神無木 美月【その弐】
「久しぶりというべきね・・・境川生・・・いや、生」
「美月・・・どうしてお前が」
夏、Mr.Kのいる「無の部屋」を警察たちが確認した時に神無木の姿は無かった。だから俺はてっきりもう死んでしまっていたのかと思い込んでいた。
だが、それは違っていた。美月はこうして俺と御神槌の前に立っている。足もちゃんとついているし、何よりこの場にいる俺たちが共通して見えているということが何よりの生存確認だったからだ。
「そう警戒しなくてもいいわよ。別段貴方とやり合うきは今のところないから」
「騙されるなよ境川ァ・・・」
御神槌は右腕を抑えながらそう言った。
どうやらこれは美月によってやられたらしいな。血も出さずにここまでするとは相当な手練ってところか。
「要件だけ聞いておこう、何しにこの街にきた」
「──聞いたわよ生。貴方色々やってきたんだってね。アメリカに渡ってシャルル・ヴァン・シュトローゼを倒し、その手下である織田樹に勝利した・・・・他にも無の部屋の長であるKをも倒すだなんてフフ、流石は生ってところね」
「何がいいたい」
「でもね。それは貴方個人の勝利ではない。貴方に今のスタイルは似合わないわ」
告げられた一言。それは今の俺を否定する言葉だった。
「貴方は一人で闘うことに長けている人間よ」
「言ったはずだ。俺は友を欲したと」
「どうだか。心のどこかでは気づいているんじゃないの?」
気づく・・・何にだよ。
「友なんていらない・・・ってね」
「言いたい放題だな」
「あら、怒ったかしら?」
ニヤっと笑みを浮かべて美月は楽しそうに口を再び開く。
「まあ実際それを言いに来たんじゃないわよ。でもまだ友を欲しているとは思いもしなかったわ」
「手短に済ませるんだな。これ以上無駄口を聞くとお前でも容赦はしないぞ」
「あら怖いこと──じゃあ手短に・・・」
そう言って美月は左手を空に向かって上げ、ブンッと境川の首をめがけて一直線に振った。
「境川ッ!!」
ガシィィ.....
美月の攻撃は届かず俺はそれを片手で掴み取る。
「やり合うつもりはないんじゃないのか?」
「やり合いはしないわよ。ただ『一方的にやる』だけよッ」
バッと俺の腕から美月は離れ一歩後ろに下がる。
「貴方があの部屋を出てもうすぐ一年・・・考えが変わっていると思ったのだけれど、どうやら予想通りそのままのようね」
「愚かな。俺が考えを変えると思うか。あの部屋で考えが変わったのはあのやり方に不満を感じたからだ」
「たかが一人の女のために情を取り戻し、なおこの世界に生きる貴方は醜いわ」
「何とでも言うんだな。俺は守るべきものがある限り考えなど変わりはしない」
「・・・・どうやら貴方に技を教えたのは間違いだったのかしら」
「・・・・・」
そうだ。俺に禁忌を教えたのは美月だ。友を欲しなかった俺に興味を抱き美月は俺に「禁忌」・・・言い換えれば「対殺人用」の技を俺に教えたのだ。
それは決して使うことのできない技、しかも仲間を欲し守るべきものがある俺には絶対に使うことのできない技。
「私の間違いは生、貴方という存在。貴方がいなくなることで私の禁忌を知る者はいなくなる。ここで死になさい」
「断る。俺はこんなところで死ぬわけにはいかない・・・どうしてでもというのなら俺は美月、お前を止める」
「弟子が師を超えることはない」
「どうかな。弟子は師を超えて一人前になるんだよ」
「なら、貴方は一生半人前ね」
──そう言うと同時に美月は一直線にこちらをめがけて走ってくる。
「はあ!」
走り勢いをつけたその状態で蹴りの体制に入る。
俺はそれを見越し先にガードの体制に入っていた。
だが、美月の攻撃は俺の両手をグッと構えた腕の下を狙いそこを蹴り上げるような形で足技を放った。
当然俺の両手は崩され無防備な状態になる。
「ッしま・・・」
「これで終わりよ──喰らいなさい『紫電』!!」
美月の身体が紫色のオーラに包まれる。
そしてそのまま目にも止まらない速さでドン・・・と俺の方に突進してくる。
「くっ・・・」
俺は避けようと身体を倒すが、
──ドシュ.....
避けることが間に合わず左肩に美月の拳がヒットした。
「ガ・・・・っ」
「"紫電"貴方も知っているでしょ?」
紫電──それは肉体的力である足の筋力と腕の腕力の片方ずつのみを強化し、突進する技、狙うは基本的「脳」か「心臓」・・・。当たれば大方即死レベルの危険な技だ。
今回は身体を倒すことで肩に当たるという生存方法だったが、なんといっても即死レベルの技、もはや肩は使い物にならない状態になった。
「どう?血も出ないからただの喧嘩にしか思われないわ。これ以上やるのなら楽に殺してあげるわ。警察が来るのは厄介だしね」
マズイな・・・思っていた以上に・・・美月は強いぞ。
片方の肩がイカれた以上今の俺に勝ち目はあるのだろうか。




