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逸材の生命  作者: 郁祈
第六章 偽りの因果編
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冬の訪れ

 風が冷たく冬の寒さが近づいてきている。

 11月下旬、風は冷たく気温も当然ながら低い。そんな中俺は外に出ていた。

 要件は特になく休みの日の散歩みたいなものだった。(みこと)とリアは家に置いてきた。あの二人がいると休まらないところもあるしリアに至っては外に出るのは容易ではないからだ。

 命は「大丈夫だよ、帽子被れば」と言っていたが、万が一の可能性を判断して俺は家に残させた。それにこれから"合う"人物にはあの二人がいては話にならないしな。


 外を歩いているとところどころクリスマス用のグッズとかが売られ始めているのが目に入る。つい最近ハロウィンの時期だった気がするんだけど日本は相変わらずそういったイベントごとの準備は早いってことだよな。

 テクテクと街を歩いている。こうして普通に歩くのもいつ以来だろうか。もう長いことやっていない気がする。最近は色々あったからな。

 ──入学当初は学園のやり方に違和感持ちそれを調べていた。

 ──それから少ししたら他の逸材者と出会い、闘った。そして学園の存在理由を知った。

 ──夏休みに入ったかと思えば、過去の因縁との決着をつけた。

 ──夏が終われば今度はアメリカから助けを求められそれに応じた。

 ──それが終わったらその倒した仲間から恨まれ殺されそうになった。


 こうして見ると結構デンジャラスな半年を送っていたんだな俺って・・・。最初のほうが可愛く見えてくるよ全く...。

 色々なことを思っていると駅の前にポツリと誰かを待っている女性が立っていた。


 「よぉ・・・"(くすのき)"」


 俺は声をかける。

 楠 (くすのきかえで)──俺たちと同じ恋桜学園の生徒。逸材者である御神槌(みかづち)の隣にいつもいる何を考えているのか分からない感じの女だ。

 前までは長い髪の毛だったのだが、いつ日からか楠は青に近い黒い髪をバッサリと切っており、ショートヘアーになっている。

 

 「遅かったわね境川くん」


 「待ったか?」


 「いや・・・そうでもないわ」


 そうは言うが楠の身体は冷え切っているように見えた。どうやら待たせてしまったみたいだな。

 彼女が単に早く来ただけなのか、俺が遅いのかは分からないがどのみちここにいては余計に冷えるだけだな。


 「どこか入るか」


 そう言って俺と楠は近くの喫茶店に入った。


 




 「──それで?何で俺を呼んだんだ」


 店に入って少しして楠が落ち着いたとき俺はそう聞いた。

 呼び出しをくらったのは昨日の夜だった。突然メールで「明日暇?」と聞かれて「暇だよ」と返したら「じゃあ明日ちょっと来て」とメールが来たのだ。

 正直なところ御神槌がいない楠って苦手なんだよな。なんか話しづらいというかね・・・。

 楠はテーブルの上に置かれているコーヒーを手に取りそれを飲んでいる。

 コン、とカップをテーブルに戻してようやく口を開いてくれた。


 「呼び出した要件は色々あるけれど、まずはこれよ」


 そう言って楠は二枚の写真をスッと見せてきた。

 写っているのはこの前の学園の状態だった。これは織田樹と闘った痕跡、今は修理が終わっているが写真が残っているとはな。


 「これがどうかしたのか?」


 「これ、境川くんが関係しているんでしょ?御神槌も気にしていたけど貴方は何も言わなかった。一体何があったの?」


 樹との闘いは俺と命、リアそして会長に愛桜先輩だけが関わったことだ。珍しく御神槌と楠には伝えなかった。

 それはみんなを巻き込みたくないと思ったからだ。樹の狙いは俺ただ一人だった。だが、彼奴は邪魔をするのなら誰であろうと殺そうとする厄介な性格を持っている。だから俺は声をかけなかったのだ。

 

 「ただ逸材者が襲ってきただけだよ。それ以上には何もない」


 全てを伝えるのも面倒だったので俺は適当にそう言った。


 「そう・・・これまで貴方を見てきて私は色々疑問を持った。それは貴方の逸材が何なのか、そのことよ」


 「・・・・・」


 それは誰もが思っていることなのかも知れない。だがみんなは聞いてくることはしなかった。いや、聞かないんじゃない──それが当たり前になっているんだ。俺が多彩な技を持つのが俺のスタイルになっているんだ。だから誰も聞いてこないのだ。

 それでも楠は聞いてきた。きっと彼女は冷静かつ慎重に俺を観察しているのだ。最初に出会った時から。


 「御神槌や他の逸材者と比べてスタイルが明らかに違うのよね。それに貴方は全力を出しているように見えない。どこか力をセーブしてるように見えるわ・・・・Mr.Kのときもね」


 「何を根拠に・・・」


 大事な闘いで手加減なんてするものか。それにMr.Kの実力は俺より上だったはずだ。そんな相手に手加減なんてできやしない。


 「これは独断と偏見が入るわ。でも境川くん。貴方はまだ力を蓄えているそうでしょ?」


 楠の言ったことは合っている。まだ力は残っている。だが、それらは全てとは言わないが過半数が「禁忌」とも言える技・・・過去に戻れる既視感(タイムリープ)のように乱用が許されない技だ。

 

 「他にも貴方は周りをよくみて行動するタイプね。始めて御神槌と闘った時貴方は地形や相手の行動を利用して勝利を得た。つまりその気になれば自分の手を汚さずに相手を仕留める手段を思いつくことも容易のはずよ」


 こいつは驚いたな。俺をそこまで分析している奴が居るなんてね。


 「でも最近の貴方からはそれを感じられない。それはなぜかしら?」


 「さあな・・・右目を失ったからかもな」


 光を失った右目。まあ実際関係ないけど誤魔化せるなら俺は何とでも言うさ。

 

 「・・・・・」


 楠はジトーと俺を睨んでくる。そうとう疑っているようだなこれは。

 少しして楠は「はあ」とため息を漏らした。


 「まあ、黙っているのならそれでもいいけど、素直になったほうがいいんじゃないの?」


 「・・・・・そうかもしれないな」


 いい加減黙っていることはできない。いずればバレてしまうことなのだ。だったらいっそのこと自分で言ったほうがいいのかもしれない。


 「境川くん貴方は本当に平穏だけなの・・・望んでいるのは・・・・」


 「もちろんだ」


 素早く返答をする。

 そうだ俺はただ平穏に暮らしたいだけ。それ以上もそれ以下もない。ただ何事もなく生活するのが俺の理想であり最終目標だ。

 何があろうと俺はそれを貫く。

 

 それから俺と楠は店を出て少しだけブラブラしていった・・・・。

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