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逸材の生命  作者: 郁祈
第六章 偽りの因果編
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神無木 美月【その参】

 片方の肩がやられた。俺の師である「神無木 美月」彼女は俺に禁忌とも呼べる危険な技をいくつか教えてきた存在。

 故に俺より数段実力は上だ。だが、俺はこの半年で神無木を超えていたと少しばかり思っていた。現実は違った。

 確かに俺は成長を遂げた。半年で想像以上の実力を身につけた。ではなぜ俺が美月に追いつけないのか、それは考えるまでもなく明らかなこと。

 それは美月も同様に成長をしているからだった。俺が一歩成長するたびに美月も同じくして一歩・・・それ以上に実力をつけている。


 「あら生・・・もう打つ手なしかしら?」


 「・・・バカ言え。これしきでくたばるのなら俺は逸材者にはなっていない」


 「そう。安心したわ。だけど厄介事はゴメンよ。これで楽にしてあげる」


 そう言って美月はしゃがみこみ俺の心臓の辺りに手をスッと振れる。

 

 「この技貴方も知っているわよね?」


 「──"暗技 滅亡(スイレン)か」


 『暗』殺『技』術 滅亡(スイレン)、それは発動条件が厳しい。だが、その厳しさ故、効果は大きいものだ。

 やりかたは極めて難しい。なぜならば相手の心臓の部分・・・身体に触れなければならない。その時点で普通なら無理なのだ。

 身体に触れれば誰だろうと手を突き返したりとそんな反応を見せるからだ。

 だが、仮にそれが成功するとなれば後は一瞬で心臓の鼓動を止めてしまう技・・・それが滅亡(スイレン)なのだ。

 

 「よーく知っているわね。流石は教えただけのことはあるわ」

 

 ニヤリと不敵にも笑みを浮かべ美月はそう言う。

 本来なら俺も拒絶で美月の手を離す・・・はずだが、なにせ片方の肩がやられている。だから俺は今力を入れることができずその場を動くことがでいない状態になっていた。

 おかげでやばい状況になっちまったよ。


 「死因は不明、貴方は一生殺され方が理解されずにそのままあの世に逝くことになるわね」


 「・・・・・・」


 「最後に言い残すことはあるかしら?」


 万事休す、普通ならそれが正しい状況判断。

 だが、


 「さらばね、生」


 美月の手から力が入るのが分かった。

 ──ドンッ!!

 衝撃波のようのな風が手から放たれる。滅亡(スイレン)が放たれたのだ。

 本来ならこのまま対象の俺の心臓の鼓動は止まり俺はそこに死んだということを理解せずに倒れるはず。

 だが、それは不発に終わった。

 技が失敗したなどと言うわけではない。

 俺の姿が美月の前から消えたのだ。

 滅亡(スイレン)を含み美月が扱う禁忌の技はどれも精密な技だ。既視感(タイムリープ)の条件は両目が使えること、紫電は相手との距離が十メートル以内であること、そして滅亡(スイレン)はというと・・・

 ──「対象の相手を認識していないといけない」ということなのだ。


 美月はこれには同様を隠しきれていない。その彼女に突然の揺さぶりが襲う。


 「ッ・・・・」


 「──人体が耐えれる音の限界は130デシベルくらいだと思っていたんだけどな」


 後ろから声が聞こえる。

 もちろんその正体は俺だ。


 「これは・・・いつのまに・・・っ」


 一瞬で背後に周り俺は美月の耳元に向かって指を鳴らした。その音は常人が聞いたら吐くか気絶レベルの大きさにしたんだけど・・・美月は揺らいだだけのようだ。

 もちろん周りには聞こえないよう配慮したぜ、精々風の風圧くらいしか被害はないだろう。


 「生、貴方の肩は紫電で破壊したはずよ、なのになぜそこまで動け・・・ッ!!」


 美月は途中で言葉をいいかけて俺の状況を理解する。

 バチバチと稲妻の激しい音が鳴り響いている。そして物事に関心を持たなくなった感じの瞳の静かさ。俺は樹との闘いで新たに身につけたことがある。

 それは「極限の極致(パーフェクトリミット)」への鍵だった。あれは極限の集中状態で成すことのできる荒技。本来ならこのような状況では決して入ることのできない無情の扉。

 しかし本来の極致百パーセントではなく、抑えた(・・・)極致なら俺はいつでも入ることができるようになっていた。


 「まさか極致に入ることが自在になっているとはね・・・」


 「入れても精々二十から三十パーセントが限界だ。おかげてやれることの範囲が狭いってもんだ」


 百パーセントではない。それにはメリット・デメリットがそれぞれそんざいすることになる。

 まずメリット、これは俺自身の意識が残ることだ。完全に入らないから俺も情を残した状態で闘うことができる。

 逆にデメリット、簡単に言うと無理ができない。完全でない以上俺の身体を超える負荷はかけれないのだ。


 「俺の驚きは美月、あんたがまだ立っていられるということだよ。あの音を聞き、立っているとは相当な忍耐力なことだ」


 「極致に入ったとき貴方は一瞬で私の後ろに立った・・・でも貴方だって肩の負傷が・・・」


 そう言って美月は俺の肩をみる。だが、生憎だけど俺は極致に入った瞬間、全力で肩の骨をはめたのだ。

 痛かったがそんな痛みには慣れているので俺は耐え後ろに移動し音を鳴らす。


 「掻い潜った修羅場の差だな。実力は美月、お前の方が上みたいだが戦闘経験は俺の方が上手なんだ。引いてれ、俺はお前をこれ以上傷つけたくない」


 「随分と・・・優しいじゃない・・・・」


 「これでもアンタの弟子だからな」


 俺がそう言うと美月は


 「だがら嫌なのよ・・・その情けが!!その態度が!!!嫌いなのよ!!!」


 そう叫んだ。


 「お前は耳をやられた。立つのだって難しいだろうよ。片耳使えない状態では身体がおぼつかないだろうぜ」


 「どうしてそんなに変わってしまうのよ・・・生・・・ッ」


 「人は変わらずしては生きれない存在だ。逆にアンタはよく変わらないな。驚くよそっちにな」


 背中合わせに俺と美月は言葉を交わし合う。

 美月の身体がガクガクと震えているのが伝わってくる。いくらアンタでも無理しているんだな。

 そんな美月を・・・俺をかつては接してくれた大切な師を俺は手にかけたくない。

 だから俺は 


 「なあ教えてくれ。どうして俺を殺し禁忌の存在を消そうとする?」 


 そう聞いたのだ。

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