逸材の生命
「──ずっと前から貴方のことが好きでした」
目の前にいた俺の幼馴染ある東雲命はそう言ってきた。
「ずっと生のことが好きだった。伝えたかった。でも、生は小学生を卒業したと同時に引越しをしちゃったでしょ?それでずっと言えなかったの・・・・」
ずっと前から好きだった。それは小学生のころまで遡ってのことで俺は驚きを隠せなかった。
だが、予兆はあった。ここ最近の命はどこかぎこちないところが存在してた。
でも俺にはその理由は分からなかったし、当の本にである命も気にしないでと言っていたため、気にはしていなかった。
しかしながらそれが俺のことを好きって気持ちだったなんて全くもって予想外で俺もなんて返したらいいか分からなかった。
「生・・・」
命はいきなり俺に抱きついてきた。
抱きついたせいか命の柔らかいものが当たってしまっている。
「み、命・・・?」
「ん・・・」
命は顔を近づけ、俺の口にキスをした。
「へへ、なんか抑えきれなくて」
命は吹っ切れたかのようにいつもとは態度が違かった。
「落ち着け命」
俺は命が少しおかしいと思い、そうったが、命は
「私は落ち着いているよ。でももうこの気持ちは抑えれない」
そう言い命はさらに力を強めて抱きついた。
「ねえ、生は私のことどう思っているの?」
「・・・分からない。恋愛感情ではないが、俺はお前のことを大切に思っているのは確かだ。俺はお前を守ると誓った」
好き嫌いか以前問われた時があったが、そのときは嫌いでないといったが、それは恋愛感情があったからだ。
闇雲に好きだというわけにはいかないのでこの系統の質問に俺はめっぽう弱い。
「私は何度でもいうよ・・・好き・・・大好きだよ」
どうしたらいいのか分からなくなってきた。
だが、
キーンコーンカンコーン
予鈴のチャイムが鳴った。
よくよく校庭を見渡すと、上級生の集まりは消えており、もう生徒が登校している時間帯だった。
「み、命・・・予鈴なったんだ教室行くぞ」
俺は強引に命をどけ、そう言った。
「ちぇー・・・まあでも同じ教室だし♪」
──これに関しては俺が完全に甘かった。
教室が同じだから命は、教室・・・次席に着くまで俺の肩に抱きついてきたのだ。
当然教室に入るとその光景に、周りはざわつき出す。そりゃそうか・・・。
俺は席の後ろにいる棗に
「よ、おはよう・・・」
と挨拶をした。
「おはよう生って命ちゃん何してるの?」
このクラスの誰もが気にしていることを棗は聞いてきた。
「さあ、何が何だかな」
と俺は誤魔化したが、
「フフフ・・・生♪」
となりにいる命を見て棗は、
「ははぁん・・・なるほどねえ」
何かを悟ったようだった。
「何がなるほどだ」
「いーや、何でもないね。フフ・・・幸せ用だね命ちゃん」
棗は微笑みながら命をみて、嬉しそうにそう言った。
そういった直後、丁度先生が入ってきて朝のHRが始まった。
──次に気が付くと、空は夕焼けだった。
「あれ、俺寝ちまったか・・・」
周りを見渡すがもう誰も残っていない。棗でさえ帰宅しているのだ。
「朝の早起きは俺にとって害みたいだな」
次からはちゃんと二度寝をしよう。俺はそう思った。
しばらく席に着いてると教室のドアがガラガラっと開いた。
「あっ、生 起きたんだ」
命が入ってきた。
「もういきなり寝たからビックリしたよ。しかも昼になっても起きないんだもん」
誰も起こさなかったのかとツッコミを入れたいが、棗はどうせ寝てるだろうし、俺に至ってはクラス一の嫌われ者だ。起こす人などいるわけない。
「心配したか?」
素朴な疑問だったが命は
「ううん。朝も早かったし、眠かったんだろうなって思ってた」
なるほど、だからこいつも俺を起こさなかったのか。
「──それに」
ん?
