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逸材の生命  作者: 郁祈
第五章 復讐の魔王編
80/130

復讐はありきたり。慈悲は稀有なもの。【その壱】

 ──夜、ついに訪れてしまった。

 魔王の逸材者、織田樹・・・彼はついに東京に到着を果たした。


 「ここが・・・東京・・・」


 「このどこかに境川生はいるのね」


 高い山の上からアンジェリカと樹は東京の景色を見渡す。

 思っていたよりも少しだけ早かった到着。魔王の蹂躙(じゅうりん)がついにこの東にも訪れてしまうのだろうか・・・・・。


 「待っていろ境川ッ」


 彼を目指し樹は最後の進軍を始めた。








 

 「そろそろだな」


 突然俺はそういった。


 「ど、どうしたの生・・・」


 命はいきなり俺がそう言ったものだから驚いてこちらをまじまじと見ていた。


 「そろそろ魔王の逸材者がここ東京に来る頃合だなと思うんだ」


 「早くない?」


 「いや、こんなもんだろう。前に会長に伊吹が負けたことを知らされた時考えた。伊吹が魔王に接触できる範囲ということは恐らくこの近くまでやってきているということが想定できる」


 今は夜。恐らくまともに行動し俺に接触するのは明日の朝か昼。つまり決戦は学園で起こる可能性が十分に高い。


 「だが、これはあくまでも俺の予測に過ぎん。場合によってはまだ先かも知れない・・・」


 「──いや、もう来てるです」


 隣に座っていたリアがそう言った。


 「どういうことだリア?」


 「ついさっき嫌な気配を感じたです。恐らく魔王がこの地に入ってきたことを意味するかのような・・・・」


 俺には感じなかった。命も感じていないはずだ。だけどリアには伝わっている。それは生粋の逸材者が故になのかもしれない。

 つまりこの東京にいる極僅かの逸材者が感じ取ったのかもしれないな。魔王がこの地にやってきていることを。


 「上等だ・・・来るなら来い。こっちは準備万端だぜ」


 机の上に置かれた一本の刀。リアから借りている刀だ。俺はこれを使って魔王と闘う。

 向こうはどんな武器か。はたまたどんな能力か。まだ分からない。だけど無関係の人々を殺してきたあいつに負けるわけにはいかない。

 俺がここで止めなければきっと魔王を倒す者は永遠に現れないだろうし。俺を恨んでいるのならなおさらだ。俺がケリをつけるまでだ。


 「兄様・・・」


 「生・・・・」


 二人は俺を心配そうに見つめてくる。


 「この場にルナさんはいないけど・・・きっとルナさんも生が勝つことを願っていると思うわ」


 ルナ・・・アメリカから来た逸材者。シャルルとは家族関係だった模倣を得意とする才女だ。

 彼女は俺の家に一時期的に住んでいたこともあり、この家にはルナという存在がいなくてはならない感じになっている。

 命、リア、ルナ・・・そして俺。この四人はこの家に住んでいる仲間だ。命はとなりが本来の家だけどこうしてこっとに来ている時間の方が長い。リアは俺の家で匿っている存在だ。俺はこいつらとただ平穏に生活をしたいだけ。その障害になるものは全てねじ伏せるだけ。

 

 「・・・ああ。そうだな」


 次にルナと会うまでくたばるわけには行かない。だから俺は余計に負けることはできなくなったのだった。

 闘いの覚悟を胸にして俺たちは睡眠を取った。こう見えても明日は普通に学校だからな・・・。








 ──朝、何事もなく学園には到着していた。

 何も起きず授業を淡々と受けているだけ。正直退屈だった。目に力を入れて遠くを見渡しているが、どこにも魔王の逸材者らしき人物は見当たらない。

 それどころか、静かで鳥たちも何も察知していない。


 (本当に来ているのか・・・・)


 生粋の逸材者であるリアは既にこの東京県内に入っていると言っていたがどうにも怪しい。

 俺の目にもまだ入っていない状態だ。本当に来ているのだろうか。


 


