未来への意向
あたり一面の空気が冷たくなっている。冬が来た。12月どこもかしこもクリスマスの準備が進められており冬だということを実感させてくる。
日が出ていても気温は低く、厚着をしていないと寒いくらいの気温だった。
「もうすっかり寒くなったね」
厚着を着こなしている命はそう言った。
「そうだな...」
「もうすぐ冬休みだね・・・そしたら年が開けてすぐに卒業の時期・・・」
命は少しだけ寂しそうな感じだった。
それは卒業する生徒に会長と愛桜先輩がいるからだ。あの二人はここ半年でとても絆を築いてきた存在。その二人がいなくなると思うと寂しいのだろう。
だが別れは必ずやってくるもの。楽しい時間はいずれ過ぎ去っていく。それを押しとどめるのは無理なのだ。
「なあ命」
卒業という単語で俺はふと脳裏に過ぎったことを口に出す。
「──生徒会に・・・興味はないか?」
「えっ・・・?」
命は目を大きく見開いて口を大きく開けてた。
「どういうこと?」
「数日前、俺は会長に生徒会に入らないかと誘われた。会長はもうじき卒業する。それにあたって後継者・・・言わば生徒会の次世代を担う人物を探しているらしい」
「生が誘われたの・・・凄いじゃない」
「だが、正直迷ってる。俺は学園の上に立つほど偉い存在ではない。それに俺の性格知ってるだろ?」
俺はそう言うと命はハッとそれに気づきどうしたらいいのか分からない感じになってた。
会長には色々と世話になった。それを考えると恩返しとして引き受けるのもまた一つの道。だけどそれでいいのか・・・俺は目立ちたくはない。
──私の目の前で生は考えている。
生徒会に入るのか否か。生の性格はよく知っている。誰よりも目立つのを嫌う。だから生徒会に入るのも抵抗を感じている。
私はどちらかといえば入るのに応援したい・・・でも生の事を思うとそれは叶わないことなのだ。
(どうしたらいいのかしらね)
考えれば考えるほど難しい。だけど私にアドバイスが出来ることなんてない。
私はただ葛藤している生を直視することしかできなかった。
『──仲間を欲した・・・それが貴方の敗因よ』
(ッ・・・!?)
一瞬私の頭によく分からない映像が流れた。
駅前に立つ生と女の影・・・その光景は記憶ではない。
(これは・・・未来・・・!)
なぜこのタイミングでなのかは分からない。でも確かに言えることはあった。
あの状況、生は傷を負っていた。生は負けるはずがない。でも向こうは無傷だったのだ。それはこれから訪れる光景なのか、それとも別の何かなのか。それすらわからない状況だった。
だがもしあの光景が真実なのなら・・・いやあれは必ず真実だ。私の未来視は絶対・・・抗うことはできない。
(生....)
私は心配な眼差しで生を見る。
生は最強だ。魔王と呼ばれた逸材者にも劣りもしないその実力...ハッキリ言って無敵だ。そんな生を苦しめる敵がこれから先現れるというのだろうか。
"仲間を欲した"──その言葉だけが手がかりだ。生が仲間を欲したから相手に勝てなかったのだろうか。それともあの言葉には別の意味が隠されているのだろうか。
生に聞けば少しは分かるのだろうけれど私にはそれを聞く勇気は無かった。
──色々考えた。生徒会に入るか否か。でも答えは出なかった。
俺はベッドに横たわり天井を見上げる。
(・・・・迷いか。俺らしくもない)
これから先の未来、そのことを気にしているのか俺は答えを見つけ出せない。
また誰かを傷つけてしまうのではないかと心配にもなっているその足枷が俺の考えを鈍らせているのだ。
『境川くん。貴方はまだ力を蓄えているそうでしょ?』
楠の言葉が過る。力を蓄えている。禁忌の技を除き俺はまだ確かに残している。
だけどそれは振るうことのできない技に過ぎない。もし、俺がその技を使うときがあるのなら・・・・
(いや、この事は考えるだけ無駄か)
俺は目をつむり思考を停止させる。
そうだ。俺は決して残された技を使うことはない。
なぜならそれを使うことが出来る時は「俺が仲間を見捨てた時」なのだから....