「寝ている生の顔・・・・見たかったし」
顔をリンゴのように赤くしながら命はそう言った。
「悪趣味な・・・・」
皮肉のように俺は命に言葉を返す。が、命の元には届いていなかったようだ。
──ゴォォォン
突然、放送から奇妙な音が流れ出た。
「ええ!?なにこの音」
命は突然過ぎて、反応に困っていた。小さな身体が飛び跳ねたことから驚きはしたっぽいな。
「・・・・・・」
ザザザ・・・・ノイズ音が流れる。
そして少しして、
『やあ、境川生』
放送から男の声が聞こえた。
『この放送はこの学園から流しているわけではない。音で探知しようとしても私の姿は捉えることはできないだろう』
──この男・・・・俺の逸材を知っているな。
音の探知を封じてきた。これは誰がどこで喋っているか理解することが難しいぞ。
『──なに、気にすることない。私は別にお前の敵になるつもりはないんだ』
「・・・・何が目的だ」
果たしてこちら側の声が届いているのかは分からないが、俺は放送がかかっているほうに向けて声を出した。
『これは忠告だ。いいか一度しか言わない。聞き逃したなどくだらんことを言うなよ?』
『"境川生、キミはこの恋桜学園を・・・やめるべきだ"』
放たれた忠告は俺も命も予想していなかったことだった。
俺が恋桜学園をやめるべきだと・・・・
『理由は極めて簡単だ。入学時のテスト及びこの前行われた科学の小テスト・・・この二つの結果、君はこの学園では相応しくないと判断をくだした』
「下したのは誰だ?お前か!」
『いや、私ではない・・・国だ』
国・・・・それはこの日本が決めたことということ。
『君のような天才・・・・いや逸材はもっと上の学校に行くべきだ。そう国は判断をしている』
反論をしようかと思ったとき、スッと俺の袖が掴まれていることを理解した。
「命・・・?」
命は震えていた。何かに恐怖をするように。
「生・・・この声・・・"お父さん"だよ」
お父さん・・・・それは俺の父親だというのか・・・・。放送を通しての声だけでは判断しかねるが、命はそう感じ取れたようだ。
『ん・・・その声は東雲命か。なるほど、お前が転校を嫌そうにするのも理解できたよ』
『なら、私の話はここまでだ。長時間放送を陣取っているわけにはいかない身でね。また後ほど』
プツン・・・
そう言い残して放送は切れた。
「何を考えていやがるんだ・・・・」
要求してきたのは俺の転校だ。それをどういう理由でしてくるかは出来ない。ただ俺がこの学園に相応しくないと言っていた。
「命は嫌か?俺が転校したら」
命に聞いてみた。俺は命が心配でこの街に帰ってきた。だから、命が大丈夫そうなら俺は・・・
「嫌・・・・でも貴方のお父さんが決めたことでしょ?だから・・・・」
「俺は命に聞いている。今はオヤジのことは忘れろ」
俺は命の肩を掴み、力強くそう言った。
「嫌!!私は生が好きだから・・・・離ればなれになりたくない」
涙を流しながら命はそう答えた。俺と離れたくない。それが命の想いだった。
俺は命の意見を確認できると、ポケットから携帯を取り出し電話をかけた。
『──生か・・・どうした?決心でもついたのか』
かけた相手は勿論父親だ。
放送しないでこっちにかければいいのにと思ったが、まあ父ながらどこにいるのかも分からないしあまり問うことはしないでおこう。
「オヤジ・・・悪いが転校はしない。俺は命と一緒に卒業する」
『なるほど・・・彼女が心配そういうことだな?』
「ああ。そうだ」
『その答え・・・しかと国に伝えよう。正直なところ私もあまり転校はしないでもらいたい身だ。私に無理を言いその街に戻ったんだ。ちゃんと卒業してもらわんと困るわな』
「・・・・それだけ、じゃあな」
ピッっとボタンを押して俺は電話を切った。
携帯をポケットにしまい。命の方をみる。
「ちゃんと伝えた。転校はきっとしないと思うよ」
「生・・・・!」
命はとても嬉しそうな顔をした。
「この学園は色々が謎に包まれているからな。それを解き明かし、俺はこの学園でお前が幸せに生活できるように変えてみせる」
俺という存在のせいで命・・・それだけでなく棗までクラス内で嫌われてしまっている。それはいずれクラスだけでなく、学年・・・そして学園全体と広がることだろう。
だが、それを承知で二人は俺と接してくれている。だから俺は・・・この二人をクラスに溶け込まさせてやりたい。
守ると決めた。だからまずは嫌われなくさせてあげたい・・・・俺はそう思っている。
「──私は何があろうと生の味方をする。だから・・・・無理はしないで」
「フ・・・ああ」
無理はしない・・・・だけど俺はお前のためには無理を承知でいかなることもやるつもりだ。
それが俺に残されたたった一つの生きる道なのだから。
逸材者・・・命は俺の逸材をほんの少ししか知らない。だが、もし全てを知ったら・・・・・
・・・その時も命は隣にいてくれるのだろうか。
命を見る。彼女はまだ俺を知らない・・・・。だがそんな俺を好きと言ってくれたただ一人の幼馴染
「ん?どうしたの生」
命を直視したまま動かない俺を見て心配そうに言う。小柄な身体なせいか命が俺に話すといつも上目遣いになる。
その動作は何をしていても可愛いと思う。
・・・・そうか、この気持ちがそうなのか。
ずっと気づかないふりをして、遠ざけていた恋愛感情。間違ってでも俺は恋愛を好むことをしなかった。
それは何もない空間で生活をしていたからそう言った感情を捨てさせられたからだ。
でもこの街に帰ってき、俺は少しずつ感情を取り戻していた。
そのときいつも傍にいたのは命だ。だから俺はそんな彼女に気がつかないうちに惹かれていたんだ。
俺は命に抱きついた。
屋上では命が俺に抱きついてきたが、今度は俺が抱きついたのだ。
「え・・・しょ、生!!?嬉しいけど・・・・本当にどどどどどうしたの!!」
「命・・・・──ずっと考えていた」
お前に告白されてから・・・俺はどうしたらいいのか。ちゃんと答えるべきなのか。それとも俺は変わらず生活をするべきなのか。
誰かを好きになったことがないからこそ、俺は考えることができず答えを出せなかった。
「なあ命・・・屋上で言ったお前の告白。返事をしてもいいか?」
でも答えは出た。
一日・・・・大方寝ていたが俺は命と一緒にいて理解した。
──命が好きだと
だから俺は、
「俺もお前が好きだ・・・・大好きだ」
告白の返事を返した。
「生・・・・」
抱きついていて命の顔は見えないがきっと命の顔は嬉しそに泣いているんだ。
「俺はお前が好きだ・・・そしてなにがあっても俺はお前を守る。俺はこの街に戻るときそう誓った」
──無の部屋で死んでいった人のことを思い出す。あの時は感情が死んでいて何も思いはしなかった。
でも、その光景はもう二度と見たくない。
この学園で生き残る。そして変えてみせる・・・・。
俺だけでなく、命と一緒に。
誓を胸に──俺はそっと命の口にキスをした。