 一方で生徒会長の方で。


 「ああ。分かったスグに行く」


 会長は何かに答えるようにしてスタスタと廊下を歩いている。

 授業中だというのに彼は忙しそうだった。


 「会長、どうかしましたか?」


 隣で愛桜(あいさか)がついてくる。


 「愛桜か・・・授業中だぞ、と言いたいがそれどころではない。この学園に客が来たみたいでな」


 「客・・・ですか?」


 会長はメガネをクイッと上げそう言った。


 「ああ。西・・・愛知の方からのお客さんのようだぞ。我々と同じくして高校生のな」


 「そんな遠くからどんな要件で・・・」


 「さあな。ただ。とても穏やかな雰囲気の人のようだぞ」


 そう言って会長は控え室にノックをして入る。

 そこにいたのは男の人と女の人だった。


 「お前たちが・・・」


 会長がそう言うと男は席をったって軽いお辞儀をした。


 「この度西の地から参りました、"樹"と申します」


 「これは態々・・・一体どんな要件できたのだ」


 会長は何も反応のない感じだったが、樹と呼ばれた男と目が合いゾッとしていた。

 彼は生気を感じられないのだ。あの死んだような瞳はまるで境川のような感じ。


 「要件・・・・ですか」


 樹はニヤリと笑う。

 となりで座っている女性もクスクスと少しだけ笑っていた。


 ──キン・・・!

 会長の手に刀が刺さる。


 「ッ・・・会長!!」


 「騒ぐな!!愛桜!!」


 会長はそう叫んだ。


 「くっ・・・貴様・・・まさか・・・!」


 「そうだよォ。今頃気づいたか。俺は織田樹──魔王の逸材者だ」


 「西の方から来た・・・そう聞いたとき一瞬そうでないかと思った。だが、貴様のような殺気を隠した逸材者はそうはいないだろう。気づけなかった・・・これは不覚かもしれないな」


 「余裕そうだな会長さん。お前、一般人だろ?それ、痛いだろ」


 刀をグググと押し込む。手のひらに刀がどんどんと奥に入っていき痛みが会長を襲う。


 「ッ・・・・」


 「ほぉ、声を上げないのは賢い行いだ」


 「あえて聞こう。貴様の目的は・・・なんだ・・・・」


 わかっている。だけど念のため会長は樹にそう聞く。


 「愚問だな。私がこの地にやって来た理由はただ一つ──」


 ブシュウウウ・・・刀を引っこ抜く。それと同時に会長の手からは血が少しだけ飛び散った。


 「私が目指しているのは」


 刀を構え会長の首を切ろうとした瞬間、


 「──この俺だろ?」


 ドアの方から声がした。


 「・・・・・境川」


 会長は虚ろになった目で境川の方を見る。


 「お前が魔王か」


 「貴様・・・境川か」


 「驚いたぜ。俺の目に止まらない間にこの学園に入ってきているとはな。万が一ってことで授業を抜け出してきてよかったぜ」


 「逃げろ・・・境川」


 片腕を抑えながら会長はそう言った。


 「黙ってろゴミが」


 ドンと会長を蹴り少し遠くに飛ばす。


 「ッ!!お前・・・」


 「ほぉ怒るか。結構だ・・・・だが、私はそれ以上に貴様を憎んでいるのだ!!!」


 ──ビュン、樹はその場から消えたかのように素早い移動で境川に迫る。


 (速い!)


 シュ──と樹は鞘から刀を抜き境川を切ろうとする。

 だが、その間合いでは届かない。


 (距離が足らない。血迷ったか魔王・・・)


 「残虐/天命・・・!」


 樹がそう放った瞬間、境川は何かに気が付く。


 「まさか・・・ちぃ!!」


 バッと右に身体を倒した。

 

 ザン、ザザザン・・・机や壁が遠くにあるというのに樹の目の前にある物は切られていた。


 (馬鹿な・・・刀先から飛ばした風圧で物切断するなんて・・・だが危なかった。間違えれば俺は死んでいたかもしれないな)


 ピリ...制服の袖が少しだけ切れる音がする。


 (ッ・・・・)


 そのとき境川は何かを悟った。

 そしてグッと全身に力を入れて立ち上がる。


 「さあかかってこい境川。貴様の全てを壊し、殺してくれよう」


 キンと刀を鞘にしまいそれを突き出して樹はそう言った。

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