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搦め取られて ‐人は、それを何と呼ぶのだろうか‐  作者: たま


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4/8

御膳立て

殿下の婚約者は、トンプソン侯爵令嬢であるエミリー様だ。

2つ年上の彼女は、栗色の髪に、栗色の零れ落ちそうなくらい大きな瞳。

ゆっくりと、朗らかに話すその声は耳に心地よい少し低音ボイス。

ただ、その儚げな容姿のわりにキツイ性格をしている。

簡単に言えば身分差に対し、きついのだ。

勿論、それは愛妾腹である私に対しても。

彼女の言葉の端々で、私に対して嫌悪感があると言っているようなもんだ。

一切直接的な言葉は言わないで、私にいうのだから頭も良いのだろう。

今の時代、愛妾の子供が正式な嫡子となるために養子になり、爵位を継ぐ事だってあるというのに。

彼女の父も、100%純粋な貴族婚で生まれた血筋以外は認めない、というくらいカチコチの血統主義なのだから、血は争えないのだろう。

おまけに、殿下の父であるジョシュア陛下が病に倒れてからは、まだ年若い殿下の後ろ盾という名目上、彼に権力が集中していて、少しばかり王城内もギスギスしていると聞いた。


そんな彼女が、婚約者である殿下が子爵令嬢に興味を持った、なんて知ったら一体どうなることやら。

背筋が寒くなる。

あぁ、これは、厄介なことになりそうだ、

未来を断言するのであれば、これ以上当たる未来はないだろう。


翌日、私は普段通りにシャーロットに接した。

貴族令嬢の教育の賜物だ、褒めてほしい。

一応、今週か、来週に一度、ローズガーデンに来てみないか、と誘いをかけた。

何も知らない彼女は手をたたいて無邪気に喜んだ。

曰く、王宮勤務になった時に、自慢できる!と。

その姿に、私は少しだけ胸が痛んだ。


私はまさか今週はないだろうと思っていた会合は、よほどシャーロットと話したかったのか、週末と決まった。

殿下、暇なのかしら?ううん、たまたま、よね?たまたま時間があったのよね?

あまりの前屈みっぷりに怖気づいてしまう。


公務で結構忙しくされている、と聞いたことがあるのだけど。

ジョノは、用意を整える、と言っていたし。

…大掛かりな感じがする…

とは思ったものの、普通に学園の友人が私の家にくるなんて初めての事なので、少し浮かれた気分になってしまったのは仕方ないだろう。

子爵家の馬車できたロッティと、キャイキャイと女同士、話が盛り上がる。

余りの楽しさに、素で自分のしなきゃいけない仕事を忘れそうになる。

ある程度したら、ローズガーデンにある東屋でお茶をする。

お茶をしているときに、偶然遊びに来た殿下にローズガーデンを紹介する風で二人を会す。

これが、私達のプランだ。

まぁ、私がしなくてはいけないのは、時間を見計らい、東屋につれていってお茶するだけなのだが。


ローズガーデンを紹介しながら歩くと、ロッティは目を輝かせて喜んだ。


「こんな素敵なローズガーデン、初めて見た」


嬉しそうに数々のバラを見惚れている。

そう、このローズガーデンはバラの甘い匂いも相まって、この場にいるだけでロマンティックな気分になる。

こんなに素直に喜んでもらえているのに、自分がしている事への罪悪感からあまりロッティの顔を見ていられなくなる。


「ノートローズシリーズがこんなに咲いているなんて。

噂には聞いていたけど、この芳香、素晴らしいわね」


お茶を飲むことすら忘れて、興奮を伝えるロッティに無理やり微笑む。

ローズガーデンに佇むロッティは、まるで妖精のように可憐で、女の私でも一瞬見惚れるほどだった。

やはり、これは止めた方が良いのではないか、という想いが湧き出る。

約束の時間まで、まだ半時以上はあるはずだ。


「ありがとう、アイビーお養母様も喜ぶわ」


そう答えながら、どうやってうまく良い逃れるかを考え始めた。

それなのに。

ガサガサと音がする方を見ると、殿下とジョノが歩いてきたのが見えた。


「あれ、メギー?それと、トーマス子爵令嬢、偶然だね」


ニッコリと笑ってジョノが近づいてくる。

打ち合わせ以上に早い段階で現れたのだ。

逃げ遅れた。

内心臍を噛む思いで俯いた。

私とシャーロットは黙って席を立ち礼をした。


「こんにちは、マーガレット嬢、そして、シャーロット嬢」


淀みなく私の名前と、シャーロットの名前を呼ぶ。

名を呼ばれ、顔を上げたロッティはジョノ以外の人物を認めた瞬間、一瞬固まった。

そして殿下がまさか自分の名前を知っていたとは思わなかったらしく、眼を開いて驚いていた。

そうなのよ、驚くよね、ごめんね。

でも、その見開いた目は頂けない。

ロッティ、淑女教育の時間を思い出すのよ、と、心の中で叫んだ。


その後、何とも薄ら寒くなるような時間を過ごし、わざとらしい侍女の呼び出しを受けて私とジョノが席を立つ。

本来なら殿下を前に席をたつなど不敬だが、殿下が書いた筋書きだ、逆らえないから仕方ない。

おまけにロッティは、有難いことにそれに気が付かない。

ただ、身分が上の人と二人きりになることに恐縮しているだけだ。

もちろん侍女に護衛は傍にいるけどね。

いくら何でも男女二人にはさせられないし。


今日だけ、今だけよね。


私は、二人のロマンティックな逢瀬に憧れつつも、何となく後ろ髪を引かれるような気分になる。

ふと、振り返り殿下とロッティを見ると、咲き誇る薔薇の中の二人はまるで一幅の絵のように現実離れした美しさだった。


いつもなら大好きなローズノートの香りも、なぜか今はむせ返るような甘い香りで、妙に鼻に残る気がした。


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