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王太子殿下との邂逅

「あぁ、メギー、お昼に向かっているの?

トーマス子爵令嬢、ご機嫌如何ですか?」


「えぇ、そうですわ。ジョナサンお義兄様」


ニッコリと令嬢スマイルをして礼を取る。

食堂に向かっていたら、偶然、ジョノ達に出会った。

あまりお昼の時間が合うことがないので、滅多に学園では合わないのに。

こちらはしがない子爵男爵令嬢グループなので、侯爵さまやら公爵様やら、しかも殿下までいるジョノのいるグループにはキラキラし過ぎて近寄りたくない。

のだけど、なんというか、ジョノも多分に身分差を気にしない人なのだ。

お宝長男で、ちやほやされた割に、すぐ傍で自分の両親が愛妾腹の娘にもきちんと教育を施してるのを見てるのだ、そりゃ身分差なんて気にしない子供になるだろうよ。


ただ、それはそれ、これはこれ。


身分が上の人の御子息ばかりで全員恐縮しちゃってるよ。

私と一緒にいる令嬢たちは、どちらかというと上昇志向がない普通の令嬢達なので

上位貴族の御子息を狙うような野望のある子は一人もいないのだ。

猫ににらまれたネズミのように小さく下を向いている。

声かけてこないでほしいとすら思う。


「ご機嫌麗しゅう、ジョナサン様。」


声をかけられたシャーロットがスカートの裾をつまみ簡易の礼を取る。

相変わらず鈴が転がるような可愛らしい声だ。

ジョナサンはニコリと笑うと食堂に入っていった。

ロッティだけでなく、私達グループは全員簡易の礼をとって、ジョナサン達が食堂に入ったのをみてから、入室した。


「はー、緊張しちゃう。

学校内は、簡易の礼で良いから良いけど、やっぱりダメだわー。

ジョナサン様は、私からすると凄い遠い存在の皆様とお付き合いなさってるのね。

礼を欠いた行動をしないか、ドキドキしちゃうわ」


「本当にね、ロッティ。気持ち、分かるわ。

私なんて、殿下がいらっしゃるって先触れが来ると、まずは用を足しておかなくては、といつも思うもの」


「やだわ、メギーったら」


「でも分かるわ、あんな素敵な方たちが家に来るなんてなったら、緊張して何度も用を足しに行きそうだわ」


コロコロと笑う、ロッティや友人たち。

そう、私達のグループにとって王太子殿下を筆頭に殿下の御学友の軍団は遠い存在。

素敵ね、と見惚れはすれど、現実感のない存在で、そう、まるで歌劇の主人公たちを見ている気分なのだ。

私達は先ほどあったことなど忘れて、いつもの他愛のない話でお昼を終えたのだ。


まさかこの食堂前のたった一言の挨拶で、世界が変わることになる、なんて、この時は誰も思っていなかったのだ。


その夜、ドアをノックされ、珍しく私の自室にジョノの侍女が来た。


「マーガレット様、お時間があるようでしたらジョナサン様が茶室でお待ちです」


もう待ってる、ってことは急ぎの用件なのだろうか?


「…?

すぐに伺います、と伝えてください」


私の部屋の隅で控えていた侍女に目をやると、彼女は簡単に私の格好を整えてくれた。

茶室にはすでにジョノがいて、紅茶を飲んでいた。


「メギー、良かった、すぐに来てくれて。

ちょっとね、話があるんだよ」


なんとなく、あまり気が向かないという顔をしているジョノを見る。


「まずは、紅茶かな?」


「えぇ、お願いします。

ジョノ、一体何かしら?

珍しいじゃない、いつもなら直接部屋に来るのに」


そこまで言って、ふと気が付いた。

そうだ、ジョノは個人的な用件は全て私の部屋に着て二言三言話して終わりなのに。

わざわざ茶室に呼び出してるのだ。


「…なにか、御用件があるのでしょうか…?」


訝し気にジョノを見ると苦笑している。


「あぁ、僕の誕生日パーティに、トーマス子爵令嬢を呼ぼうと思っている」


口に含みかけた紅茶を吐き出さなかった私は、頑張ったと思う。

だが、動揺は指に出た。

茶器を戻すときにカチャリと音がした。

伯爵令嬢としてはあるまじき、はしたない行動だ。

だけど、気にしていられない。


「シャーロットを、ですか?」


言外になぜ?と含みを持たせる。

はっきり言って、トーマス子爵とアスコット伯爵の交流はないに等しい。


「呼びたいからだよ」


飄々と本人はこたえたが、私がその答えに納得がいかないのは一目瞭然だろう。

ジョノは肩をすくめる。


「ジョナサンお義兄様、トーマス子爵がアスコット伯爵家の招待を断るとは思いませんが」


ここは、私も伯爵令嬢として姿勢を正して返事をすることにした。

じっとジョノの顔を見ていると、ジョノはゆっくりと息を吐き出した。


「…殿下が、シャーロット嬢と話してみたい、と…」


驚愕のあまり、声が一瞬でなかった。

言われた言葉の意味を咀嚼する。


殿下が、シャーロット嬢と話してみたい?


