師の想い
「教えてくれ。どうして俺を殺し禁忌の存在を消そうとする?」
俺は冷静かつ冷たい声で美月にそう聞いた。
かつての師である美月、だが今の美月は弟子であった俺を殺しその禁忌の存在をなくそうとしているのだ。
なぜ、そのようなことをするのかは分からない。だから俺はそれが気になってしまったのだ。
できれば殺めたくないという俺の想い...極致の状態とは言え二十パーセント強だからこそ意識がありそう聞けたのだ。
「・・・・・」
だが美月は口を開こうとしない。
背中合わせに俺と美月はただ黙って立っているだけだった。それだけで数分が経過していく。
駅前にある時計の針がカチカチと進んでいくのに目がいく。
「そうね・・・話すべきかしら」
四十分くらいだろうか。そのころには御神槌の状態も回復しておりこちらに近づいていた。
ようやく美月が口を開いたのだ。
「──貴方を殺したいと思うのは私の私情....でもこの禁忌を知るものをなくそうとしたのは別の理由それは」
「それは・・・?」
御神槌はゴクリと唾を飲む。
「それは──ある逸材者に知られてはならないから」
「・・・・・?」
よく分からない。禁忌を知られたくないから禁忌を消すってことか?
「分からないわよね。でもそれしかないのよ。言えることは」
見えはしないが美月の表情が微かに苦しそうにしているのが分かる。既に発している声が辛いそのものを示しているから。
「ねえ生 知っていたかしら。無の部屋・・・あれはこの東京意外にも存在しているということを」
その言葉に俺と御神槌は驚いた。
「なんだと・・・」
「無の部屋が・・・他にも・・・」
「そうよ。貴方たちが制圧したのはあくまで東京・・・関東支部に過ぎない。他にもあと一つ・・・西の西、九州の地に存在している」
「九州・・・」
「厳密には九州とは言い難いけど場所は"沖縄"──そこに私は存在していたのよ」
美月は俺が卒業してから三日後に沖縄に連れて行かれていたらしい。
なぜ沖縄なのか。それは美月によるとかつて沖縄は第二次世界大戦の後、南西諸島は米軍の占領下におかれ、沖縄県は一旦消滅し米軍主導のもと新たに『琉球政府』が誕生、基地建設のため集落や農地を大規模に接収し、右側通行の道路を整備し、通貨としてB円、後に米ドルを使用させ、日本本土への渡航にパスポートが必要になるなど、米国流のやり方で戦後復興が進められていった。
その基地こそが沖縄の方の『無の部屋』となっていた。そこには日本人以外にも外国の逸材人物を取り入れており、こちらと変わることのない生活を送らされているとのこと。
「そしてある日のことよ。沖縄の無の部屋からとんでもない人材が誕生してしまった」
「・・・・ッ」
「男・・・彼は想像を超えた力と知性を持った。日本人ではなく外国人の逸材者。その名は・・・・」
美月はフーっと一息呼吸を整えた。
そして
「男の名は"アンドレア・リッカルド"」
「・・・アンドレア...御神槌、聞いたことあるか?」
「いや、耳にしたことはねえな」
お互いに告げられた名前に聞き覚えが無くイマイチピンときていなかった。
「能力・・・主な力は圧倒的パワーそして『能力を奪う能力』を持っているのよ」
それを聞いて流石に同様が隠せない。
能力を奪うことそれは簡単に言い換えて「略奪」だ。
アメリカにいるルナとは違い対象者の能力を自分が奪い取り相手は失うということだ。
ルナの力はあくまで真似事の「模倣」。しかしアンドレアという男性は奪い取る「略奪」、これは驚異の逸材者が誕生していたものだ。
「幸いアンドレアには非常の心はないわ。でもいずれその力に溺れ悪の道に進む可能性がある。それを見越した無の部屋の人たちは禁忌を持つ私の他に生、貴方を消すよう命じられたのよ」
もし仮にアンドレアが非常に走れば迷わず禁忌を持つ美月や俺を狙うだろう。そうなれば彼に抵抗できるものはいなくなり勝てなくなってしまう。そうなる前に禁忌の存在を消してしまおうと美月はこちらに戻てきたということだ。
「お前はそれでいいのか?」
「ええ。私は友を必要としていない。だからたとえ弟子である貴方がどうなろうと知ったこっちゃない。だから貴方を殺すのにも抵抗はない」
「・・・そうか」
俺はフッと目を閉じる。
極致の状態を解除する。もう必要なさそうだしな。それに
「美月、お前嘘をついているな」
「ッ・・・・どういう意味よ」
ドキッと美月は意表を突かれたかのように驚きバッとこちらを振り向く。
「アンドレアという男が存在するのは合っている。だが、非常になっていないというのは『嘘』だ。アンドレアは既に悪に染まっているんだろ?」
「何を根拠・・・に!」
「略奪の逸材者。そんな力があるのなら人は誰しも力に溺れるからだ」
それに嘘をつくのが下手くそだからな美月は。
「確かにな。通常の人間とはかけ離れた力を持つだけでも人は結構変わるしな」
隣で御神槌が納得している。
「それにアンドレアがまだ非行に走っていないのなら急かして俺のところにくる必要は無かった」
ここに到着したとき美月の鼓動が少し早いことを俺は予め知っていた。あの音は急かしていることを意味していた。
「う、うるさい!!」
美月は何も言い返せなくて暴力に出た。
速度のないパンチを俺の方に向けてきたが俺はそれを片手で押さえ込む。
「勝負は既についている。あの指パッチンはお前の身体に悪影響を及ぼす音にした。耐えているようだが耐えるので精一杯だ。無理はするな」
「・・・・く・・・」
「そう暗そうな顔をするな。可愛い顔が台無しだぜ?」
「えっ・・!?」
俺がそう言うと美月の顔はボッと赤くなった。
「ななな・・・生の分際でな、何を・・・」
バッと俺の手を話して美月はガタガタと身体を震わす。
「・・・・?」
よくわからなかったが御神槌は隣でやれやれと仕草をしており少しイラッとくる。
「あ、貴方はた、たたたただの弟子.....」
そう言いかけて美月はフラッと身体が倒れる。
「っと・・・」
ギリギリで俺は受け止める。
「無理していたいだな」
「ああ」
美月は意識を失った。やはり常人が耐えれる音ではなかったか。
俺を狙い殺しに来た美月。その目的は禁忌をこの世から消すという目論見だ。それは新たな逸材者の力を恐れてのこと。
だが、今だにニュースで取り上げられていないところを見るとあまり大きなことはやっていないのだろう。
だからアンドレアのことは放置で構わないはずだ。
「境川、そいつどうするんだ?」
「・・・・とりあえず俺の家に連れて行くさ。これでも師匠なんだ」
「そうか」
御神槌はそれ以上何も言うことはなく、御神槌は学園へ俺は倒れた美月を背負い家に向かって歩きだした。
【キャラ説明】
■神無木 美月
性別:女
能力:???
説明:生の師匠であり禁忌を押してた人物。
容姿:水色の髪、薄い紫色の瞳
学校:──




