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となりの慈英さん  作者: 芥川先生
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102号室 あなたに恋をした

頭の中で警告音が鳴り響く。

混乱しすぎて、頭がうまく回らない。


目の前には、ジェイ○ンみたいな格好の人(?)がいて、手にはチェンソーで血まみれで…


あれか?

最近流行りのYouToberってヤツか?

【訪問者をチェンソーで脅してみた】とかか?


あっ、近づいてきたわ…


拝啓、田舎のおばあちゃんへ

今までありがとう。先立つ不孝をお許しください。タンスの中の袋は、中身を見ずに燃やしてください…



………………


「あ、あの… うるさかったですか?

ごめんなさい…」


どこからか女性の声がする…



まさか、と思うと同時に目の前のジェ○ソンがホッケーマスクを外す…



そこには、長い髪を後ろにまとめ、少し上気した女性の顔があった。


歳はおよそぼくと同じくらい。

少し歳上という感じもするが、先ほどの不安そうな声も相まって、可愛らしさを覚える。


「…あ、あの…大丈夫…ですか…?」


彼女の可愛らしさに見惚れてしまい、ボーっとしたぼくを心配してか、彼女が声をかけてくれた。


「あっ、すみません。今日越してきた者ですが、ご挨拶に…」


つい嘘が口をついた。

夜遅くに引っ越しの挨拶とか非常識だろ!

と心の中でツッコミながら、愛想笑い。



「そうなんですか? 初日からご迷惑をおかけしてすみません… もしよろしければお茶でも…」


見透かされていたか…

それこそ、迷惑になりかねない。

今日は退散し

「お邪魔します!」


思考より先に言葉が出ていた。

何故か、(彼女についてもっと知りたい…)

そう思ったからだった。


……………………

彼女がいそいそと片付けをしている。

散らかっててすみません、と小さな声で言いながら。


なるほど、彼女が部屋の中でチェンソーを使っていた理由が分かった。


部屋にはブルーシート、その上に木屑が広がり、中心に見事な木彫りの彫刻がある。

おそらく、チェンソーを使って削っていたのだろう。



可愛いらしいマグカップに暖かいココアを淹れて、どうぞと勧めてくれた。


改めて彼女を見る。

なんとなくデカいと思っていたが、どちらかというと小柄なようだ。


そして何よりも気になったのが、作業着をはだけて見えた胸元。

デカい。

決して巨乳ではないが、大きすぎず、形が綺麗に整っている。

田舎育ちで女子を女子と思わず育ってきたぼくには、いかんせん刺激が強かった。


「「あ、あの…」」


声が被ってしまい、なんだか恥ずかしくなる。


…気まずい沈黙の中、彼女が話し始めた。


「改めて、はじめまして… 隣に住んでいます、慈英(じえい)と言います。」


「慈英さん?」


「はい。 珍しい苗字でしょう? 私も、家族くらいしか同じ苗字の人と会ったことがなくて…」


少し照れながら、彼女が続けて言った。


夜分遅くにチェンソー振り回す女性も同じくらい

珍しいのではないか?という心の声をグッと押し込み、彼女に問いかけた。


「しかし、なんでまたチェンソーを部屋の中で?」


彼女の顔がこわばる。


「やっぱり、ご迷惑でしたか?」

「いえ、決してそんなことは!」


言うが早いか、食い気味に返事した。


彼女は目に涙を浮かべながら話をしてくれた。


自分も大学生で、今年から親元離れ一人暮らしをすること。

しばらくは祖父が所有しているコテージで製作をしていたこと。

そして、そのコテージが湖の近くにあること。


…まぁ、湖の近くにジェイソ○みたいな格好のヤツが、血まみれでチェンソー持ってたら誰だってビビるわな…


案の定、近隣住民や観光客から苦情が出てきて居られなくなった、というわけだ。



「その、マスクを外せばよかったのでは?」


「えっ、と… は、恥ずかしくて…」


oh…


「ちなみに血まみれなのは?」


「自炊しなきゃと思って…野菜切ってたら…」


みるみる彼女の顔が赤らむ。

ドジっ娘か!


「…それで、次に作品に集中出来る場所がここだったわけですか…」


「はい、大家さんがおじい…祖父と知り合いで、まだ入居者がいなかったので… でも、ご迷惑ですよね。また別の場所を探します…」




「いいんじゃないですか? ここでも。」

「えっ⁉︎」


俯いていた彼女の顔が俄かに上がる。


実際、彼女の作品には引き込まれる魅力がある。

芸術はよく分からないが、そう感じるのだ。


「もう遅いですし、お暇します。 ココア、ありがとうございました。 また作品見せてくださいね!」


何度もお辞儀する彼女に会釈しながら部屋を出た。


…慈英さんかぁ

素敵な人だったなぁ…


…………………

明日の講義の準備をし、ふと思い出す。


他にも住人がいたはずだし、明日挨拶周りに行かなくては…


どんな出会いがあるのだろう。

純粋にそう思っていたが、結果から言えばそんなことは全くなかった。



怪魔荘をステージにした奇妙な出来事は、まだまだ始まったばかりだ…







♡…………………………………………………♡

マグカップを洗いながら、今日の出来事を思い出す。


私の作品を、私の製作を、私のことを認めてくれる人がいた。

今までは、会う人会う人批判ばかりされてきたのに… 家族でさえ…


彼も名前を教えてくれた。

確か、徳井さん

徳井 (そら)さんだった…


彼の顔を、声を思い出すと、顔や身体が熱くなる。



そうか、私はあなたに恋をした





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