陰の実力者になっていた
有名なユーチューバーが、テレビで何かを喋っている。大きく間違っている訳ではないけれど、内容自体は薄い。誰にでも言える事を言っているだけだ。
君はそれを聞いて苦々しく思っていた。
何故なら、君は時折エッセイなどを書いてネット上にアップしているのだが、その内容の方がよほど正鵠を射ていると考えていたからだ。
これは独り善がりではないと君は思っている。根拠ならばちゃんとある。実際に君が指摘して来た内容が正しかった事が何回もあったのだ。
君はコロナ19の感染拡大をネットワーク科学の知識から当てていたし、そのコロナ19禍への経済対策として行われた国民一律給付という経済対策は効果は薄いというのも当て、適者生存の法則によって、コロナ19ウィルスのある程度の弱毒化も起こるだろうという予想も当たった。一時、財政赤字への楽観論が広がっていたが、それも「日銀当座預金が膨らめば、金利上昇が問題になる」と指摘しており、現実になった(より正確には、金利を上げらない事が問題になったのだけど、凡そ当たっている)。
その他、様々な指摘を君は当てている。
もっとも、それは君だけが主張していた内容ではない。君の方が先だったが、テレビなどでも同様の内容が語られたりしていた。ただ、それでもそのユーチューバーのてきとーなコメントに比べて遥かに価値があるだろう。
「信者を騙して金を奪う宗教団体に特権を与えて優遇するなんて、政治家がどれだけ愚かがよく分かりますね」
その時、そのユーチューバーは、旧統一教会について、そのような事を語っていた。
もちろん、それはその通り。でも、そんなのは誰でも分かる話だ。もしも自分なら、外国人献金が法律で禁止されている事について触れ、それが政治権力と外国勢力が結びつく事を防ぐ目的に制定された法律であると強調した上で、旧統一教会を介して韓国人が日本の政治に影響を与えられる問題点を指摘するだろう。
君は肩を竦める。
「ま、宣伝力の高さと、主張する内容の価値ってのは一致しないもんだよね」
ただし、その旧統一教会の“韓国人が日本の政治に影響を与えられる問題点”についても、君がその主張をしたしばらく後にテレビ番組で取り上げられていた。
君はそれでこう思った。
自分の方が早かったけれど、やっぱり自分しか考え付かない内容という訳ではないらしい。自分の主張にだって、そんなに価値はないのかもしれない。
ところがだ。
それからしばらくが過ぎたある日、AIが情報解析を行って導き出したインフルエンサーの中の一人になんと君の名があったのだった。
君はそれに目を白黒させる。
君が投稿したエッセイなどは、それなりのアクセス数ではあるが、それでも他のインフルエンサーの足元くらいにしか及んでいない。ちっとも全く有名じゃないし、だから影響力だって少ないはずだ。「一体、どうして、自分がインフルエンサーに?」と君は首を傾げる。
それを発表した記事では、それをこのように説明してあった。
一般的に、インフルエンサーとはアクセス数が多いと考えらていますが、実は必ずしもそうとは限りません。
通常のユーザーではなく、情報発信力の高い者達が主に参考にする人も一部にはいて、そういった人達は直接のアクセス数は少なくとも、間接的に高い影響力を持っている場合があるのです。
つまり、隠れたインフルエンサーです。
今回、AIが導き出したインフルエンサーの中にもそういった人がいます。そして、そういったインフルエンサーの考えは、発信力のある人物に伝わり、テレビ番組などでその内容が広く世間に流されていたりもするのです。
マーケティング能力や注目を集める能力がなくとも、価値ある内容さえ発信し続けられるのならば、その努力が実を結ぶ場合もあるという事ですね。
君はその内容に驚きを隠せない。
テレビ番組で、自分のエッセイと同じ内容が語られる事があるのは、まさか自分のエッセイをテレビ関係者が読んでいたからなのか?
「なんてこった!」と君は思う。
……いつの間にか、自分が陰の実力者になっていただなんて。
なんて妄想をモチベーションに変えて、日々、小説やエッセイを書いています。
嘘ですが。
ただ、”隠れたインフルエンサー”は本当に存在しているそうです。
AIがそういったインフルエンサーを見つけて来る場合があるのだとか。
もしかしたら、あなたも気付かない内に、インフルエンサーになっているかもしれない。