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棒を見つけりゃ拾って帰る、じいちゃん孫の土産にこれも棒

 源太、小学五年生、趣味、棒集め、と家族に言われている少年は、歩くときは常にあちらをキョロキョロ、こちらにをキョロキョロと、忙しく顔を向けている。


「あ!見っけ」


 そう言うと祖母の側を離れて、さっと道端へ向かう。ポツリポツリと山を背にして建てられている家々、風呂炊きの煙がそろそろ上がる時刻。夕食前に一番風呂に入る、祖父の為に風呂を焚かなくてはならない源太。


 手頃な枝に近づくと、棘のある無しを確認したあと、拾い上げ、地べたにコンコンと叩きつけ、腐っていないか確認。虫食いだと、中身がスカスカになっている時があるのだ。


 蟻ん子がパラパラパラと落ちる。これも噛まれたら結構痛いので、入念に払い落とす。そして握り具合を確認、太すぎても細すぎてもいけない。取り敢えずそれだけ済ますと、先々に進んで行っている、祖母の背を追いかける。


「ばあちゃん!まってぇや!」


「なんや、はよかえらあな、じいちゃん戻ってくんで」


 なんやかんやまた棒かいな、と真横に付き歩く孫に笑う祖母。


「ええ感じの棒や……」


 歩きながら、目の前に掲げると、長さ、曲がり具合、乾き具合を手首を左右に動かしつつ、満足そうに吟味をする。


「風呂の焚付にはちょうどええわな」


 嬉しそうにそれを眺める孫を、からかう様に話す祖母。


「ちゃう!これは燃やさへんで!」


「よーけあるさかい、ひとつぐらいええやろ」


「ばあちゃんわかってへん!一本いっぽんちゃうねんで!」


 そう言うと、空にそれを掲げる源太。水無月の太陽は、まだ明るい。そして格好つけ侍が、鞘に戻すように棒を脇におろす。


「名前考えなあかん」


「はいはい、ええのぉ考えな、こんばんわ」


 はいこんばんわ、源太くん手伝いかいな、畑から帰るご近所さんと出会う帰り道。


 お茶つみ終わった?うちは昨日済んで……、と歩きながら祖母と話を始める。棒切れを、上げたり下げたりしながらついて歩く。


「終わったやれやれやで、源太が来てくれたさかい、フキ、ちいっと摘んでみたんやわ」


「太うなっとったかいな?うちもそろそろ摘んで、糠に漬けなあかん、明後日からサンショやし……、明日でも爺さんと取りに行こかね」


 田植え時の一番フキは細い時に摘んで、湯がいてこぼして、水に晒して、灰汁を抜き、醤油で佃煮にして保存している。水無月に伸びている二番フキは、軸も葉も大きく硬く育っている。


 皮を剥いてから湯がき、晒して灰汁を抜き、水気を絞ると米糠と塩で辛く漬け込み、重石をし漬物小屋で寝かす。塩抜きをしたあと、冠婚葬祭や雪に覆われる冬に使う。


 ……フキなぁ、山葵とおんなじでようわからん。鯖缶とじゃが芋のカレーのほうがええなぁ……そっちのが、絶対にうまいやん!あ!でもフキの佃煮で、お茶漬けは好っきやぁ……あかん、腹減った……。


 祖母達の話を聞いていると、ぐぅと大きく腹の虫が鳴く。それを聞き笑顔になるご近所さん。


「えらい大きな虫やな、はよ帰ってまま食べえな、ほなさいなら」



 さいなら……とそこで分かれて、源太達も家に向かう私道の坂を登る、広い庭先に辿り着けば、縁側に座り手拭いで汗拭う祖父の姿。


「あ!じいちゃん!何やねん!はよ帰ってからに!くぅぅ……負けた」


「ん!遅かったな、じいちゃんのが先やったで!カカカ」


 足元には、綺麗に洗われ紐で括られた、十薬(どくだみ)が積み上げられている。よいせっと縁に上がる祖父。源太、カゴ置いたらそれ渡せ、と声がかかる。


 ん!わかった!と背から下ろすと、祖父の元に駆け寄る。竹竿が渡してある軒下にそれをぶら下げ干す段取り。


「くっせぇ!おぇー」


 十薬(どくだみ)の匂いに文句を言う源太。


「辛抱せい!」


 手渡されたそれを丁重に干していく祖父。


「うぇぇ、じいちゃん!センブリがあるやん」


「腹痛の薬じゃぁ、おま、よう腹こわすで、とってきた。夏になればウツボクサも取らんとな」


 ひと束を、一番端に干す祖父。センブリは腹痛の特効薬、飲めばたちまち効くのだが……恐ろしく苦い、腹が痛いのと、口の中が苦いのと何方を辛抱するか、いい勝負と、源太は祖母が煎じたそれを手渡され、そろりと飲む時いつももそう思う。


「もっと苦うないのないんか」


 草の匂い、薬草の匂いに顔をしかめて口を尖らせる。


「ないない、良薬口に苦しちゅうんや!ほれ終わった」


 全て干し終わると、やれ、鳥小屋に行ってくるかの、源太、風呂わかせと脱いだ地下足袋を再び履く祖父。


「あ、おい名刀を見つけたけ、勝負じゃぁ!」


 臭え、手がくっせ!と匂いをかぎつつ、家の裏にある釜炊き口に向かう孫に祖父が言う。


「え!じいちゃん!うおお、めっちゃええ!うぬ!卑怯なり」


 縁側に一本の棒が置かれていた棒を祖父が握り、芝居がかって孫の相手をし始めた。


 とりぁぁぁぁ!と棒を振り下ろす祖父。

 はっ!しんけんしらはどりと受け止める孫。


「ふっ!そなたもやるおの」


「じじいには負けん」


「得物をとってこい」


「しばしまてい!とってくらぁ」


 チャンバラをするべく、源太は拾った棒切れを手にしていた時……、


「じいさん!はよせな夜が来るわ!」


 明日の朝に茶葉を仕上げる段取りの祖母が、むしろに摘んできたそれを移すと、乾かぬようにくるりと内に巻き込んでいる。


 そして、夕暮れに何しとる!、気楽に孫と遊ぶ祖父に叱責を飛ばす。


「うほお!やまんばに見つかってしまったぞよ!ほれ、土産じゃぁ」


 その声に、祖父は首をすくめた。そして手にしていた棒っきれを笑いながら孫に手渡す。


 チュピピ、鳥がねぐらに向かっている。家の中からはいい香りがし始める。あちらこちらの家からは風呂炊きの煙がすうすうと、空に昇りはじめた。


 源太は、うやうやしく受け取ったそれを嬉しそうに振り回わす。じいちゃん!あんがと、と小屋に向かう祖父に礼を言うと、彼は彼の役目をするべく、家の裏に駆けていく。


翌日が来ません!卵を運ばねば、青い屋根の家が出て来ないのですよ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 棒集めは男の子の習性ですねww 源太くんの年になると、なかなか本格的で面白いです。 懐かしい感じの農村風景、楽しく拝見しています!
[一言] >翌日が来ません!卵を運ばねば、青い屋根の家が出て来ないのですよ。 だけど、日本の農村が一番元気が良かった頃の描写も読んでいて楽しいのですよ。
[一言] 良い家族!!w 私もよく棒を拾って遊んでましたw
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