復讐はありきたり。慈悲は稀有なもの。【その弐】
「さあかかってこい境川。貴様の全てを壊し、殺してくれよう」
樹はそう言う。
「・・・・」
この狭い部屋で闘うのはいささか不利である。だが逃げる行為をすれば愛桜先輩と会長の命は保証されないだろう。
ましてやさっきのような遠距離技を使ってくる可能性だってある。
(厄介だな。おまけにリアの刀は教室に置きっぱなしだ。持って来れば良かったぜ)
まだ来ていないだろうと慢心したのが運の尽きだった。
助けを求めてもいいが、まだ授業中だ。あまり騒ぎにはしたくないから行動に移すこともできないな。
「さあどうした境川。来ないのか・・・臆したというのか?....クック・・・そんな貴様がシャルル様を・・・・」
笑っているが樹の声はどんどんと険しくなっていく。
「シャルル様を・・・殺したというのか!!!!!」
──ダン!!一瞬で間合いを詰めてきた。
刀を抜刀しそのまま俺の頭から切り裂こうとした樹・・・だが、俺はギリギリてその刀を近くに合った机の破片を使ってガードした。
「くっ・・・なんて・・・速さだ」
「貴様のような外道がシャルル様を殺めたというのか。許せん・・・・生かしておけるものか・・・・」
ギリギリと刀を押し込んでくる。こんなちっぽけな破片じゃ持たねえな。
俺はそう思ったから力を一瞬だけ抜いた。
「ッなに・・」
そのせいで樹は重心を崩す。
それついて俺は一瞬後退しそのまま回し蹴りを樹に向かって放った。
「おのれ・・・!」
キンと刀を使ってそれを上手くガードする。
だが、少しだけ吹っ飛ばされてくれた。一瞬で間合いを詰められるかもしれないが現状離れてくれてるだけで安心感はある。
「イツキ・・・苦戦してるようね」
樹の近くにこの闘いを見ていた女性が声をかけた。
「アンジェリカ・・・フン、思っていたより頭が回るやつだったまでよ。あの機転は厄介かもしれん」
「そう。貴方がそうと言うのならそうなのかもしれないわね」
銀色の髪の毛をした彼女はそう言って樹の隣に歩きよる。
「なら、私も闘いに"参戦"させてもらうわ。復讐はありきたりかもしれないけどこうした慈悲は稀有よ」
戦闘するという感じのタイプではない。だというのにアンジェリカと呼ばれた女性は俺の前に立ちはだかったのだ。
「勝手にしろ。ただ足でまといにはなるなよ」
「ええ。私はあくまでサポートするだけ。貴方が勝つように導くのが私の役目」
「では──行くか」
(・・・来る)
手は抜けない。俺は足に力を入れて時間跳躍を使おうとする。
「イツキ!右前方前、抜刀しなさい」
アンジェリカがそう言った。
俺が時間跳躍を使った瞬間だった。
彼女が指摘した位置、それは・・・・俺の移動した先だった。
(馬鹿な・・・俺の・・・1.5秒先のことを読んだ・・・!?)
樹はアンジェリカの指示の通りの場所で抜刀をする。
俺は攻撃をやめて急いで後退する。
おかげで樹の攻撃は何とか回避することができた。
「──俺の動きを・・・理解していたというのか」
命のように未来を見ることができるとは思えない。もしそうだとするのならもっと早く何か行動を起こしているはずだ。
だとすればなぜ俺の動きが分かったんだ。
「境川、アンジェリカが恐ろしく思えるだろう」
樹は刀を鞘に収めながらそう言ってくる。
「彼女は天才を超えた逸材、その象徴とも言っていい逸材者だ。私や貴様のように限界の頭脳を遥かに凌駕した存在なんだ」
「馬鹿な・・・ありえるのか」
後ろから会長の声が聞こえる。
「アンジェリカ。まさか・・・・・」
愛桜先輩はハッとなる。
「愛桜。知っているのか」
「え、ええ。Mr.Kから聞かされたことがあります。未来を見るのではなく『相手の動きを推測で当てる逸材者』が居ると」
「それがあのアンジェリカという奴なのか」
「そうです。"アンジェリカ・ホームズ"それが彼女の名前です」
二人の会話を聞いて俺は驚く。ホームズ。それはあのかの有名なシャーロック・ホームズの家系で間違いないだろう。
「その通りだ。アンジェリカはあのホームズ家の子孫なのだ。相手の動きを全て推理で当てるという究極の頭脳を持っている。頭脳戦で彼女に勝る者はいない」
(マジかよ・・・・)
「さあ、終わりの時が来たようだな境川。この究極の頭脳を前に貴様はどうでるかね」
──ピリ....今度は左袖が破ける。
これはさっき避けた攻撃が当たっていたということか。クソ・・・そろそろ限界か。
「上等だ──この攻撃の借りはこの場で返すぜ!!!」
俺は身体に思いっきり力を解放させる。
ドォォォ!!!という風圧で近くの椅子や机は全て壁際に吹っ飛んだ。
──ビュン、と俺はその場から姿消す。
「イツキ!上よ」
「上か!!」
樹は上を見上げる。
そこにはクルクルクルと回転しながら俺が腕を思いっきり振りかざす瞬間だった。
「ちぃ!」
間一髪で樹は身をかわす。
地面に着地した俺はそのまますかさず拳の連撃を放つ。
「フン・・・」
だがしかし樹はそれをも全てギリギリて避ける。
チャキ、と刀を抜き
「消えろ」
ザザザン!と俺に向かって三回切りつけた。
「・・・ガッは・・・・」
その音とともに血がいっぱい飛び散った。
ガクッと膝から崩れ落ち俺は足が崩れた。
「はあ!!」
樹の手から放たれた拳の一撃で壁際に一気に吹っ飛ばされる。
「・・・・もう終わりか。なぜ貴様がシャルル様に勝てたのか謎に思えるよ」
チン──と刀をしまう。
「・・・・・・」
「死んでいるか」
「いや、まだよイツキ」
「ほぉ、息があるか」
「速やかに止めを刺すことね」
「なら、"天命"で終わりだな」
遠距離の技で止めを刺そうとする。
──ガッシャアアアアン
突然窓が割れた。
「・・・ん?」
「兄様!!」
窓からリアが飛び入って樹の攻撃を阻止した。
そしてリアは俺の方に駆け寄ってくる。
「彼奴は・・・・ルノアベル・・・」
「脱獄犯じゃないですか」
その言葉に会長も愛桜先輩も目を見開いて驚いている。
「兄様・・・しっかしりてです」
だけど俺は反応することができない。結構な重症なせいだ。
「兄様・・・・」
「ルノアベル。どこにいると思えば境川の元にいるとはな。丁度いい。貴様も殺してやろうじゃないか」
「兄様と同じ瞳・・・・魔王・・・・」
「奇しくも同じ瞳をしていたまでだ。出身も違うのだ。そんな雑魚の逸材者と同じにしないでくれたまえ」
「許さないです・・・・私がお前を・・・倒す」
──シュンと刀を瞬時に出現させる。
「ほぉ、貴様も剣使いか」
樹はちょっとだけ驚いていた。
「この刀は脆いかもです・・・でも・・・負けないです」
リアの瞳は俺と闘った時よりも激しく輝いていた。




