301号室 勃てば騎乗位、座れば座位、歩く姿は猥褻物
都会の真ん中だというのに、澄んだ空気の爽やかな朝だ。
窓から見える木には小鳥がさえずり、太陽の匂いがする暖かい風が吹いている。
なんて素晴らしい日だ。
ただ一点を除いては…
確かに昨日はサークルの歓迎会だった。
年齢は達していないが、先輩の誘いを断り切れず酒を飲んだ。
気持ちよくなって歩いて部屋まで帰り、風呂も入らず布団に横になったところまでは覚えている…
覚えているが…
現実を受け入れられず、もう一度布団に目をやる。
やっぱりいる。
1人用の布団の上に、掛け布団と服がはだけ、下着姿で寝ている女性がいる…
ウェーブのかかった艶やかな黒髪、綺麗な肌、整った顔立ち、慈英さんよりもデカい巨乳…
まぁ、慈英さんのは見たわけじゃないけれど…
…ってそうじゃなくて!
「う〜ん…」
酒くさい、甘い寝息を立てて女性が寝返りを打つ。
(うわっ、見える・溢れる・溢れちゃう⁉︎)
前屈みになりながら、必死に思考を巡らせる。
この状況、明らかに一晩の過ち…だよな…
この間、番場に
「犯罪者にさせません! 【ドン‼︎‼︎】」
とか言っておきながら、これじゃぼくが犯罪者じゃないか!
「プッ、アハハハッ」
血の気が引いて、必死に解決方法を求めるぼくの背中から吹き出すような笑い声が聞こえる。
「あっ、ごめんごめん。 慌ててるキミがあんまり可愛くてさ。」
涙目のぼくに向けて、からからと笑う女性。
「あの…ひょっとして…」
「あぁ、ごめんね。 アタシ、301号室の佐久間っていうの。 サキュバスの佐久間。 覚えやすいでしょ?」
やっぱりか‼︎
このアパートには、変態しかいないのか?
もちろん、慈英さんは違うけど…
違う…よな?
「まぁ、確かに変態が多いねぇ…」
佐久間さんがニヤリと笑う。
なんだ、変態はみんなエスパーなのか?
「しかし、またやっちゃったか… うっかり他所の布団に入っちゃうのよねぇ… 」
佐久間さんの視線がぼくの顔から、ゆっくりと下半身に移る。
ぼくは振り返って、ムスコを確認する。
大丈夫だ、ぼくの純潔は守られていたようだ…
「もういいでしょ… 服着て出てってくださいよ!」
「え〜っ、お姉さん、まだお礼してないんだけど…もったいないなぁ〜」
佐久間さんは、そう言いながら谷間を強調するような、挑発的なポーズを取る。
(いいですとも‼︎)
喉まで出かかったその言葉を飲み込んで
「…さっさと出て行ってください。」
一言だけ呟いた。
「あらら〜、もったいないなぁ〜」
ほんとその通りだ、と思いながら彼女の背中を見送る。
部屋から出た佐久間さんは、クルリと振り返る。
「ありがとね! キミの夢、美味しかった♡
それにすごく可愛いし、また遊びにくるね〜」
「え? どういう…」
ぼくの質問を遮るようにドアがバタンと閉まる。
そういえば、自分のことを彼女はサキュバスと…
サキュバスって確か…
顔がカァッと熱くなる。
どんな夢だったのか全く覚えていない…
相手はひょっとして慈英さ…
「うぉ〜っ、見たかった〜!」
クソッ、次こそは!
そう、ぼくは熱望した。