表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファイナルジャッジ!   作者: Q輔
現代編
10/58

君は、活字でどう笑う?(後編)

 この(笑)という記号が、日本で文章に使われるようになったのは、いつ頃からなのだろう? タイトルは忘れたが、昔読んだ芥川龍之介の戯曲に(一同笑う)とか(笑い出す)というト書きがあった記憶がある。


(笑)という表現ひとつとっても、厳密には様々な(笑)の種類があるのだ。


(爆笑)(微笑)(苦笑)(嘲笑)(冷笑)(含み笑い)(作り笑い)(誘い笑い)(貰い笑い)(思い出し笑い)等々。


 それをだな。(笑)のいち記号のみにすべてを託してだな。読み手に前後の文脈から読み取らせるというのは、どうなのだ。はたして、読者に寄り添った文章と言えるのか。


 どうしても受け入れられんのだ。しっくりこないのだ。だって、明らかに無理があるだろう?


 例えば、


「あなたって、ほんと馬鹿ね」


「だよね(笑)」


 という活字の会話があるとして。


 この場合の(笑)が、実際はどのような種類の(笑)であるのか、より具体的に表現することによって、読み手への伝わり方がまったく違ってくると、私は思うのだ。



「あなたって、ほんと馬鹿ね」


「だよね(爆笑)」



「あなたって、ほんと馬鹿ね」


「だよね(苦笑)」



「あなたって、ほんと馬鹿ね」


「だよね(思い出し笑い)」



「あなたって、ほんと馬鹿ね」


「だよね(世をはかなみ笑う)」



 ね? どうだ? 全然違うだろう?


 だったら、いっそのこと、



「あなたって、ほんと馬鹿よね」


「だよね。ぎゃはははははは!」



「あなたって、ほんと馬鹿よね」


「だよね。……たはははは。」



 こっちのほうが断然伝わりやすいと思うのだが?



 最近では(笑)も進化してきて、wwwとか草とか絵文字で記すらしいね。



「あなたって、ほんと馬鹿よね」


「だよね www」



 なーこれ! 私には、皆目理解できん!



「あなたって、ほんと根っからの商売人ね」


「そうさ! 俺様が歩いた跡は、ぺんぺん草も生えないぜ!www」



  は、生えとるがな!



 まあ、私自身が文章をがんがん壊しながら書く作家なので、美しき日本語の乱れを憂う権利など、これっぽちもないのだがね。


 いっそ木っ端微塵にぶっ壊れてしまえばいい。草だの、森だの、大草原だのに大人しく収まっていないで、この際、原型の無いとこまで、ぶっ飛んでしまばいいのだ。



「あなたって、ほんと馬鹿ね」


「だよね(ツンドラ)」



「マジうける(リアス式海岸)」



「不覚にもワロタ(タクラマカン砂漠)」



「この動画面白い(富士の樹海不可避)」



 ぎゃははは。サッパリ訳が分からん。逆に面白いぞ。



 とういうか、(笑)も、wwwも、絵文字も、すでに古くてダサいのだろうか?


 まあ、今時使うとダサい、恥ずかしい、とされるスラングも、かつては大流行したスラングだったわけで。


 言い換えれば、今流行りのスラングも、「いずれ、ものすごく恥ずかしくなる表現法」の予備軍である。ただそれだけのことなのだ。

 

(笑)や、wwwや、絵文字や顔文字、ネットスラングの正しい使い方ぁぁぁ?

 

 知らんがな! ガタガタ抜かすな! そもそもが、ぶっ壊れた表現法だろう!


 よーし、こうなったら、私は決めたぞ! 


 どっちにしろ、ものすごく恥ずかしい言葉なら、私は「ぎゃははは!」と笑い続けてやる!


 君は、活字でどう笑う?


 私は、「ぎゃははは!」と笑うぞ!



  ― ― ― ― ―



「はあ~~~~~~~~~」


 彼の長い持論を聞き終わった僕は、深い安堵の溜息をついた。


「九段さん。あなた、いつの間にやら創作意欲に満ち満ちているではありませんか」


「おや、そう言われてみれば。ははは。何故だろう、私は今、やる気がみなぎっている」


「時は来たり。ファイナルジャッジです。あなたは三途の川を渡りますか?」


「渡らない! おちおち死んでいる場合じゃない! 実はたった今、新作のアイデアが浮かんだぞ! 一刻も早く書斎に帰って小説を書きたい!」


「承知しました。では三途の川と反対側へ、眩い光のある方へ、ただひらすら歩き続けて下さい。そうすれば、あなたの魂は、いずれ現世のあなたのもとに戻ります」


「君が親身になって話を聞いてくれたおかげだ! ありがとう、エム君!」


「エフです」


「ここだけの話、新作は君をモデルにした作品を書く。主人公は、三途の川の渡し守だ」


「僕のことを書くのは難しいと思いますよ。現世に戻った途端に、あなたは僕との記憶の一切を無くします」


「小説家を見くびってもらっては困る。私の細胞のどこかに、君の記憶のひとっ欠片が残っていれば、私は、そこからありありと君の記憶を蘇らせることが出来る。私は、君を主人公にした作品で、必ず芥川賞を受賞してみせるぞ。楽しみに待っていたまえ、エッチ君」


「エフだってば! わざとだろオッサン!」


「ぎゃははははははは!」


「ぶわははははははは!」


 こうして九段九一氏は、現世の光の中へ消えて行った。



  ― ― ― ― ―



 その後、九段さんは僕に宣言した通り、新作で芥川賞を受賞した。


 受賞の理由として、笑い声などの感情の擬音表現が従来になく斬新であると、高評価を得たとのこと。


 作品のタイトルは「ファイナルジャッジ! あなたは三途の川を渡りますか?」


 僕が主人公の物語。


 さすがに気になるので、僕は、本をこっそりと購入して読んでみた。


 えーっと、なになに。


 舞台は、三途の川。


 主人公は、三途の川の渡し守、エックス。



 ……エックス。



 ったく、あのオッサン。わざとだったら逆にスゲーよ。


おしまい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 第一話からここまで読んできました。面白いです! 個性的なワンダラー達、迎える結末もバリエーション豊かで、次はどんなワンダラーが出てくるのかなと楽しみです。 印象的なのはやはりハルくんと、あと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