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逸材の生命  作者: 郁祈
第五章 復讐の魔王編
85/130

戦いは最後の五分間にある。【その壱】

 境川の一撃により辺は煙に包まれていた。

 奇しくも最後の抵抗とばかりに放たれた一撃。それは樹を狙ったものではなく、この場から逃げることを意味した攻撃だった。


 「逃げたか・・・」


 樹はポツリとそう呟く。


 煙が消え辺りが見えるようになる。予想通りそこには境川やリア、会長たちの姿は無かった。


 「最後の攻撃...いえ抵抗と言うべきね。あの状況下で逃げる為の策を講じた彼は評価に値するかも」


 「珍しいなアンジェリカ。お前が評価するとは」


 「あの状態で逃げるのは難しいはず。なのに境川はこの場にいた"全員"を逃がしたのよ。貴方だったらできるかしら?」


 「・・・なるほどな。それは凄いことだ。だが、逃げたところでだ」


 「追いかけるつもり?」


 「無論だ。どのみちこの学園からは出ていないだろう。生徒を脅してでも見つけ出すまで」


 そう言って樹は刀を鞘にしまい部屋を出た。












 「はあ・・・はあ・・はあ・・・」


 俺は片手を抑えながら走っている。

 何とか力を振り絞って生徒会室までやって来た。

 ドアをガラガラと開けて部屋に入る。会長はリアを持ち愛桜先輩も入ってくる。


 「ここまでくれば・・・しばらくは安心だな」


 「境川...貴様──」


 会長はボロボロになった俺をみる。その目は驚きで満ち溢れていた。


 「それほどまでに強いのか・・・奴は」


 「リア...いえ。会長が持っている子はヘタをすれば俺より強い逸材者です。その彼女が勝てなかった程の相手、それがあの魔王です」


 「奴はお前を探しこの学園を歩き回るだろう。犠牲者が出るかもしれない。逃げるのは得策だったか・・・」


 会長も状況は理解している。だけど生徒を巻き込んだこの逃走経路。下手を打てば生徒が殺されてしまう。

 俺はグググと力を入れてその場から立ち上がる。


 「とりあえずリアと会長たちが避難できればそれでいいんですよ。後は俺が決着をつけるから」


 「無茶よ・・・貴方の今の状態。悪いけど彼に勝てるほどのものじゃない」


 愛桜先輩はそう言った。

 

 「同じ逸材者だから分かるわ。今の貴方はあれが限界だった。そうでしょ?」


 「・・・・・」


 その言葉に俺は反論できなかった。能力強化に関しては『極限の極致』が俺にとっての最大の武器だ。

 だがそれは樹には通用しなかった。それは今の段階では俺は樹に勝てないことになる。


 「まだだ・・・」


 勝機はある。あの時俺は拳だった。教室にはリアから借りた刀がある。それさえあれば・・・ッ。


 「生!!」


 生徒会室のドアがものすごい勢いで開く。


 「命・・・」


 ドアを開けたのは命だった。手には布に包まれたリアの刀を持っている。なんてタイミングのいい。


 「見たな(・・)


