偽り
この世は偽りだらけだ。人は必ず嘘をつき、嘘をつかない人など存在しない。
──ある人は自分のプライドのために。
──ある人は己の欲望のために。
──ある人は関係を保つために。
人は必ずしも嘘をつく。それが正しい事のためなのか、負のためか。それは嘘をつく本人にしか分からない。
だが、嘘は決していいことではない。だからといって本音だけで世を生きることはできない。
「本音」という言葉がある以上、「建前」という言葉は必ずついてくる。「嘘」があるから「真実」がある。
こうして人は生きてきているのだ。しかし偽りは時として矛盾を生じさせる。いかに真実に近い嘘をつくか、それが成すことできれば人はまた進化を遂げるだろう。
「・・・・・・」
俺は考えていた。昨日見た夢を。
なぜ今になってあのような夢を見たのか。嫌な予感が当たらないといいんだけどな。
ふと目の前に座っている命を見る。命は何も変わらず朝ごはんを食べていた。
隣にいるリアも同様、この二人は俺の過去をよく知っていない。
「生・・・・?」
視線に気づいたのか。命は不思議そうにこちらを見ていた。
「どうかしたの?」
「いや、何でもない」
本当は命の力でこの先の未来を見てもらおうと思った。だけどそれをしてしまえば命はこの先もし、俺の考えどおりになった未来を見たらきっと青ざめてしまうだろう。
何でもないと答えたが、それは嘘だ。だが命を苦しませるわけにはいかない。
「そう」
危ない危ない。今回はまだ何も起きていないんだ。俺の思いすごしだよきっと・・・。
「──それでは次のニュースです」
俺は見るところがなかったのでテレビに視線をやる。
「今朝発生した事故ですが、何者かが細工をしていたことが明らかになり....」
「えー事故・・・ってこの辺じゃん。怖いわね」
命も丁度テレビを見ていたようだ。確かにこの辺だな。
テレビに映っている街、駅前の近くの道路か・・・。朝ってこともありそこには人が多くいる。社会人から学生、そしてフードを被った・・・・
「ッ!!」
ガタッっと俺は椅子から飛び立った。
「兄様・・・?」
隣にいたリアがびっくりした様子でそう言った。
(まさか・・・彼奴・・・・)
テレビ越しに映っていたあのフードの人物。直感だが彼奴は・・・まさか・・・・。
「おーはよう」
結局時間が来てしまい。俺と命は学校に投稿していた。
命は元気に楠に挨拶をする。
「あら、おはよう東雲さん・・・それに境川くんも」
「ああ。おはよう」
素っ気なく返す。
「なあ楠、御神槌はどこにいる?」
近くに御神槌はいない。いつもならいるんだけど・・・。
「さあ、見てないわね。御神槌なら朝からどこかに行ってるみたいよ」
「まじか・・・」
同じ逸材者として確かめたいことがあったんだけど、いない以上どうしようもないか・・・。
まあいざとなれば電話でもするかな。
「急ぎ?」
「いや、大丈夫だ」
心配して聞いてくれたが、まだ確信がないので俺はそう言った。
「最近色々事故が多いから御神槌ったら巻き込まれてなければいいんだけどね」
はぁ、と楠はため息をついてそう言った。
「そう言えば確かに事故多いよね。なんでだろう」
命は首をかしげている。
「そう言えば御神槌 昨日駅前がどうのこうのって言ってわね・・・」
「・・・なんだと?」
「いや、多分今日いない理由とは関係ないと思うわ。最近あそこ付近での事故が多いから気にしているだけかもしれない」
てことは今御神槌がいるのは駅前・・・?
「ヌッ!!」
俺は目に力を入れて千里眼の力を使う。遠くを見渡せるこの眼で俺は駅前の方を見た。
(御神槌・・・居た!誰かと話しているな)
生憎、耳の力は使っていないので映像しかみれない。だが、御神槌が話している人物はフードの人物だった。
「ッ・・・!彼奴!!」
俺は目の力を解除してダンと駆け足で教室を出た。
「ちょ、生!!?」
「境川くん!!?」
二人の声が聞こえた気がしたが、俺はそれを無視して駅前を目指して全速力で走った。
──駅前、そこに御神槌は存在していた。
コツコツと歩き、フードの人物の前に立つ。
「・・・何かようかしら?」
フードの人物はそう聞いた。
「用・・・そうだな。あるぜ。ここ最近の事件、お前の仕業だろ?」
「へえ・・・何を根拠に?」
ニヤリと笑いそう言う。
「はっ──なんでだろうな。直感っていうのかな」
「・・・ああ。思い出した。貴方確か・・・」
そう言うとフードを人物はフードをバサっと脱ぎ捨てた。
「御神槌....確かそんな名前だったわね」
「覚えていたか。"神無木"」
神無木、それが彼女の名前だった。
「久しぶりというべきかな。御神槌・・・まさかアンタもこの街にいるとは思っていなかったわ」
「俺を求めてではない・・・てことは境川か」
「ご名答、フフ・・・。話が早くて助かるわ。それで、彼はどこにいるのかしら?」
「俺に答える義理はねえ」
「これほど事件で目立っているというのに彼は動かない。これはもっと大きいことが必要なのかしらね」
そう言って神無木は御神槌の胸あたりに腕を伸ばす。
「どう御神槌・・・いっぺん死んでみる?」
そして、突然にそんなことを言い始めたのだ。




