戦いは最後の五分間にある。【その肆】
「はあ!!」
キン!と俺は刀を振るう。
「フン!!」
それを樹は跳ね返す。
いつもならここで一旦下がるが、今の俺の左手にはもう一刀の剣がある。
「せいやッ!」
左手に握られた剣を俺はクルッと回転しながら樹の元に振るう。
「くっそ・・・!」
だが、奴の判断力は尋常ではなかった。剣が当たるギリギリて姿勢を低くし攻撃を避けた。
二刀流になったところで樹には大した変化ではないのだろうか。
「はあ・・・はあ・・・はあ・・・」
いや、そうでもないみたいだな。
樹は息を切らしている。そりゃそうか。一刀の時よりも攻撃の回数が増えているんだ。
避ける樹はそれそうに動き回らないといけなくなっている。だから体力の減りも早まっているのだ。
(とは言え、俺も限界が近いか・・・)
今は極致の状態だからまだ動けているが、恐らくこの状態が解除されたとき俺は動くこともできなくなるだろう。
残された五分間、それが俺と樹の運命を分ける時間だ。
「・・・・ッ」
俺も肉体が悲鳴をあげてるわ。
界○拳使った並の反動だぞこれ。
だけどようやく訪れた好奇なんだ。ここで倒れるには早すぎる。
俺は全身に力を入れその場に踏みとどまる。
「境川・・・貴様がシャルル様を殺す力量があったこと、認めよう」
樹は突然そう言ってくる。
「だが──許しはしない。この一撃に私は全てを賭ける」
「イツキ・・・貴方」
アンジェリカは樹の言葉に心配そうな表情になる。
「我が一刀、ここに示す」
チンッと刀を鞘に収めそう言う。
樹の周りにヒュウウウゥと風がこみ上げる。
(これは正真正銘最後の一撃か)
俺は迎え撃つ感じで刀を構える。
「喰らえ──残虐/終焉」
突然樹が紫色のオーラに包まれる。
ガタガタと近くにある机や椅子が揺れ出している。それほどの圧力が樹からは放たれているのだ。
ダンッ!とその場を踏み込み樹は俺の死角である右側に移動する。
そして刀を大きく抜き俺の方に振るってきた。
「終わりだ境川ァァァァ!!」
死角であったため俺は樹が移動したことに気付けなかった。
だが、俺は一人ではない。
キン──
「なっ・・・」
そう、俺は既に聞いていた。命から「右に注意して」と忠告を受けていたのだ。
右手に握られているリアの刀で俺は受け止める。
「はあああああ!!!」
そして樹の刀を弾き俺は二本の刀を乱撃するかのように振り、振り、振った。
「はああああああああああああああ!!!くたばれ!」
最後にダンと宙に飛びクルクルっと回転し二本の刀を合わせ樹に斬りかかった。
ザン──俺の一撃は樹に届き樹はその場に倒れこむ。
「・・・が・・・・っは・・・・」
「イツキ!!」
アンジェリカは倒れた樹のもとに走り込む。
「復讐・・・・できなかった・・・・か」
樹はアンジェリカに手を伸ばすがその手は届かず直前で地面に落ちた。
「イツキ・・・・ッ・・・・これが結末なのね」
まるでアンジェリカは分かっていたかのような口ぶりだった。
「生....」
俺は命たちの元のほうに戻ってきた。
「彼女はいいのか?」
会長はメガネをクイッと上げてそう言う。
「アンジェリカに力はありません。彼女は知性は俺たち以上でしたが、樹なき今することはないでしょう。彼女はこのままでいいと思います」
「お前は・・・やれやれ」
会長はそれ以上何も言わなかった。
「とりあえず。この状況を片付けないとな」
血しぶきで汚れたこの部屋。倒れた樹はアンジェリカが運ぶからいいだろうとしても色々後始末が多すぎる。
俺ははぁ、と深い溜息を付きながら終わったんだなと心の中でそう思うのだった。




