第20話【四天王と守護者】
魔王軍の軍勢に単独で攻撃を仕掛けたイージスは今、 四天王の一人、 ザディスと戦いが始まろうとしていた。
「……」
「……」
イージスは背中の剣を握ったまま抜かない。
……隙が無い……へディルの時とは大違いだ。だが相手も隙を伺っているだろう。
しばらく睨み合いが続いた……そして遂にイージスが動いた。
剣技……ウィンドスラッシュ……
突風と共にイージスはザディスに向かってきた。だがザディスはイージスの技を受け流した。
「ふん……流石に強いな、 今ので少し手が痺れたぞ」
……どうする、 先攻取って軽く仕掛けてみたが……ザディスの剣術は絶対ヤバい……!
イージスはそう感じた。
「今度はこちらから行くぞ! 」
ザディスは剣を構えた瞬間、 目の前から消えた。
大丈夫だ、 目で追えた! 真正面から来る!
イージスが守りの体勢に入った次の瞬間、 ザディスは円を描くように斬り付けてきた。
剣と剣がぶつかり合い、 火花が散った。
やっぱりつえぇ……一撃の重さが違う……
(スキル、 能力解析、 複製が発動します。)
相手はきっと俺も知らない剣術を持っている……ならそれをコピーして対抗するしかない!
イージスは剣を弾いた。
(能力解析成功、 複製を開始……完了しました。)
よし、 これでザディスと同じ技を使える。
するとザディスは突然話し始めた。
「……懐かしいな……貴様と戦っていると……ロフィーを思い出す……」
「? 誰だよロフィーって……」
「知っているだろ……そうか、 お前の所ではロフィヌスだったかな? 」
ロフィヌスを知っている! ? へディルの時と言い、 四天王と守護者の関係って一体何なんだ……
「……一体何なんだ、 お前達四天王と守護者の関係って……」
「いいだろう……教えてやる、 俺達四天王と……守護者の関係を……」
ザディスは全てを話し始めた。四天王と守護者の関係を……
「俺達四天王は……守護者達の兄弟なんだ……」
「なっ……! ? 」
守護者と四天王は……兄弟……! ?
「元々俺達は一つだった……だが……ある時を境に離れ離れになってしまった……」
「一体何があったんだ……」
「……真の敵が現れたんだ。魔王様や邪神王様と他にな……正体は一体何なのかは俺達にも分からない……だが存在するのは確かだ」
魔王や邪神王とは違う敵……
「それに対策するために魔王様と邪神王様はそれぞれ勢力を築いた。一つは我ら魔王軍、 もう一つは邪神軍だ……魔王軍は世界の裏側を守り、 邪神軍は地上を守っていた。ここまで聞けばもう予想が着くだろう……真の敵は……」
ザディスは空を指差した。
「天空だ……」
なるほど、 世界の裏側と地上と来たら次は空か……だとすれば……………………
「神……」
「その通りだ……そして神から見て最も近いのは地上だ……だから魔王軍よりも強い勢力の邪神軍が守っていた。守護者達も俺達よりも断然強い……俺達は地上と世界の裏側を守る邪神王様と魔王様を護衛するために存在するんだ……神に殺されないようにな……」
……魔王軍は……敵じゃなかったのか?
じゃあ何故二人共世界の悪となって支配しようとしていたんだ? だったら俺達を襲う理由なんて無いはず……
「何故……お前達は協力しない? 」
「ふふ……別に味方という訳ではない……あくまでも悪として、 敵同士として真に世界を支配するためにお互い戦っているだけなのさ……そう、 神も同様に……」
そういうことか……でも、 敵同士なのに四天王と守護者……それぞれの勢力に別れても大丈夫なのか?
