幼馴染が実は天使だとか言い出したので
一緒に帰ろうと誘う為に隣の教室の扉を開ける。
光を受けて輝く白い羽根。
其処に真っ白な羽を背中に装備し、何処か神々しい雰囲気を放つ幼馴染が居た。
私は笑顔を崩さないまま、何も言わずにそっと扉を閉める。
が、すぐに中から扉が開き、引きずり込まれた。
「おい、『痛々しいものを見てしまった』みたいな反応辞めろ」
「いや私は何も見ていないって。天使の羽とか見てないって」
「ばっちり見てるじゃねえか」
「大丈夫、高校生にもなってそんな痛々しいコスプレしてるなんて決して口外しないから」
「コスプレじゃねえよ!」
「じゃあ何よ」
「ああもう面倒くせえな」
隠す気もなく舌打ちしてきた。
「実は俺、天使なんだよ」
「は?」
「天使なんだよ」
天使?
何を強いだしたんだコイツ。
私ははあ、とため息をついてから言った。
「アンタがそんな重いの病を患っていたとは知らなかった。でもそろそろそういうの卒業したほうがいいよ」
「誰が中二病だ!」
違うのかよ。
どうやら脳内で痛い妄想を繰り広げているわけではないらしい。
と、言うことは。
「え、ホントに?」
「ホントだって言ってるだろ」
「まあアンタがそんな阿呆な嘘言う訳ないもんね」
私の幼馴染は頭脳明晰、スポーツ万能、教師の覚えも目出度い、優等生だ。
尤も、それは表向きの姿。
本来は何処にでもいるクソガキだ。
猫被りなだけで。
素がばれている私に嘘をつく意味がない。
「信じるのか」
「信じるよ。で、なんで今まで黙ってたのさ」
幼馴染だというのに。
そう言うと気まずげにもごもご言う。
「……バレちゃだめだからに決まってるだろ」
「バレたらヤバいん?」
「ヤバい、めっちゃヤバい」
「えっどうするん?」
見てしまってこういうのも何だが、どうしたらいいんだ。
「お前には俺を愛してもらう」
「は?」
おい何を言い出した。
「愛してもらう」
「聞こえてるって」
なんで二度言った。大事なことだからか。
「天使ってのは基本、愛の化身なんですよ。その使命は世界を愛で満たすことです」
「すごい胡散臭い」
宗教かよ。
つーかなんで突然敬語になった。怖いわ。
「とにかくお前がオレを愛してくれれば何の問題もない。お前のことはずっと気になっていたんだよ。このオレの素を見抜くとは只者じゃないってな」
「ツンデレかよ」
「誰がツンデレだ」
「とにかくお断り」
「なんでだよ」
「私はもっと少女漫画みたいな恋愛がしたい」
「少女漫画ってなんだよ」
俺じゃ嫌だってのか。
視線を落として唇を噛む。
昔からそうだった。
私の前でカッコつけようとして、泣くのを我慢する。
だけどその目は潤んでいる。
泣くのを必死に堪えている。
そういう所が昔から。
「幼馴染のことを昔から好きだった、とか少女漫画では割とよくあるパターンだよ」
天使ってのは愛を語る割に意外に鈍いらしい。
END