神無木 美月【その壱】
「どう御神槌・・・いっぺん死んでみる?」
突然にそんなことを言い始めた。
「どういう意味だ、神無木!!」
「言葉の通りよ。私は境川生に興味があるの。残念ながら貴方ではない。だから・・・貴方を殺して境川生の出方を見る」
神無木の腕は御神槌の胸の近くにある。これは一瞬で殺れるという意味だろう。
迂闊な返答をすれば御神槌の命は危うい。
「殺すか、容易に言うじゃないか。ここは人の多い駅前だぜ?」
「脅しても無駄よ。やると言ったらやるわ」
「へえ・・・」
この至近距離だというのに御神槌は焦りもしなかった。
「んじゃ、まあ・・・抵抗はさせてもらうぜ!!」
そう言うと同時に御神槌の身体周りに風が舞い上がる。
その風に吹き飛ばされ神無木は少しだけ後退させられた。
「風使い・・・ですか」
「そうだよ。俺は風・・・空気を扱うことを得意とするんだ。まあ最も本来の逸材とはかけ離れてるけどな」
「御神槌・・・」
「よく言うだろ?『能ある鷹は爪を隠す』ってな。俺はひっそりと進化を遂げているんだぜ」
「逆に境川生は『嚢中の錐』....貴方と正反対の人間ってことね」
「そういうことだ。同じ部屋の卒業生だが、選んだ道筋が彼奴とは違ってね」
「なるほど、少しは面白みがあるのかもしれないね」
神無木は不敵な笑みを浮かべてそう言った。
「でも面白みだけじゃ何もできないわよ」
「どうだかね!!」
──ビュン、と御神槌は一気に間合いを詰める。
そして腕を伸ばして両手でガッチリと神無木を掴み取った。
「とりあえず逃がさせやしないぜ」
グググと御神槌は力を入れて神無木をその場から動かさないように封じ込める。
「・・・邪魔ですね。この腕」
しかし神無木は掴まれたというのに表情に変化がない。
痛みも焦りも生じていない。そう、神無木は至って冷静のままだった。
──ピン!
ガッシリと腕は掴まれていたが、指は全然動かせていた。
だから神無木は指を自信を掴んでいる御神槌の手にピンとてこピンのように弾いた。
「おや・・・?」
「ッ!!」
御神槌は攻撃を喰らった直後、何かに気がつきその場をバッと身を返して下がった。
「おかしいですね。本来なら腕の一本持っていったと思ったんですけど・・・どうやら頑丈な身体をお持ちのようね」
コキコキと手首を回しながらそう言う。
(神無木は今ピンと指を弾き俺に触れただけだ。だが何かが危なかった。切断に近い何かを感じた)
御神槌は自分の右腕をみる。血も出ていないし切られた後もない。だが、ハッキリと理解していることはある。
それは「右手に力が入らない」いくら力を込めても右手に力が入ることはない。
(あれをもう少し深く喰らっていたら神無木の言うとおり腕が持っていかれていたかもしれない)
幸い切断までとは行かなかったが、右手は現在使い物にならなくなっていた。
(神無木・・・恐ろしいやつだ。これほどの人間がいたとはな)
「まあいいでしょう。次しとめれば言いわけだし」
そう言って神無木の方からコツコツと近づいてくる。
「──待て」
不意に横から声が入る。
「待て」
俺は駅前に到着した。すぐに目的の人物は見つけることができた。
なぜなら何か喧嘩じみたことをやっている影が見えたからだ。
状況は御神槌が不利だ、だが、御神槌は血を出していない。なのにあそこまで弱ってみてるのは正直驚いた。
「待っていたよ、境川生」
御神槌の前に立つ女はそう言った。
「お前・・・・まさか」
俺の眼に映る彼女、それは紛れもなく俺の夢・・・・過去に出会った少女そのものだと瞬時に理解をした。
「神無木....美月」
俺に禁忌を教えた張本人、美月は今になって俺たちの前に現れたのだった。




