Q輔
現代編
19/58

走れ! 三途の川の迷い犬(後編)

 僕たちは猛ダッシュで、渡船場で死者をテキパキとさばいている渡し守長のところへ戻った。


「な、な、何ざんすか! このクソ忙しい時に! んもおおお、この忌々しい犬ッころ! 特別ざんすからね!」


 渡し守長は、自分のタブレットを起動させ、モモちゃんとパパとママの前世の繋がりを調べてくれた。根は、心優しいかたなのだ。瞬く間に渡し守長のタブレットに二人と一匹の情報がヒットした。


「えー何々、


 前々々世では、モモとパパが、人間の夫婦。


 前々世では、モモとママが、姉妹。


 前世では、モモは、二人のいとこ。


 以上、これが、モモちゃんと、パパとママの繋がりざんす」


「ちょっとー、何よそれー! 夫婦が、姉妹になって、いとこになって、現世はペットって! 明らかに関係性が薄くなってるじゃないの! これって、来世は絶対他人のパターンでしょう!」


 モモちゃんが、悲し気な顔で僕に吠える。


「あの~、渡し守長、よろしければ、モモちゃんの来世を調べていただけませんか?」


「エフ君、残念だけど、来世の検索は、私には、無理ざんす。それらのデータは、全てあの世が厳重に管理しているざんすからね」


「そこを何とか。もうこうなった以上、来世を知らねば、ぶっちゃけこの子も納得しないと思うんすよね」


「しつこい! 無理だってば! まあ、不正アクセスでもすれば別ざんすが……」


「出来るんですかああ、渡し守長様殿!」


「まあ、人間の来世に関する情報管理に比べて、動物のそれはガードが緩いとも聞くし、やってやれないこともないざんすが……。って、ダメダメダメ! もし不正アクセスがバレたら、その時はもう解雇どころじゃ済まないざんす!」


 ガルルルルル! モモちゃんの、けたたましい唸り声。


「ねえ、お兄ちゃん、あたし、コイツのことまた嚙んでいい? すっごく噛みたいんですけど!」


「あれ~、変だな~、見えてな~い。僕ちゃん何も見えてな~い」


 僕は、わざとらしく口笛を吹きながらそっぽを向いた。


「わ、わ、わ、わ、わ、分かったざんす! やってみるざんす! まったくこの忌々しい犬っころめえええ!」


 根は、心優しいかたなのだ。


 それから、渡し守長は、小一時間タブレットの画面と格闘していた。


 そして、いよいよ歓喜の声を上げた。


「うっひょーー! アクセス成功ざんすーー! さあ、これを見るざんすーー!」


 渡し守長が、僕とモモちゃんに、タブレットの画面を見せる。


 そこには、モモちゃんのパパとママが病院で抱き合って喜んでいる動画が映し出されていた。


『し、信じられない! お前、よくやった! よくやったよ!』


『私こそ信じられないわ! 16年授からなかったのに、突然このタイミングでなんて!』


パパとママ、何を喜んでいるの? モモちゃんが、渡し守長に尋ねる。


「これは、三日後の二人の様子さんず。この日、ママのお腹に新しい命がいることが判明する。パパとママには、16年間授からなかった赤ちゃんが出来たざんす」


「さ、さ、さ、最悪じゃん! もう100パーあたしの出る幕ないじゃん!」


「やい、犬っころ。話は、最後まで聞くざんす」


 渡し守長は、モモちゃんの前にしゃがんで、モモちゃんの頭を撫でながら、こう告げた。


「モモよ。私のタブレットの情報によれば、君の魂は、あのママのお腹の子に宿る」


「ほ、本当!?」


「ほ、ほ、ほ、本当ざんすかああ、渡し守長!」僕は、思わず渡し守長の口癖で叫んだ。


「ああ。私が危険を冒して得た情報ざんす。間違いない。君の来世は、あのパパとママの子供ざんす」


「バウバウバウ! きゃー、嬉しい! ありがとう、渡し守長! ぺろぺろぺろぺろ……」


 モモちゃんが、渡し守長に飛びつき、顔中をヨダレまみれにして、舐めまくっている。やめるざんす~。くすぐったいざんす~。久しぶりに渡し守長の笑顔を見た。いや、初めて見たかも。


「よーし、そうと決まったら、モモちゃん、急いで川上に向かって走れ!」


「そうね、こうしちゃいられないわ! あたし、急いで動物の渡船場に行かなくちゃ! だって、あたしは犬だから! 藤井家のパパとママに愛された、誇り高きペットだから!」


「うおおおお、モモちゃん、走れ! 動物の渡船場は、ここから遥か上流だ!」


 興奮した僕は、意味もなく、腕をぐるんぐるん回しながら叫んだ。


「ざんすー!」


 渡し守長も、つられて、腕をぐるんぐるん。


「バウバウバウ! ありがとう、お兄ちゃん! ありがとう、渡し守長!」


「走れ、モモちゃん!」 ぐるんぐるん。


「ざんすー!」 ぐるんぐるん。


 三途の川の迷い犬は、河原の石をじゃりじゃり鳴らして、疾風のように上流に向かって走り出した。


 現世から吹きすさぶ寒風が、僕の頬に刺さる。

 

「それにつけても、すっかり冬だねえ」


 大空を見上げてそう呟いて、ふたたび川上の方に視線を戻すと、


 迷い犬の姿は、もう遥か遠くに消えていた。


おしまい。

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― 新着の感想 ―
[一言] モモちゃん、よかったですね……。 お父さんの言葉が胸に染みました。 そもそも夫婦だって元は他人ですし、それぞれが家族になるのは確かに血の繋がりはなくても、魂の繋がりがあるのかも知れません。 …
[良い点] モモちゃんの、この強気な感じが、愛されてたんだろうなって説得力です。 エフさんと、根は、心優しい渡し守長と一緒に、小さくなっていくモモちゃんの後ろ姿を見送る達成感が堪らないです。(私は何…
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