 「ッ・・・ええ」


 タイミングのいいというのは語弊があるな。命は未来視を使ってこの状況を知ったに違いない。だから慌ててこちらに来たのだ。

 俺がボロボロだってことを理解していたからこそなのだ。だけど刀は手に入ったか。


 「だがまあ感謝はするぜ、命」


 俺は命の頭を撫でた。


 「ひゃ・・・・」


 命は顔を真っ赤にして恥ずかしそうにする。


 「も、もう!生ったら・・・」


 「ありが・・・と・・・な.....み、みこ・・・と・・・」


 ビリ....ビリ・・・と俺の身体は切り裂かれていく。


 「ッ!!境川──」


 会長が気づいたときには遅かった。

 ブシャアアアアアアア・・・身体の至るところから血が飛び出だ。

 目の前にいた命に掛かってしまう形。だが命は一瞬何が起きたかさっぱり理解できずその場に固まっている。

 そして少しだけ間があり


 「──ッ生ーーー!!!!」


 そう叫んだ。


 「がっは・・・」


 これは樹による攻撃の蓄積。奴が今まで攻撃してきた斬撃は高速で切り裂いた一撃と他に時間差による攻撃が存在していた。

 それに気づいたのは突然服が破れ始めた時だ。袖が破れた時、俺はその存在に気づいた。

 今まで力任せに傷の進行を阻止していたが、どうやら限界が来てしまったらしい。気がつけば全身にダメージが与えられていたよ。


 俺はバタンとその場に倒れた。




 「う、嘘でしょ・・・」


 「境川・・・貴様」


 ()と会長と愛桜先輩は倒れた生を目の当たりにしている。

 突然、生の身体から血が飛び出てきた。


 「これが魔王の力・・・境川でもここまでの傷を負わせるハメになるとはな」


 だけど幸いなのは傷のある場所は腕や足に集中している。心臓や脳・喉などは無事だった。

 私はホッと胸をなでおろす。とりあえず死ぬことはない。


 「だが、この間に織田樹が襲ってきた場合厄介だぞ」


 「ええ。そうですね。彼の隣にいたアンジェリカと呼ばれる女。彼女の頭脳は群を抜いています」


 愛桜先輩は冷静に語る。


 「──もしアンジェリカが魔王による蓄積でのダメージを計算に入れている場合。止めをしに来ます。加え彼女の推理は通常とは異なりこちらの居場所も特定済みでしょう」


 「それほどか・・・」


 「あくまで推測です。ですが、彼女はホームズの血を引いている。推理力だけは侮れません・・・」


 「ホームズ....」


 私はその言葉に言葉を失う。


 「強力な知識を駆使してサポートに徹するか。あの二人相当な連携が可能だな」


 「ええ。アンジェリカの冷静かつ的確な推理、そして魔王 織田樹による蹂躙のごとくの力。この二つがかけ合わさっている今、こちらも生半可な力では挑めないということになりますね」


 生が倒れている今、あの二人を倒せる存在はいない。

 

 「さて、どうするか・・・」


 会長はメガネをクイッとやりそう言った。


 「──れが・・・倒す・・・」


 後ろから声がする。

 その声は生だった。


 「生・・・よかった。目が覚めたのね」


 椅子に座っている生は顔を上げずに倒すと言ったのだ。


 「境川...無謀だろう」


 「・・・・俺が・・・やらないと・・・・彼奴は・・・俺を恨んでいる・・・」


 「しかし・・・」


 「兄様がやるのなら反対はしないです」


 「ッ・・・」


 生の後ろからひょっこりとリアが顔をだす。

 二人はこの窮地に目を覚ましていた。


 「織田・・・は・・・樹・・・はもうそばまで来ている。時間がないから的確に指示を伝える」


 生は霞んだ声でそう言った。


 「兄様・・・」


 リアはその前に何か言いたそうにしていた。


 「・・・・?」


 「────っい」


 何を言っているかは聞き取れなかった。だけど、生の顔が少しだけ優しそうな瞳をしているのだけは見えた。


 







 「ここか」


 樹は生徒会室の前に立ちそう言った。


 「中に入るぞアンジェリカ」


 「待ってイツキ」


 「?」


 「ドアの前で待ち伏せている可能性は捨てきれないわ」


 「・・・なら天命で中だけを切り裂こう」


 そう言って一歩下がり刀を構える。


 「残虐/天命!!」


 ザン!!!ドゴーン!!!

 チンッと刀をしまって中に入る。


 「・・・誰もいない、か」


 奥を見るとそこには椅子に座っている境川の姿が見えた。


 「ッ境川!!」


 腰を低くしてダッシュの体制に入る。


 「待ちなさいイツキ。あれは罠よ」


 「なに・・・?」


 アンジェリカの声に樹は目を細める。


 (──二人・・・いや四人・・・居た形跡があるわね。引っ掛けではない・・・どこかに潜んでいる)


 目だけで辺りを見渡すが誰もいやしない。


 「誰が来ようが関係ない。まとめて殺してやる」


 スッと姿勢を元に戻して樹はそう言った。


 「喰らいな・・・"残虐/煉獄"」


 刀を円形に振るった。

 その瞬間、樹の周りから炎が出現する。


 「燃やしてやろう。この部屋ごとな!」


 樹がそう叫んだ時だった。

 ──キッ!!


 目の前からそんな視線を感じた。


 「ッ・・・!」


 シュッと炎が消える。


 「イツキの煉獄が消えた・・・?」


 樹の視線は境川を見ている。


 「闘士は死んでいないようだな。境川」


 「あれほどの重症だというのにまだ・・・」


 「いいだろう。まずは貴様からというわけか」


 コツコツと境川に近づく。


 「喜べ境川──まさか二度も始末することになるとはな」


 不敵な笑みを浮かべ樹はそう言った。

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