「それじゃあ兄弟のお前達がそれぞれに分かれて大丈夫なのか? 」
「そこは大丈夫だ……会ってすらいないからな……」
ザディスは少し悲しそうな顔をしながら言った。
本当は会いたいはずだろうに……俺だったら密会してでも会うよ……でもそんなことはきっとできないんだろう……
「さて、 少し話し過ぎたな……戦いの続きを始めよう」
そしてザディスは再び剣を構えた。
イージスはそれと同じ構えをした。
それを見たザディスは何かを察したように笑った。
「……ふふ……流石だ……」
するとザディスは何を思ったか、 剣を地面に突き刺し、 その前に正座した。
「……我の負けだ、 イージス殿よ……」
「えっ! 何で……」
イージスは全く理解できなかった。まだ戦いすら始まっていないのに……
「我の剣術を先程の一瞬でコピーしたのだろう……我の剣術が効かなくなった今……魔法をも使える貴様には勝てない……だからいっそ、 この我の命と同様の剣と共に……斬ってくれ……」
「……」
分かる……この人は元から俺達を襲うつもりが無かったんだ……きっとこの人は……自分を終わらせて欲しかったんだ……終わらせてくれる誰かを……ずっと探していたんだ……そして、 見つかった……
イージスは何となく察した。
そしてイージスは剣を構えた。
「分かった……」
「……ありがとう……イージス殿……最期に……ロフィヌスに伝えてくれ……」
ザディスは微笑みながら言った。
「自分に……自信を持ってくれ……とな」
「……必ず伝える……さようなら……」
次の瞬間、 イージスは突風と共にザディスの背後へ通り過ぎた。
剣技……生命切断……
この技は生物の魂と体を繋ぐ糸を断ち切る技……だから体をには傷が付かない……そして斬られた相手は……
ザディスはゆっくりと前に倒れた。
「……世界を……頼むぞ……」
死に際にザディスは静かに言った。
ザディスの死に顔はとても安らかだった。痛みを感じなかったのだ。
そしてザディスの剣も後から綺麗に斬れ、 真っ二つに分かれた。
イージスはその場でザディスを地面に埋め、 墓を作った。
「……」
イージスは墓に手を合わせた後、 召喚獣達を見た。
……これ、 どうしよう……消し方も分からないからどうしたものか……
召喚獣達に困っているとジースが……
(召喚獣達を収納できる亜空間倉庫があります。収納する際の合言葉を決めればいつでも収納できます。)
「おっ、 マジで! じゃあ早速しまうか……合言葉は……まぁ適当でいいか……戻れ、 召喚獣よ」
(合言葉の設定が完了しました。召喚獣達を収納します。)
すると召喚獣達は影のようになって地面に消えていった。
おー……そうやって消えるんだ。また出す時も合言葉が必要なのかな?
(はい、 合言葉を設定して下さい。)
「うーん………………」
イージスが考えた言葉は……
「……目覚めろ」
するとイージスの影が広がり、 そこから召喚獣達が出てきた。
おぉ……何か俺一人でも軍隊作れちゃいそうだな……これ……それは無理か……
「よし、 皆の所に戻るか……戻れ、 召喚獣よ」
イージスは召喚獣達を収納し、 メゾロクス王都へ戻った。
城へ戻ったイージスは守護者達を呼んだ。
「ご用は何でしょうか、 イージス様? 」
「うん、 実は……」
イージスは守護者達に今までの経緯を話した。
『えぇーーーー! ? 』
やっぱりそうなるよな……
「い、 イージス様が一人で魔王軍の軍勢を壊滅させたのですか、 さっき! ? 」
レフィナスが動揺しながら言った。
「うん……まぁ……」
するとザヴァラムが少し怒った様子でイージスに言った。
「イージス様、 あれほど無茶はしないでと言いましたよね! 」
「あっ……うん、 ごめん……」
そしてイージスはザディスから預かった伝言を伝えることにした。
「それとロフィヌス、 君にザディスから伝言を預かったんだ……」
「お、 お兄様から! ? ……今、 お兄様は……」
「……すまない、 俺が……」
「……お兄様はイージス様に感謝してましたか? 」
イージスは静かに頷いた。
「なら私は大丈夫です……最期までお兄様をありがとうございました。……それでイージス様、 お兄様からの伝言とは? 」
「自分に自信を持ってくれ……と……」
それを聞いたロフィヌスは泣きながら微笑み、 イージスに深々と感謝した。
……本当は辛いだろう……大切だった兄を亡くして……それに従えている俺に……
そういえばアルゲルを知っていたへディルもいたな……このこともアルゲルに謝らないと
「アルゲル、 君にも謝らないと……」
するとアルゲルは
「大丈夫ですよ、 イージス様……知らなかったのですから……」
「……」
知っていて言わなかったのか……
その後、 イージスは守護者達に警戒体勢を解除する指示を出し、 事なきを得たのだった。
……………………
その頃、 魔王城では……
「魔王様、 ザディスが殺られました……」
獣人の少女が魔王に報告していた。
「……そうか……またしてもか……残るは二人……」
「……魔王様、 私は……」
獣人の少女が何かを言おうとしたら魔王はそれを止めた。
「何も言うな……分かっている、 お前の好きにするといい……」
「……はい……」
「下がれ……」
そして獣人の少女は部屋を出ていった。
(イージス……やはり彼は……)
魔王は何かを悟った……
続く……