「…それは、殿下が、ジョナサンお義兄様におっしゃったのでしょうか?

パーティに呼んで欲しい、と?」


アスコット伯爵家の、しかもジョナサンの誕生日パーティは毎年豪勢だ。

もちろん、御学友の殿下やら公爵子息やらお偉いさんたちの御子息がいらっしゃるのだから簡単に想像がつくだろう。

そしてその身分に沿うように女性陣もそれなりの身分のご息女達が贅をこらした衣装でやってくるのだ。

いわば、戦場のようなもの。


そこに、シャーロット。

私は、一応アスコット伯爵家の一員なのでね、特に害もない存在と見做されている。

彼女たちが内心どう思っているかは知らないが、ご挨拶のみの間柄。

シャーロットの家で、パーティに出席するドレスを用意できるとは思えない。

しかも子爵令嬢を呼ぶなんてなったら、簡単にその後が想像出来る。


「率直に申し上げますが、トーマス子爵の家に、今、新しいドレスを購入するような余分な予算はないように思います。

もちろん、招待をされれば無理にでも用意するでしょう。

でも、たかが知れています。

ジョナサンお義兄様の誕生日パーティは、貴族子女としてはかなり高位の身分の方がいらっしゃるので、そのドレスとか色々と…」


なんか、言っていて辛くなってきた。

シャーロットを乏しめたいわけじゃないけど、実際問題、お金がなければ厳しい問題で。


「…だから、招待状を送る前に、メギーに確認してもらいたいんだよ」


「即答できますが、彼女の性格からしてあっさりとお断りいたします、で終わると思いますよ。

聞くまでもない話です」


「あっさりたたき返さないでくれよ。

僕だって、そうだろうと思っているのだから」


ハァとため息をはくジョノを見て少し気の毒に思う。

彼も殿下に無茶ぶりをされた臣下の一人だ。

だが、殿下の気まぐれで私たちの平穏な時間を乱さないでほしい、とも思ったのは事実で。

ただシャーロットは王宮勤務希望だ、ここで殿下の心証を悪くするのも困るわけで。

そして、多分、ここで私が拒否したとしても何らかの手段で彼はシャーロットと会おうとするだろう。

その手段が、どんな手なのか分からない。

側近候補であるジョノの妹、つまり私の存在を大義名分で学園で声を掛けてこられるのも、困る。

穏便に済ますために。

…出来れば1度で終わるに越したことはないのだが。

私は顎に手をかけて考える。


「…そういえば最近、殿下はお越しにならないですね…」


ジョノは顔を上げて、私を見る。

その目はニヤリと笑う。何とも腹黒い顔だ。

お父様譲りの整った美男子ぶりで腹黒く笑う姿は、薄ら寒くもある。


「何を考えている?」


「多分、ジョナサンお義兄様と同じことを」


「そうだね、早くて今週、遅くても来週中にはお越しになるんじゃないかな。

追って連絡するよ。

我が家のローズガーデンは見ごろだから、トーマス子爵令嬢も喜ぶんじゃないかな。

親友のメギーの家でお茶を嗜むなんて、早々ないだろうし」


そう、私が友人を家に呼ぶことはない。

やはり遠慮があるからだ。

もちろんお父様やお養母様がお呼びした友人たちは別だが、自分から誘うことはない。


「これ、ジョノの誕生日プレゼントね」


「僕は、毎年メギーが選んでくれる役に立つ文具のほうが嬉しいけどね。

去年の蛙の文鎮なんて最高だったよ」


ジョノは肩をすくめ、両手を上にあげて茶目っ気たっぷりに笑った。

全く、ジョノは人を懐柔するのがうまいのだから。

この笑顔に騙されてしまう令嬢が沢山いるのも頷ける。


「貸しにしてほしいなら」


私が頬に手をあて、考え込むようにしていうと。


「それは、殿下に言って」


無理難題で返す。

海千山千のご令嬢との軽やかな歓談が得意なジョノに私がかなうわけがなかった。

私は恨みがましい目を向ける。


「…言えるわけないじゃないの」


「なら、プレゼントを楽しみにしてるよ。メギー」


話は終わったとばかりに椅子から立ち、私に無駄に素敵な笑顔、いわゆる腹黒笑顔を見せてドアに向かうジョノに、声をかける。


「…シャーロットは、私の大事な友達よ。

そこは分かってくれるのよね?

面倒なことになるのは、御免だわ」


私は遠回しに、傷つけたら許さないわよ、と言ってみた。

それが、どんな効力も持たない事を知っているが言わずには言われない。

私がここで秘密の会合をセッティングするのだって、誰にもばれずに二人を合わせるためだ。

これが外にもれたら、大事だ。

だから、協力するのだ。

私の真剣な目に、ジョノも真面目な顔をした。


「…善処するよ…」


ジョノは力なく笑って部屋のドアを閉めた。

私はその閉まったドアを少しの間ずっと見ていた。


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