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逸材の生命  作者: 郁祈
第五章 復讐の魔王編
87/130

戦いは最後の五分間にある。【その参】

 生徒会室で魔王の逸材者 織田樹と交戦している中、校内では──


 

 「東雲の奴帰ってこねーな」


 ポツンと空いた一つの空席、そこは命の座っている席だ。


 「それを言うのなら境川くんだって同じことよ」


 楠はそう言ってくる。


 「・・・てことは何かあったか」


 「どうかしらね」


 「何か知っているのか?」


 知ってそうな口調を楠はしていたので御神槌はそう聞く。


 「知らないわ。だた、この校内で何かが起きているのは確かね。さっき窓から下の階見てたのだけれど、何か窓ガラスが割れたように見えたわ」


 「窓ガラスがか・・・?」


 「ええ。今現在で窓ガラスを割る人物はそういない。ましてやこんな何もない学園を狙うこと自体がありえないからね」


 「だが、そんな学園のガラスが割れたということは・・・」


 「何かあるってことよ」


 その言葉に御神槌は目を鋭くする。


 「俺の知らないところで何かが・・・」


 「だけど早慶になるのはよしなさい。境川くんが戻ってきていないということは今も交戦中ってことかもしれない。万が一彼が死ぬようなことがあったらマズイから」


 









 ──キン!!キン!!と刀を打ち合う音が響き渡る。

 

 「(しょう)!!右・・・そして上よ」


 「イツキ、右・・・いえ、上・・・!」


 命とアンジェリカの指示を元に境川と樹は刀を振るう。

 アンジェリカが出す指示を覆すかのごとく命の指示は的確だった。

 未来視と推理では未来視の方が有利なのは明白。だけどアンジェリカは淡々と指示を出したままだった。


 

 「どうした樹、最初の頃よりキレがなくなってるんじゃないか」


 ザザザ、と後ろに下がり俺はそう言う。


 「ほざけ。たかが女一人追加したところで戦況が覆ることなどありやしない」


 そうは言うが樹の攻撃は命が来て以来一度も当たっていない。

 幾度なく境川に隙はあるのだが、その隙は命が見通しており、回避する手立てを予め指示されているのだ。


 (あの女・・・実に厄介だ。アンジェリカを超えしあの能力。これではこちらの攻撃は当たらない)


 「どうやらお前の恨みの力、そう大したことないみたいだな」


 俺がそう言うと樹は刀をチンッと鞘に収める。


 「・・・なんのつもりだ」


 「アンジェリカの指示が通らない以上、もはやそれに頼るのは終わりだ」


 「ッ・・・イツキ」


 樹の言葉にアンジェリカはゾッとする。


 「所詮最後に頼れるのは己の力のみ、他者に頼ることなど愚の極み、愚か者のすることだ」


 ビュン──かつてない速さで樹は俺の前に移動する。

 そして刀を目にも止まらない速さで振るってきた。


 「ちぃ、!!」


 俺はこうなった以上反応するだけで精一杯だ。


 「私は貴様を許さない。シャルル様を殺した貴様を・・・絶対に・・・・!!」


 樹の攻撃は打つたびにどんどん速さを増していく。

 反応出来ていた攻撃も徐々に反応できなくなっていく。


 「ちぃ、まずい・・・」


 キィィィン・・・俺の刀は弾かれ手が上に上がってしまう。

 つまり今の俺はとても隙だらけの状況ということだ。


 「──終わりだ境川ァァァ!!!」


 マズイ・・・この体制、刀を振り下ろしても間に合わない。

 だが、俺はまだ冷静でいられた。

 樹の攻撃は横から俺の首を狙ってきている。それだというのに俺は冷静かつ恐怖もない。

 なぜか?それは簡単なことだった。


 『────っい』


 その言葉は俺が樹と再戦する前にリアから言われた言葉。


 『"使ってくださ"い』


 リアは俺にあるものを託してきた。

 こんなものを持っているんだとその時の俺は素直に受け取った。全てはこのために・・・。


 ──カァァン、樹の攻撃を俺は弾く。


 「馬鹿な・・・貴様・・・」


 俺の左手に握られているのは紫色に輝いている片手剣だった。


 「刀でなく・・・剣だと」


 「感謝するぜリア」


 右手には刀、左手には剣・・・今の俺は二刀を手にしている。


 「できれば使いたくはなかったんだがな──二刀流、これが俺の最後の手段だ」


 バチバチバチ──俺が二刀を手にした時、そんな音がする。


 (ああ、なんていいタイミングなんだ)


 都合良くも俺は極限の極致の状態に入った。二刀を手にし、なおかつ最大の身体強化。これ以上ないってくらい俺はベストな状態となった。


 「はっ、二つの刀を持ったところでだ」


 「教えてやるぜ、樹──戦いってのはな最後の五分間が勝負どころなんだ」


 今の身体の状態からして極致が持つのも精々五分が限界ってところだ。

 だから、この五分間が運命の分かれ道だ。

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